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過労死・過労自殺の質問コーナー

2021年8月25日 (水)

認定基準改正に向けての専門検討会報告書では

 労働時間以外の負荷要因として、どのような業務を挙げていますか。また、その負荷の評価方法について、どう定めていますか。

1 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的考慮
本年7月7日に発表された「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」では、「過労死ライン」には至らないが、これに近い時間外労働が認められる場合には、特に労働時間以外の他の負荷要因の状況を総合的に十分に考慮して判断するとしています。
そのうえで、労働時間以外の負荷要因としてつぎのような勤務を示したうえで、それぞれの負荷要因の検討の視点について述べています。

2 労働時間以外の負荷要因とは
*勤務時間の不規則性

・拘束勤務の長い勤務
「拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時間数及び回数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること」、「なお、1日の休憩時間がおおむね1時間以内の場合には、労働時間の項目における評価との重複を避けるため、この項目では評価しない」
・休日のない連続勤務
「休日のない(少ない)連続勤務については、連続労働日数、連続労働日と発症との近接性、休日の数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること」、「その際、休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に、休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すものであることを踏まえて適切に評価すること」
・勤務間インターバルが短い勤務
「勤務間インターバルが短い勤務については、その程度(時間数、頻度、連続性等)や業務内容等の観点から検討し、評価すること」
「勤務間インターバルが短い勤務については、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること」
・不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務については、予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度・事前の通知状況、予定された業務スケジュールの変更の予測の度合、交替制勤務における予定された始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のため夜間に十分な睡眠が取れない程度(勤務の時間帯や深夜時間帯の勤務の頻度・連続性)、一勤務の長さ(引き続いて実施される連続勤務の長さ)、一勤務中の休憩の時間数及び回数、休憩や仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容及びその変更の程度等の観点から検討し、評価すること」
改正前の認定基準では「交代制勤務・深夜勤務は、直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではないとされていることから、交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。」としていました。新認定基準では、交替制勤務がスケジュールどおり実施されたり、日常業務が深夜時間帯である場合も含めて、生体リズムやその位相のずれによる負荷要因として認めている点が重要です。
*事業場外における移動を伴う業務
「出張の多い業務については、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、出張が連続する程度、出張期間、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、出張先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張中の業務内容等の観点から検討し、併せて出張による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
ここで、飛行による時差については、時差の程度(特に4時間以上の時差の程度)、時差を伴う移動の頻度、移動の方向等の観点から検討し、評価すること。
また、出張に伴う労働時間の不規則性についても、前項により適切に評価すること」
なお、「出張」に該当しない事業場外における移動を伴う業務も負荷要因としている点が注目されます。
*心理的負荷を伴う業務
「心理的負荷を伴う業務については、別表に掲げられている日常的に心理的負荷を伴う業務又は心理的負荷を伴う具体的出来事等について、負荷の程度を評価する視点により検討し、評価すること」
精神障害の認定基準に準じた業務による心理的負荷の評価表で評価するとしています。
*身体的負荷を伴う業務
「身体的負荷を伴う業務については、業務内容のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業量、作業時間、歩行や立位を伴う状況等のほか、当該業務が日常業務と質的に著しく異なる場合にはその程度(事務職の労働者が激しい肉体労働を行うなど)の観点から検討し、評価すること」
*作業環境
「温度環境については、寒冷・暑熱の程度、防寒・防暑衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖・冷却の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度、水分補給の状況等の観点から検討し、評価すること」
改正前の認定基準は、高温環境は一般的に発症との関連は考え難いとしていましたが、新認定基準は負荷要因として評価するとしています。
「騒音については、おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等の観点から検討し、評価すること」

3 労働時間以外の負荷要因が認められれば、労働時間が「過労死ライン」に達しなくても、十分留意される
前回のブログでも述べたとおり、専門検討会報告書は、1か月当たりおおむね65時間から70時間以上の時間外労働に加えて、「労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分留意すべきである。」(49頁)としています。
この専門検討会報告書の内容に基づいて、厚労省が「過労死ライン」にどの程度達していなくても(65時間から70時間以上というのが一つの目安になるでしょう)、また、他の負荷要因の強さがどの程度のものであれば業務上と判断する認定基準を定め、当事者・遺族の救済を広げるのか注目されます。

2020年6月11日 (木)

過労死の労災認定での業務の質的過重性はどの程度必要でしょうか。

労働者の勤務は、営業職、事務職、運転手、医師・看護師、工員等多様であり、また同じ職種でも、その勤務の質的なしんどさ(過重性)は異なるのは当然です。
また、社内での地位・責任、更には性格やそれに基づく業務への取り組み方もそれぞれです。
脳・心臓疾患の過労死の労災認定では、既に述べたように発症前の労働時間が重視されますが、認定基準では勤務の質的過重性につきどの程度のものを想定しているのでしょうか。
認定基準についての「留意点等について」を定めた通達(認定基準と同時に発出され一体性を有する)は、「このような時間外労働に就労したと認められる場合であっても、例えば、労働基準法第41条第3号の監視又は断続的労働に相当する業務、すなわち、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない場合や作業自体が本来間歇的に行われるもので、休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低いと認められるものについては、直ちに業務と発症との関連性が強いと評価することは適切ではないことに留意する必要がある。」と定めています。
この通達の考え方によれば、監視・断続労働等、労働密度が特に低い勤務でなければ、発症前6か月の時間外労働が認定基準をおおむね超えていれば業務上と判断されることになります。
長時間労働はあったけど、手待時間・待機時間(いずれも労働時間と認められる)があったとしても、認定実務では通常は業務上と認められています。

つぎの回では、労働時間が認定基準に達しない場合は業務上とされないのかどうかについて考えてみます。

2020年5月14日 (木)

発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超えるとは

認定基準は、発症前1か月間に時間外労働がおおむね100時間を超えるときは、それのみで業務上と判断するとしています。
これに該当しなくても、時間外労働が発症前2か月間ないし6か月間に月当たりおおむね80時間を超えるときは、同じく業務上と判断するとしています。
この基準を発症前6か月間継続して月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が必要なのではと考えている方もいるかもしれません。
この点につき、認定基準と同時に発出された「留意点通達」(基労補発第31号・ご連絡(プロフィール参照)して頂ければ送付します。)によれば、「発症前2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間のいずれかの期間」で1か月当たりおおむね80時間を超えるとしています。
ですから、つぎのようなケースも業務上となります。

例①

期 間 時間外労働
発症前1か月 60時間
 〃 2か月 100時間

1か月の月当たり時間外労働=(60+100)÷2=80時間

例② 

期 間 時間外労働
発症前1か月 40時間
 〃 2か月 80時間
 〃 3か月 50時間
 〃 4か月 100時間
 〃 5か月 80時間
 〃 6か月 130時間

(40+80+50+100+80+130)÷6=80時間

更には、発症前1か月前に仕事をやめて休職中であったとしても、2か月から6か月の間の時間外労働の合計が480時間を超えれば、6か月間の月当たりの時間外労働は、480時間÷6=80時間
となり業務上と判断されることになります。

では、仕事のしんどさの軽重に拘らずこの時間外労働が認められれば業務上となるのでしょうか。
次回はその点を検討しましょう。

 

2020年5月 1日 (金)

過労死・過労自殺の質問コーナー                *このコーナーの新設について*

このブログを通じて、過労死・過労自殺についてのご相談についてのコーナーを新たに開設しました。
ご質問・ご相談については、このブログのトップにあるプロフィールを通じてお気軽にご連絡ください。

質問 過労死では、時間外労働時間という言葉がでてきますが、会社が給与計算するときの残業時間と同じと考えていいのでしょうか。その計算方法について教えて下さい。

回答 脳・心臓疾患の過労死について、認定基準は時間外労働が、
・発症前1か月におおむね100時間
・発症前2か月間ないし6か月間で、平均で月当たり80時間
を超えたときは、原則として業務上と認定されるとしています。
この時間外労働は、労働基準法が定める原則的な週40時間を基準として、それを超える労働時間のことです。
会社が給与明細に記載している残業時間は、会社の就業規則で定めた所定労働時間を超える労働時間だと思います。
ですから、認定基準の時間外労働と、給与明細に記載されている残業時間(=所定外労働時間)とは異なります。
また、給与明細には休日労働時間は残業時間とは別の欄に記入していると思います。
認定基準の時間外労働は、それぞれの会社で異なる所定労働時間や、休日労働時間を合計した時間ではなく、週40時間を超える労働時間を時間外労働としています。
ある週(=7日間)の労働時間(実労働時間ですから、拘束労働時間から休憩時間を差し引いたもの)が62時間であれば、そこから40時間を差し引いた22時間が時間外労働となります。
認定基準は「月」という言葉を使っていますが、時間外労働を算定するにあたっては、30日を1か月としています。
ですから、

  労働時間(A) 時間外労働((A)-40時間)
発症前1週間目 62時間 22時間
 〃 2週間目 58時間 18時間
 〃 3週間目 65時間 25時間
 〃 4週間目 59時間 19時間

と計算し、4週間(28日間)の時間外労働は84時間になります。
残りの2日間(30日-28日)の計算については、厚労省の実務要領(労基署の認定マニュアル)ではつぎのとおり計算するとしています。

20200430105239001 20200430105239002

この計算方法で、月100時間を超えれば、発症前1か月の時間外労働のみで、原則として業務上と判断されます。
つぎの質問コーナーでは、「発症前2か月間ないし6か月間」についての質問に回答する予定です。

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