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企業賠償責任

2016年4月 1日 (金)

陸上自衛隊員の長時間勤務と過重な訓練による過労死事件の和解成立

過労死・過労自殺は、心身の健康を損ねる労働時間管理や業務管理について配慮が怠られている現場であれば、その職種を問わず生じている。自衛隊員についても例外ではない。

私は、陸上・海上・航空の各自衛隊員の過労死・過労自殺事件を担当している。

本年3月、広島地裁で係属中であった、中高年令者の陸上自衛隊員が、長時間勤務と早朝の寒冷下での持久走訓練が行われるなか、持久走訓練でゴールした直後に心筋梗塞を発症した事件についての国家賠償請求事件で和解が成立し、国がご遺族の妻に対し賠償金を支払うことで解決した。
この隊員には狭心症の既往があったにも拘らず、健康状態について配慮することなく、他の隊員と同様、過重な勤務に就くなか亡くなっている。
平成19年3月に亡くなった後、ご遺族の奥さんは、隊員としての過重な公務によるものと考え、陸上自衛隊中部地方総監に対して公務上の判定を求めたが、公務外と判定され、更に防衛大臣に異議申し立てをし、ようやく公務上との判定が下っている。

自衛隊員のパワハラ・いじめによる自殺事件が問題となっているが、隊員の年令や健康状態に配慮した勤務時間や訓練内容の検討が求められることを、この事件を担当するなかで感じた。

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2016年3月15日 (火)

過労自殺した松山市新入職員の件についての和解成立と、遺族である「お父様へのお便り」のメール

平成23年4月に大学新卒で松山市職員として採用され納税課に配属されたJさん(当時22才)は、入職半年後の9月5日に自殺した。

入職して納税課で担当した滞納案件は450件~500件だったが、7月には先輩職員と同様1300件~1400件と3倍に増加した。その結果Jさんの8月の時間外勤務は100時間を超え、うつ病を発病し自殺に至っている。

ご両親は松山地裁に松山市を被告として損害賠償訴訟を提訴し、本年1月20日松山市の責任を認める和解が成立した。

和解後、Jさんのお父様はNHKの取材を受けたが、和解が成立したことについて、「父親としての最低限の役割を果たしたと思う」と謙虚なコメントを述べた。
NHKのこのニュースを見たというKさんから、「私も亡くなられた彼と同様の厳しい立場に立った経験があり、筆をとらずにはおられず、お便りをさせて頂きました」と、私宛に「亡くなられた青年のお父様へ」と題するメールが届いた。

お父様の「最低限の役割」とのコメントに対し、「お父様が果たされたのは『最低限の役割』なんかではないです。父親として、人として『最大限の役割』を果たされたと、私は思っています。」と述べ、「これからも、お父様が裁判を戦い抜かれたことによって、道が開け、救われる若者が数多く出てくることでしょう。」と語っている。

このメールを読んだとき、私にはある作家の小説の最後に出てくる、「希望とは道のようなものだ、はじめはあるかなきかだが、多くの人が歩むことで道はできる」との言葉を思い出した。

かつて過労死、とりわけ過労自殺は社会的に認知されず、労災認定さえ極めて困難で、損害賠償責任を問うのはラクダが針の穴を通るようなものと言われていた。
しかし、遺族、被災者が、あるかなきかの困難な道を一人歩み、二人歩み、そして多くの人たちが歩むなかで救済の道は拓け、一昨年には、遺族らが100万人署名に取り組むなかで、国会で全会一致で過労死等防止対策推進法が成立するに至っている。

このメールをお父様にすぐ転送した。息子さんの命を失った悲しみを、このKさんのメールが少しでも癒やすことができればと思う。

2015年1月 7日 (水)

何が久人さんを過労死させたのか

ファミリーレストラン「まるまつ」酒田店店長代行をしていた五十嵐久人さん(死亡当時25才)が過労死した事件で、山形地裁鶴岡支部で同店を経営していた「カルラ」(本社宮城県)との間に平成26年12月8日和解が成立しました。会社が労働時間や健康管理に不備があったことを認め謝罪し、原告であるご両親に弔慰金を支払うほぼ完全勝訴の内容の和解です。私の事務所のある大阪から山形県鶴岡市まで度々通った感慨深い事件の1つでした。
ご両親の知人、友人らが「道の会」という裁判支援の会をつくり、過労死防止法制定のための署名や、ご両親の地元の三川町や鶴岡市、酒田市等の町・市議会で制定のための意見書を国会に提出する運動に尽力してきました。
「道の会」を解散するにあたり寄稿した文を紹介します。

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              何が久人さんを過労死させたのか

                               過労死弁護団全国連絡会議代表幹事
                                      弁護士  松  丸     正

1 久人さんの過労死
 株式会社カルラは「和風レストランまるまつ」等の外食店舗を東北・北関東地区において経営する会社です。
 故五十嵐久人さん(死亡時25才)は、大学を卒業したのち平成21年4月にカルラに就職し、同年3月23日より「和風レストランまるまつ酒田店」で店員として勤務を開始しました。平成22年3月1日には入社1年もたたずして店長代行に昇進し、まるまつ酒田店の営業の責任者となっています。
 久人さんは平成23年2月に会社より栃木県内の24時間営業の店舗への転勤を求められましたが、今まで以上に過重な業務となることや、自宅のある山形を離れたくなかったことから、同年3月15日付けで退職することとし、同年2月22日以降は有給休暇を使い就労していませんでした。
 しかし、久人さんは平成23年3月21日午前5時ころ、自宅において心筋梗塞(死亡診断書上の直接死因の病名)を発症し亡くなったのです。

2 久人さんの労働時間
 会社が把握していた久人さんの時間外労働時間は、
  発症前1ヵ月目 0時間
   〃 2ヵ月目 14時間
   〃 3ヵ月目 28時間
   〃 4ヵ月目 52時間
   〃 5ヵ月目 60時間
   〃 6ヵ月目 41時間
でした。
 しかし、裁判のなかで明らかになった警備記録等に基づく実際の時間外労働時間は、
  発症前1ヵ月目 14時間
   〃 2ヵ月目 112時間
   〃 3ヵ月目 142時間
   〃 4ヵ月目 170時間
   〃 5ヵ月目 193時間
   〃 6ヵ月目 180時間
でした。
 厚生労働省が定めた過労死の認定基準は、月80時間の時間外労働を過労死ラインとしていますが、久人さんの発症前の時間外労働はその2倍あるいはそれ以上の常軌を逸した長時間労働でした。

3 社長の「稼働計画は絶対」との命令の下で「偽造」された労働時間
 なぜ、会社が把握した労働時間と実際の労働時間との間に著しい食い違いが生じたのでしょうか。
 この会社の社長は「稼働計画は絶対」との下に、社員に対し「稼働計画」=勤務予定にあわせてタイムカード(IDカード)の打刻をすることを命令し、社内報でもその徹底を指示していました。
 タイムカードは実際の出・退勤にあわせて打刻するのが当然ですが、この会社では稼働計画にあわせて打刻することを社員に強制し、稼働計画に組み込まれた時間外労働時間のみを時間外労働として把握していたのです。稼働計画にあわせたタイムカードの打刻により虚偽の労働時間がつくられていたと言っても過言ではありません。労働時間を適正に把握することにより長時間労働が生じないようにして社員の心身の健康を守ろうとする姿勢は、この会社には認められませんでした。
 久人さんの過労死に限らず、過労死や過労自殺の背後には、このような会社による労働時間の適正把握の懈怠があります。

4 実際の労働時間を明らかにするなかでの和解成立
 裁判のなかでの弁護団の立証は、隠された労働時間を警備記録という嘘のない客観的な記録をもって明らかにすることに注力しました。
 また、発症前1ヵ月間は久人さんは会社を退職することにして仕事をしていなかったので、発症前2ヵ月目以前の長時間労働と発症との相当因果関係を明らかにすることも重要な争点でした。
 久人さんの事件は、2年間の裁判を経て平成26年12月8日裁判上の和解が成立しました。成立にあたり裁判長は、原告であるご両親に対し久人さんが亡くなったことについて哀悼の意を述べるとともに、被告のカルラに対しては社員の労働時間並びに健康管理に尽力するようにとの言葉を添えていたのが印象的でした。

5 若者が夢をおいかけ生き生き暮らせる社会であってほしい
 久人さんは亡くなる1ヵ月程前、あまりに過酷な勤務に耐えかねて母親の照子さんに、「お母さん見ていて分かると思うけど、今の仕事やめるかも」と話し、退職を決めています。
照子さんは新聞の読者のページにこのことを投書しましたが、その投書が掲載された翌日に久人さんは帰らぬ人になっています。その投書は「早くやめた方がいいよともいえず見守る親もつらい。若者が夢をおいかけ生き生き暮らせる社会であってほしい」と結ばれています。
 「道の会」による自治体の意見書提出の運動の力もあって、過労死等防止対策推進法が成立しました。過労死防止元年と言える今、久人さんのような悲しい出来事が起きることがないよう、過労死防止への「道」を広く踏み固めていきましょう。

2014年1月 9日 (木)

社長らトップの個人責任と、就活情報からみた大庄日本海庄や過労死事件

1 新卒就職後4ヵ月目の過労死
東証一部上場企業である大庄が経営する日本海庄や石山駅店に、大学を卒業し正社員として平成19年4月1日から勤務していた故吹上元康さん(当時24才)が、入社してわずか4ヵ月にして心機能不全で死亡した。
元康さんの労働時間は、「死亡前の1か月間では、総労働時間約245時間、時間外労働時間数約103時間、2か月目では、総労働時間約284時間、時間外労働時間数約116時間、3か月目では、総労働時間約314時間、時間外労働時間数約141時間、4か月目では、総労働時間約261時間、時間外労働時間数約88時間となっており、恒常的な長時間労働となっていた」(地裁判決の認定)。
弁護団は大津労基署長に対し、業務上の死亡として遺族補償給付等の支給請求を行い、平成20年12月10日付けで業務上として支給決定が下された。

2 京都地裁への大庄、更に取締役に対する損害賠償請求
元康さんの父母は、同年12月22日に大庄のみに対する損害賠償請求を提訴した。
しかし、元康さんの命を奪った責任は、長時間労働を前提とする賃金体系や三六協定をつくりあげたトップにあり、この取締役の責任を抜きにしてこの過労死事件を語ることはできない。翌21年1月8日に会社法429条1項に基づき代表取締役社長並びに当時管理本部長、店舗本部長、第1支社長であった取締役3名の計4名を被告とする訴訟を追加提訴し、大庄を被告とする事件と併合して審理することになった。

3 社長らを被告に加えた理由
会社法429条1項(旧商法266条の3)は、取締役がその業務の執行を行うにつき、悪意又は重大な過失により第三者(労働者も含まれる)に損害を与えたときは、取締役は個人としてもその責任を負うことを定めている。
大庄事件以前にも、過労死の損害賠償請求事件でこの条文に基づき、会社のみでなく社長ら取締役の責任を追及する訴訟は、大阪を中心に少なからず取り組まれ勝訴判決を得てきた。しかし、これらの訴訟で取締役を被告に加えた理由の多くは、会社が小規模なため勝訴した場合においてもその支払い能力がなく、損害が填補されないおそれがあることにあった。
大庄は東証一部上場企業であり、そのおそれはなかったが、社長らを被告にした理由は、過労死を生み出す社内体制を構築したトップの責任を明らかにする、それにより過労死を防止する社内体制を構築させることであった。

4 大庄の賃金・労働時間体制
大庄では新卒一般の初任給は当時月194,500円とされていたが、基本給123,200円、役割給71,300円とされており、役割給は月80時間の時間外労働分の賃金とされていた。
月80時間の時間外労働は過労死ライン(厚労省の過労死の認定基準では発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間に月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるときは原則として業務上と判断される)である。
心身の健康を損ねるおそれのある長時間労働が元康さんら社員の「役割」として賃金体系上位置づけられていた。
三六協定は特別条項で時間外労働を「1ヵ月100時間(回数6回)」を限度として延長することができると定められていた。
このような賃金・労働時間体制の下、社員は元康さんの勤務していた石山駅店のみならず、他の店舗においても過労死ラインを超えて働くことが常態化していることを、裁判で明らかにしていった。

5 京都地裁、大阪高裁の判決
京都地裁判決は平成22年5月25日「恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提とした一見して不合理であることが明らかな労働時間(三六協定)・賃金体系の体制」をとっていたとして、大庄のみならずその社長ら取締役4名の個人責任(会社法429条1項の責任)を認める判決を下した。
これに対し被告らは大阪高裁に控訴し、会社側は三六協定や賃金体系につき、「その体制は経営判断事項であり、労災認定上の基準時間はその一要素にとどまる。」としたうえ、どのような体制をつくるかは、「経営判断事項にあたり、労災認定上の基準時間は経営判断における裁量権限の行使が著しく不合理とは言えないかどうかを判断するにあたって、検討の一要素である社会情勢等の一事情になるにすぎない。」と言い放った。同時に同業他社の三六協定(例えば、ワタミフードサービスの特別条項は月120時間)を提出し、外食産業の三六協定では過労死ラインを超えた時間外労働があたりまえとなっていることを主張した。
大阪高裁は平成23年5月25日に控訴棄却の判決を下した。
高裁判決は「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である。」と判示した。
過労死ラインを超える労働時間、賃金体系をとるか否かは経営判断とする会社側の主張に対し、労働者の生命・健康は至高の法益として、誠実な経営者であれば長時間労働による過重労働を抑制するのが当然の責務としたこの判決は、大庄のみならず過労死ラインを超える三六協定や賃金体系をとっている企業に対する大きな警鐘を打ち鳴らしたものと言えよう。

6 最高裁の上告棄却、上告不受理決定
大庄と社長ら取締役は、最高裁に上告並びに上告受理申立を行った。上告受理申立理由書はつぎの言葉で結ばれている。
「高い志を持った従業員を大切に育てたい、やる気を持ち続けてほしいという思いから、申立人会社では『社員が幸せでなければ会社とは言わない』という大原則に基づき、『親が子どもに与えるような見返りを求めない愛』を従業員らに与え、従業員らが来店したお客様に愛を与えていくという『愛の経営』を目指して実践してきた。そして、志の高い従業員のためのインセンティブとして『大庄8大制度』(ストックオプション制度、従業員持株制度、所得倍増制度、持家(住宅資金融資)制度、独立制度、持店(ダブル・インカム)制度、執行役員制度、Uターン独立制度)を整備・実施し、福利厚生にも力を入れている。
志が高く向上心が強い申立人会社の従業員たちの中には、早く自らの技術を向上させたいがために、日夜研鑽に励む者もいる。しかし、申立人会社では、そういった従業員たちのやる気を尊重しつつも、健康であることや健全な家庭を築くことも申立人会社の従業員として、また将来の起業家として重要であるという考えから、過重労働に陥ることのないよう各店舗の状況に応じて法定時間以上の休憩時間を確保し、従業員らは仮眠を取ることもできていた。勤務のあり方については店長から個別に注意を促したり、細かい心配りをし、適宜休みを取らせるなどの柔軟な対応によって従業員の健康管理にも心を尽くしてきた。
このように、従業員らを何よりも大切にしてきた申立人会社にとって、原審の認定は極めて心外であり、御庁による是正を心から願うものである。」
最高裁は平成25年9月24日付けで、上告棄却・上告不受理決定を下している。
親が子どもに与えるような見返りを求めない「愛の経営」、志の高い従業員のためのインセンティブとしての「大庄8大制度」の「夢の経営」との言葉の下で、恒常的長時間労働が全社的に常態化する社内体制がつくられてきたことを、この事件は明らかにすることができたと言えよう。

7 過労死防止をトップに突きつけた裁判
現在、過労死防止基本法の制定を求める運動の下、同法の制定に向け国会で議連が制定され、法案上程への動きが高まっている。また、若者の労働現場を中心とした「ブラック企業」問題が社会的に注目を浴びている。社長ら取締役にも厳しく、その個人責任を指摘した地裁・高裁判決、並びに上告棄却・上告不受理決定は、過労死ラインを無視した賃金体系や三六協定による労務管理を行っている多くの会社のトップ(取締役)に対し、その個人責任を明確にすることにより、その是正措置をなすべきことを突きつけたものと言えよう。

8 就活情報の問題点
元康さんが就職をした平成19年4月当時の大庄の就活情報によれば、初任給は194,500円と記載されたのみで、そのうちには月80時間分の時間外労働分に相当する役割給71,300円が含まれていることは記載されていなかった。就活情報(日経ナビ)には初任給は「残業代別途支給」として記載されていた。
大庄の就活情報における労働条件についての非開示は現在も継続している。
「就職四季報2014年版」(東洋経済新報社刊)によれば、「3年後離職率」「有休消化年平均」「初任給」「ボーナス」「年令別最高最低賃金」「有休消化」「平均勤続年数」「月平均残業時間と支給額」「離職率と離職者数」は全て「NA」(ノーアンサー)となっており、開示率は最低の星マーク1つとなっている。
正しい就活情報を開示させることは、学生の就活にとって不可欠であるとともに、社員の労働条件の改善にも重要性を有する課題である。厚労省は来年度からハローワークを通じ大学生・院生を採用する企業に、離職率についての公表を任意であるが求めるとしている。就活生が、企業の労働条件につき就活時に質問することは困難であり、かつ労働条件についての情報は就活生にとって重要な事項であることを考えると、離職率のみならず、「就職四季報」に記載される全ての情報につき開示することを義務づけるべきであり、その旨の職業安定法の改正も求められる。

9 社長ら役員らによる会社に対する賠償金の支払い
大庄が平成25年11月28日に関東財務局長に提出した有価証券報告書は、「重要な後発事象」として、
「当社及び当社役員4名は、当社元従業員が平成19年8月に自宅で心臓性突然死したことに関し、遺族より、損害賠償金の支払いを求める訴訟を提起され、平成22年5月に京都地方裁判所より、損害賠償金78百万円及び遅延損害金の支払いを命ずる判決が下されました。また、平成23年5月に大阪高等裁判所より、当社らの控訴を棄却する判決が下され、平成25年9月に最高裁判所において、当社らの上告を棄却する決定がなされました。
この役員個人の責任も認めた最高裁判所の決定を重く受けとめ、当社は損害賠償金及び遅延損害金の合計額102百万円につき、平成25年11月20日の臨時取締役会において当該役員個人が全額負担することを決定し、当該役員もこれを了承しております。
この結果、本件訴訟に対して計上していた訴訟損失引当金78百万円は翌連結会計年度において取り崩すこととし、特別利益に計上する予定であります。」
と記載されている。
損害賠償金の支払いにつき社長ら役員個人に全額負担させたことは、過労死・過労自殺事件についてのトップの責任を明確にさせ、労働条件についての社内のコンプライアンス(法令遵守)を自覚させるという結果をもたらすことに期待したい。

2011年5月27日 (金)

大庄・大阪高裁判決「労働者の生命・健康は至高の法益」

東証一部上場企業である大庄が経営する日本海庄や石山駅店に、大学を卒業し正社員として平成19年4月1日から勤務していた故Mさん(当時24才)が、入社してわずか4ヵ月にして心機能不全で死亡した件で、京都地裁は平成22年5月25日「恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提とした一見して不合理であることが明らかな労働時間(三六協定)・賃金体系の体制」をとっていたとして、大庄のみならずその社長ら取締役4名の個人責任(会社法429条1項の責任)を認める判決を下しました。
大庄と取締役らは大阪高裁に控訴しましたが、京都地裁判決から丁度1年後になる本年(平成23年)5月25日に控訴棄却の判決を下しました。
大阪高裁の判決は、京都地裁の判決より、取締役の責任につき更に一歩踏み込んで、会社法上の責任に加えて、取締役らは大庄の三六協定や賃金体系の下では「現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず、控訴人会社(大庄)にこれを放置させ是正するための措置を取らせていなかった」として、不法行為責任(民法709条)もあわせて認めました。
大庄では、賃金体系は「役割給」として月80時間の時間外労働を前提とし、三六協定は月100時間の時間外労働が年6回認められることになっていました。
控訴審で、会社側は三六協定や賃金体系につき、「その体制は経営判断事項であり、労災認定上の基準時間はその一要素にとどまる。」としたうえ、どのような体制をつくるかは、「経営判断事項にあたり、労災認定上の基準時間は経営判断における裁量権限の行使が著しく不合理とは言えないかどうかを判断するにあたって、検討の一要素である社会情勢等の一事情になるにすぎない。」と言い放っていました。
同時に同業他社の三六協定(例えば、ワタミフードサービスでは月120時間)を提出し、外食産業の三六協定では過労死ラインを超えた時間外労働があたりまえとなっていることを主張しました。
大阪高裁判決は、「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である。」と判示しています。
過労死ラインを超える労働時間、賃金体系をとるか否かは経営判断とする会社側の主張に対し、労働者の生命・健康は至高の法益として、誠実な経営者であれば長時間労働による過重労働を抑制するのが当然の責務としたこの判決は、大庄のみならず過労死ラインを超える三六協定や賃金体系をとっている企業に対する大きな警鐘を打ち鳴らしたものと言えましょう。

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