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一般

2026年8月 7日 (金)

裁判例から考える。

こんなケースも過労死です。
1 肺塞栓
過労死の対象となる疾病、認定基準上は、脳血管疾患と虚血性心疾患です。肺塞栓、いわゆるエコノミー症候群とよくいわれる疾病については、地方公務員、国家公務員の認定基準には入っています。しかし、厚労省の認定基準には入っていない。過労から生じる疾病等は、認定基準に定めるもの以外にも、判例等では広く認められており、長時間労働等、過重な業務のなかでの死亡については、病名を問わず、業務上となる可能性を検討することが大切です。

 

2 急性心不全の取扱い
急性心不全とは、ポンプ機能が止まった。急性のポンプ機能が停止したというだけのこと。あるいは内因性疾患という診断書が付いている場合もあります。内因性疾患では、病名は分からない。病名が分からなかったとしても、認定基準では、他の疾患であることが確認されない限り、認定基準で判断していいと。解剖すると、何か他の病名が出てきてしまう場合があるのです。心臓だったら、心筋炎や心筋症など。不明ならば、不明のままで手続きを進めたとしても、発症前に過労死ラインの業務があれば、他の疾患であることが確認されない限り、認定基準で判断するとしています。

 

3 心筋炎、心筋症
心筋炎、心筋症の基礎疾病がある方の相談も多いです。亡くなった後に、遺族としては、原因を調べるために解剖に付す場合があるのです。そうすると、心筋炎、心筋症があったことが分かることがある。基礎疾病として、あるいは解剖した結果、心筋炎、心筋症という病名が分かったとしても、病態がそれまで安定していて、普通に仕事ができる状態が続いていたら、認定基準で判断していいということが、認定基準の考え方です。(判例①)
このような病名を見て、医師の方に聞くと、「心筋炎はウイルス感染症だし、拡張型心筋症は、心臓移植が必要な重い基礎疾病だから、難しいね」と言われるかもしれませんけれども、決してへこたれてはだめです。

 

4 脳動静脈奇形、もやもや病
脳血管疾患についての脳動静脈奇形や、あるいはもやもや病と、聞いたことがない病名が出てきます。この基礎疾病があったとしても、やはり過重性の要件の判断で認定はされます。判例は、もやもや病や脳動静脈奇形の基礎疾病があっても業務上としています。(判例②~⑤)

 

5 ぜんそく死
さらに、判例が積み重ねられている過労死の一類型として、ぜんそく死があります。ぜんそくをお持ちの方に重積発作が起きた。判例(判例⑥⑦⑧)では、いずれも脳、心臓疾患と同じように、過労死ラインを超える時間外労働が認められれば、認められています。医師に聞くと、結構否定的な意見が多いですが、労災認定は医学的な判断ではありません、監督署の判断も、裁判所の判断も。経験則に基づく、高度の蓋然性の問題です。医者の判断に頼り過ぎないことも大切です。

 

6 消化器潰瘍
消化器潰瘍についての最高裁の判決(判例⑨)もあります。私が担当した事件でしたが、医者に相談しに行ったのです。ピロリ菌が十二指腸潰瘍や胃潰瘍の一番原因の問題だと、発見された当初だから、裁判所もそれに眩惑されて、地裁、高裁、全部負けました、ピロリ菌のせいで。最高裁で逆転できました。最高裁は、ピロリ菌の流行に乗らないで、判断してくれました。
また、私が担当した大手電気工事会社の現場代理人が長時間労働等の下、胃かいよう出血死した件について、富山労基署長は、令和5年5月16日に業務上と認定する決定をしています。
過労・ストレスが蓄積すると、胃がシクシク痛くなることは誰しも感じること、消化器系の疾患は過労死の典型とも言えるでしょう。

 

7 てんかん死
てんかん。警備員が徹夜で雨の中、交通誘導の警備をしていました。朝一休みして、また午前中も、60代の方です。僕よりも若いですけれども、その方がまた朝も、お昼ぐらいまでやっている最中に、途中でてんかんの重い発作が起きて、亡くなりました。これも1人目の医者に行ったら、「これはもう、てんかん、無理やで」と言われて、2人目も「そんな知見ないよな」、3人目の医者に行ったとき、「考えます」ということで、一生懸命に文献に当たっていただいて、それを出して、労働保険審査会でようやく認められました(判例⑩)。あきらめてはだめです。やはり長時間労働がある背後には、どのような病気が起きてもおかしくないという意気込みで、この問題には取り組むべきだと思っています。

 

8 過労運転事故
過労死に関する事案として、最近注目されていることは、過労運転事故死です。トラックの運転手が睡眠不足の中で、交通事故死。これは結構、判例的にも積み重ねられてきています。そして、交通事故死は皆、追突事故です。居眠りして、あるいは注意力散漫になって、追突事故、あるいは自損事故で亡くなるっている。100パーセント、自己過失と見られておかしくない事件ですけれども、判例は、ほとんど過失相殺をしていません。(判例⑪~⑭)
御船運輸の事件(判例⑫)は、シートベルトをしていなかったということで、20パーセントの過失相殺をされているだけで、他は100パーセントの責任を認めている。よく、睡眠不足で事故を起こすと、逆にトラックが起こした損害賠償を遺族がされるケースも少なくありません。これをきちんと調べていくと、過労が背後にあれば、企業の責任を追及できる。
さらに、通勤途上の過労運転事故があります。鳥取大学の医学部の大学院生の医師の損害賠償請求事件を担当しました。大学院生の無給医制度が今問題となっていますけれども、この医師は、授業料を払った大学院生だったのに、実際の医療に従事していて、徹夜の緊急手術の後にアルバイト先の病院への通勤途中で、居眠りが出そうな状態で運転して、トラックと正面衝突をして、亡くなった事件です。お父さんは、そのような不注意をする息子ではないという形でご相談があって、調べていく中で、長時間労働に加えての24時間断眠の状態で、トラックとの正面衝突事故が起きたことが明らかになり、大学側の損害賠償を認める判決が下されました。(判例⑮)
徹夜作業の後、オートバイで退勤途中に過労で運転を誤り死亡した件につき、和解勧告決定がされた事案(判例⑭)ですが、そのまま判決になるような長文の決定です。この決定は、「過労死、過労自殺に並ぶ労災事故として、過労運転事故死の類型が潜在的にあり、本件事故の先例としての意義は高い」と述べています。過労運転事故を、過労死の一類型とする思いを込めた、熱い和解勧告決定です。

 

9 救命機会の喪失
くも膜下出血の警告症状として、頭痛や吐き気などの症状が現れます。しかし無理を押して、あるいは長距離トラックの運転手だったら、そのまま運転も続けて、医者だったら、無理して手術に立ち会わなければとの思いで、仕事を休むことなく倒れてしまうようなケースがあります。これも、労災の対象になります。(判例⑯~⑳)
⑯の判例は、社内食堂の調理員が肺炎になったのに、代替要員がいなかったので、無理を押して仕事を続け、どんどん肺炎が悪くなって、亡くなったケースです。救命機会の喪失も労災の対象になることを頭に置いていただけたら。

 

10 脳内出血等と長期療養中の併発疾病
脳内出血で倒れた。長期療養をしている。いろいろな病気が出てきます。私が担当した事件でも、膀胱結石ができてしまって、それによって膀胱が傷つけられて、敗血症になった。あるいは、誤嚥が生じて、肺炎になって亡くなった。そのような療養の中で、必然的に起きてくる事故、それも併発疾病は労災の対象になります。闘病苦の下での自殺も同様です(判例㉑㉒)。ですから、脳内出血の後遺障害で障害補償を取ったとしても、そのあとに、もしも療養の中で、その療養と関連する形で併発疾病として亡くなった場合は、遺族補償請求はまたできます。この請求がされていないケースが多いのです。どのような病気が併発疾病として認められるかは、脊髄損傷の併発疾病についての厚労省の通達があります。脊髄損傷併発疾病で検索すると、この通達が必ず出てきます。それに基づいて、労災の遺族補償の請求をするということも、私は4件くらいこのような経験があります。

 

11 過労死を広く考えて
大切な人が過労・ストレスの下で亡くなったり、健康を損ねたとき、その病名や基礎疾病であきらめるのではなく、労災認定を検討してみてはどうでしょうか。

 

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2026年1月29日 (木)

私が過労死専門弁護士になったわけ

・過労死事件と出会った頃のこと
 私は60の還暦を迎えたときから、過労死の事件以外はやっていません。ドラえもんのポケットのように、いろいろなところにポケットを作って、いろいろな事件をやる中で、還暦を迎えたとき、一番自分の心に近い事件と考えたときに、過労死の事件があった。これからは、過労死の事件だけはやろうということで、今は、過労死事件だけの弁護士をしています。
 過労死の事件に初めて出会ったのは、1970年代の後半です。医者や労働組合や遺族の方たちと、この問題が大きな社会的問題になるのではないかという予感があって、昭和56年に大阪で、「急性死等労災認定連絡会」という会を作りました。当時はまだ、過労死という言葉がない時代で、急性死。それを報道したあるマスコミは、ポックリ死の連絡会ができたと報道する、そのような時代だったのです。また労災認定連絡会です。今は過労死問題は企業賠償や予防の分野にまで広がっていますが、当時は認定を取ること自体が、ラクダが針の穴を通るよりも難しい時代でした。
 連絡会を作ったのですけれども、ほとんど相談も来ない。会合も2,3人で細々とやっている。しかし、この問題はきっとどこかで大きな問題になるのではないか、単なる個別、特殊な事件ではなくて、労働現場の一般性、普遍性を持った事件なのではないかということで、やってきました。ある医師が中心になって会を作ったのですが、その医師の方から、「過労死の遺族、被災者の駆け込み寺でいいから、続けていこう」ということで、月1回の例会は、いまだかつて絶やしたことはありません。今は「大阪過労死問題連絡会」となっていますけれども、それがこの会の誇りです。やはり続けるということは、とても大事だと感じています。

・過労死が、一般性・普遍性を持った問題であることを明らかにした過労死110番
 ある問題が個別で特殊な問題なのか。一般、普遍的な問題なのか。そのときに弁護士として、非常に大きな武器がある。それは、110番活動なのです。個々の依頼者からもらった石です。それを社会という大きな池に投げたとき、どのような波紋が広がるか、広がらないか。大きな石だと思ったけれども、ぼちゃんと沈んで、もうそれだけの事件で終わる場合もあるし、小さな石だったけれども、それが大きな波紋を広げる場合もあります。その一般性、普遍性を問うということで始めたものが、昭和63年の4月に大阪で全国に先駆けて行われた過労死110番でした。10時からの受け付け時間から電話が鳴り続けだったのです。

・妻が、働き盛りの夫の過労死を告発する時代
 昭和63年はどのような時期だったか。バブルの絶頂期です。モーレツ社員の長時間労働があたりまえのように、はびこっていました。その前年の昭和62年に、認定基準が発症前1週間だけだけれども、短期間ながら業務の過重性を見ましょうという基準に変わった年の翌年でもありました。そのようなタイミングもあったのかもしれません。電話が鳴り続けでした。遺族からの過労死の相談が、その中の多くを占めていました。18件の遺族からの過労死の相談があった。そのうちの17件は、妻からの相談なのです、ご主人を亡くされ、亡くなったご主人は、40代、50代。要するに、働き盛りの夫の過労死についての救済を求め、あるいは告発する妻の訴え。今は、それだけではありません。自分の息子、娘を自殺で失った父親、母親からの理不尽な出来事に対する怒りと悲しみの相談が、過労死以上に増えています。ですから、働き盛りの男の過労死のみではなくて、今は、労働現場の一般的、普遍的な問題として、この過労死・過労自殺問題がある。それを気付かせてくれたものが昭和63年に始まった過労死110番でした。

 

2025年9月11日 (木)

公立学校教員の長時間勤務による過労死等の安全配慮義務違反に基づく損害賠償判決の流れ

1 公立学校の教員の過労死等を「美談」に終わらせないために
 公立学校の教員の長時間勤務による過労死等については、遺族や当事者が地方公務員災害補償基金で公務外とされても、行政訴訟を提訴し、過労死等で亡くなった後10年以上の長い争訟を経て、ようやく公務上と認定された事案は多数に及んでいる。
民間では過労死等が業務上と認められれば企業賠償責任訴訟を提訴し、勝訴を重ねるなか、それが企業の過労死等の防止対策の力となり、過労死等防止対策推進法が定められるに至っている。
 これに対し公立学校の教員の過労死等は、公務上認定されることにより生徒の為、教育の為、力を尽くして亡くなった熱血先生の「美談」として語られることで終わってしまっていた。過労死等を生じた責任は問われることなくあいまいにされ、その結果勤務時間の抜本的な是正はされることはなかった。
 給特法の下では、公立学校の教員の時間外勤務は、教材研究であれ、部活動であれ、自主的・自発的勤務であり、管理職の指揮命令に基づくものではないとの教育現場の「常識」が、先生の過労死等の多くを美談のみに終わらせている。しかし、心身の健康の視点からは、給特法の有無に拘らず、長時間勤務等により疲労やストレスが蓄積すると心身の健康を損ねることは、公立学校の教員についても当然の理である。
 民間でそうであったように、公立学校の教員についても、公務上の認定から、学校の設置者であり教員に対する服務監督権限を有する地方公共団体の責任(国家賠償法上の注意義務違反、並びに安全配慮義務違反の責任)の所在とその内容の明確化なくしては、長時間勤務等の過重な業務の抜本的是正に至らない。

2 滑川市立中運動部顧問のE先生の過労死の損害賠償全面勝訴判決
(1)公務上認定後の提訴
 そんな思いから、富山県滑川市立中学校女子ソフトテニス部顧問で42才のE先生のくも膜下出血死の公務上認定を富山県教組の全面的支援により得たのち、提訴を躊躇する奥さん宅に何度も足を運び、滑川市(国賠法1条の服務監督権限者としての責任)と富山県(国賠法3条の費用負担者)を被告とする損害賠償提訴に至った。
(2)強豪校のソフトテニス部顧問の長時間勤務と滑川市の主張
 E先生が平成28年7月22日発症する前の時間外勤務は、ソフトテニスの強豪校として土・日も対外試合が続く連続勤務の下、
   発症前1か月  119:35
   発症前2か月  135:36
   発症前3か月   95:04
と、過労死ラインを大きく超える長時間勤務となっていた。
 被告の滑川市は、時間外勤務は自主的・自発的勤務であり、とりわけ部活動は顧問の自己裁量でなされること(時間外勤務の多くは部活指導時間の事案だった)と主張するとともに、義務教育職員の合計数56万4361人のうち「脳疾患による公務災害の認定率は0.00053%(心疾患を含めても0.00070%)であり、このうち死亡に至った者のみに限れば0.00017%(心疾患を含めても0.00035%)である」との、過労死は統計上極めて稀とする、過労死等の実態を踏まえない主張もなされた。
(3)全面勝訴判決とその直後の滑川市の控訴断念
 富山地裁は令和5年7月5日、原告全面勝訴の判決を下している。
 同判決は、「地方公共団体の設置する中学校の校長は、自己の監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させ心身の健康を損なうことのないよう、その業務の遂行状況や労働時間等を把握し、必要に応じてこれを是正すべき義務(安全配慮義務)を負う。」としている。時間外勤務の多くを占めていた部活動については、「Eが本件中学校の教員の地位に基づき、その職責を全うするために行われたものであることは明らかであり、時間外勤務時間数が多くなった背景に、Eの教員としての責任感の強さや部活動指導に対する積極的な姿勢があったとしても、全体としてみれば、同部の顧問としての業務が全くの自主的活動の範疇に属するものであったとはいえない。」と断言している。
 そのうえで、E先生の高血圧等の基礎疾病による素因減額をすることなく、原告請求額のほぼ全額である8300万円余りの賠償の支払いを、滑川市と富山県に命じる判決を下した。滑川市は強硬な訴訟対応をしていたにも拘らず、判決言渡しの3時間後には控訴しないことを明言し、富山県もこれにつづき判決は確定した。
 長時間勤務についての安全配慮義務の判例の確定した流れからするなら、コロンブスの卵と言うまでもなく、当然の判決である。(弁護団は私と福井の海道弁護士)

3 公立学校の教員に対する安全配慮義務を認める判決の流れ
 この判決に先んじて福井地裁は令和元年7月10日、福井県の若狭町立中学校の教員が長時間勤務等による強い心理的負荷により過労自殺した件につき、町と県の賠償責任を認めた判決を下している。公立学校教員の長時間勤務による心身の健康被害について、判例集に登載されたものとしては最初の判決である。
 また、当職が弁護団の1人として加わった大阪府立高校の現職教員である西本武史先生の適応障害発病に対する損害賠償訴訟について、校長の安全配慮義務違反を認め請求金額全額を認容した大阪地裁令和4年6月28日判決、更にはこの判決に触発されて、東大阪市立中学校の同じく現職教員の適応障害についての損害賠償訴訟事件についても大阪地裁は令和6年8月9日に勝訴判決を下している。
長時間勤務等による過労死等につき、地方公共団体(教育委員会)の国家賠償法等の責任を認めた判決をまとめるとつぎのとおりである。

判決年月日 裁判所 被告 病名 賠償認容額 登載判例誌
R元年7月10日 福井地裁 若狭町・福井県 自殺 6537万円 労働判例1216号21頁
R4年6月28日 大阪地裁 大阪府 適応障害 230万円 労働判例1307号17頁
R5年7月5日 富山地裁 滑川市・富山県 くも膜下出血死 8314万円 判例時報2574号72頁
R6年2月14日 水戸地裁下妻支部 古河市 自殺  1億0864万円 判例時報2614号34頁
R6年8月9日 大阪地裁 東大阪市・大阪府 適応障害  220万円   未登載

  「令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、全国の公立学校教職員の精神疾患による病気休職者数は7119人に及ぶとしている。適応障害、うつ病等による多くの休業、休養教員の増加傾向に対する警鐘となる判決である。
 また、私が現在担当している訴訟事件として、福岡市立小学校の教務主任(主幹教諭)であった教員が心疾患で過労死した事件が福岡地裁で係属中である。
 公立学校の教員の過労死等についての地方公共団体の国家賠償法に基づく長時間勤務から生じる心身の健康についての安全配慮義務違反の賠償責任を認める判決の流れはほぼ定着し、教員の過労死等の責任についての「聖域」は消失したと言えよう。

4 代理監督者(履行補助者)としての校長の責任から教育委員会の責任の追及へ
 公立学校の教員の過労死等への賠償責任は、学校設置者であり服務監督権限を有する地方自治体の代理監督者(国家賠償法1条)並びに履行補助者(安全配慮義務)である校長の責任を問うという法的構成がなされている(以下、あわせて安全配慮義務という)。
教育現場の実情を考えるならば、校長のみならず、各学校の長時間勤務を是正監督すべき権限を有する教育委員会の責任を同時に問うことが重要である。
 更には、教育に必要な教員の人員配置が十分なされていないことについての国(文科省)の責任を問うことも、全国的な教員不足の下での長時間勤務を是正するためには不可欠である。
 過労死等についての責任の所在とその内容を訴訟等を通じて明らかにすることは、給特法の抜本的改正に至らなかったことを踏まえて考えあわせれば、教員の長時間勤務等による心身の健康を守り、日本の高い教育水準を確保するためには、より重要さを増している。

5 給特法の下での歪んだ制度から生じる問題点
(1)産業医面接と給特法
 労働安全衛生法66条は、客観的な出退勤記録により把握された「労働時間の状況」による時間外勤務が月80時間を超えた労働者については、「本人の申出」により産業医面接を義務づけている。この点につき文科省通達(平成31年2月12日付け、30初健食第29号)は、地方公務員一般についての総務省通達(平成31年2月12日付け、総行安第3号)を引用して、過労死ライン、即ち超過勤務時間が単月で100時間以上、2~6か月平均で80時間を超えた教員を含む学校職員については「本人の申出」の有無に拘らず産業医面接の対象とするとしている。
しかし、文科省(教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針に係るQ&A)は、公立学校の教員について「労働時間の状況」につき、「校務であったとしても、使用者からの指示に基づかず、所定の勤務時間外にいわゆる『超勤4項目』に該当するもの以外の業務を教師の自発的な判断により行った時間は、労働基準法上の『労働時間』には含まれない」としたうえ、「『超勤4項目』の業務に従事した時間が『労働時間』に当たると考えられ、これをもって『労働時間の状況』に代えることができます。」(問5)としている。
 すなわち、「労働時間の状況」として把握されるのは、給特法の超勤4項目の業務についてのみとしている。超勤4項目のみで時間外勤務が月80時間を超えることはあり得ない。
 その結果、所定勤務時間を超えた「在校時間」が月80時間を超えても、各教育委員会が「要綱」等で定めた「本人の申出」等がなければ産業医面接は実施する必要がないことになり、実態としても実施されていない。このことは、前記東大阪市教員の事件で、東大阪市より提出された所定外の「在校時間」が月80時間を超える教員の一覧により多数いること、それを校長や教育委員会が把握しながら、殆ど産業医面接が実施されていない実態が明らかになった。
 長時間勤務等から生じる心身の健康を守る最後のセーフティーネットは、長時間勤務者や高ストレス者への産業医面接である。「給特法」は岩盤であるべきこのセーフティーネットを失わせている。
(2)充て指導主事と給特法
 市の教育委員会の指導主事が、長時間勤務の下、令和2年に脳内出血で半身マヒの重い後遺障害を残した事案を担当している。
 公務上の認定を得たが、発症前3か月間の平均給与額に基づく補償額の算定にあたり、時間外・休日勤務手当を算入することなくその額が決定された。教育委員会での指導主事の業務内容は、行政職としての業務であるにも拘らず、公立学校の「教諭に補する」として任命されたうえ、直ちに同校を休職となり指導主事に充てられている(いわゆる充て指導主事)。
 一旦、公立学校の教諭に任命(同校での勤務はなし)したことにより、給特法の対象となり、行政職であるにも拘らず、時間外手当等の支給はなされていなかった(条例で行政職として扱い、時間外手当を支給する自治体も少ないがある)。ここにも、給特法により行政機関にまで及ぶ歪みが生じていると言わざるを得ない。

2025年4月 1日 (火)

教員の過労死等防止のために ―責任なくして予防なし― 

1 公立学校の「熱血先生」の過労死等の公務上認定の受けとめへの違和感
私は多くの公立学校教員の過労死等の公務上認定に取り組んできた。
しかし、給特法の下、公立学校教員の時間外勤務は、勤務時間として評価されず、自主的・自発的勤務と「整理されてきた」状況の下では、勤務時間は適正に把握されることなく、出勤簿に押印のみという学校が多かった。
公務上認定による補償を受けるためには、遺族らと弁護団の「見えない時間外勤務」を可視化するための多大な努力が求められ、10年以上かけてようやく訴訟で公務上認定されるという状況が続いた。
その苦闘を経て、ようやく認定されたことに職場の校長も含めた教員から「よかったね」との声がかけられ、マスコミからは「熱血先生」の過労死として取り上げられた。
しかし、教育現場やマスコミのそのような受けとめ方に、私は同感しつつも違和感が残らざるを得なかった。

 

2 過労死運動の認定→責任→予防の流れ
私は過労死問題に取り組みはじめて半世紀近くになるが、過労死についての取り組み(それは過労死運動と私は呼んでいるが)は、労災(公災)認定から最高裁電通判決(2000年)を典型とする企業賠償責任、更には過労死等防止対策推進法の成立につながる、認定→責任→予防の流れをつくりあげてきた。
しかし、教員については、ラクダが針を通るより難しかった公務上認定に留まり、責任=行政に対する賠償責任追及の手前で、私も含めて足踏みをしたままだった。
過労死運動の流れで学んだことは、労災(公災)認定で終わってしまっては、実効ある職場の長時間勤務の是正や過労死等の予防につながらないということだ。責任の問題を問うことなしには、勤務時間の是正、予防は実効性あるものにならない。
教員の働き方改革や過労死問題で欠落しているのは責任の問題であると考え、損害賠償請求訴訟による責任の明確化を通じての、日本の高い水準の教育が壊れるか、その教育を支える教員の心身の健康が壊れるか、その二律背反の状況の抜本的な改善を望むことはできない。

 

3 公立学校の教員の過労死防止元年とも言うべき平成31年1月の「学校における働き方改革」の答申
(1)教員が長時間勤務により疲弊していくのであれば子供のためにならない
公立学校の教諭らの長時間勤務と、それにより生じる心身の健康状態の問題を踏まえて、中央教育審議会は「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」を平成31年1月25日付けで発出している。
そこには「‘子供のためであればどんな長時間勤務も良しとする’という働き方は、教師という職の崇高な使命感から生まれるものであるが、その中で教師が疲弊していくのであれば、それは‘子供のため’にはならないものである。教師のこれまでの働き方を見直し、教師が日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで、自らの人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになるという、今回の働き方改革の目指す理念を関係者全員が共有しながら、それぞれがそれぞれの立場でできる取組を直ちに実行することを強く期待する。」(2頁)とはじめに述べている。
(2)日本の高い教育水準が教師の長時間にわたる献身的な取組の結果ならば持続可能ではない
同答申は我が国の義務教育における高い水準とそのための教師の献身的取組につき、
「我が国の義務教育は高い成果をあげている。例えば、新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤となる知識基盤社会となり、それらをめぐる変化の早さが加速度的となり、情報化やグローバル化といった社会の変化が人間の予測を超えて進展することを踏まえ、各国の義務教育修了段階の15歳の子供たちがどのような質の学力を有しているかを測るために、経済協力開発機構(OECD)が2000年から3年に一度実施しているPISA調査においては、数学的リテラシーや科学的リテラシーはOECD加盟国中一位(PISA2015)であるなど我が国の15歳段階の子供たちは世界トップ水準の学習成果を示している。」(3頁)
と日本の学校教育は大きな蓄積と高い成果をあげているとしたうえ、しかし、
「教師の長時間にわたる献身的な取組の結果によるものであるならば、持続可能であるとは言えない。『ブラック学校』といった印象的な言葉が独り歩きする中で、意欲と能力のある人材が教師を志さなくなり、我が国の学校教育の水準が低下することが子供たちにとっても我が国や社会にとってもあってはならない。」(5頁)
としている。
(3)長時間勤務による志ある教師の過労死等はあってはならない
更に長時間勤務の下で過労死が生じていることについて、
「志ある教師の過労死等が社会問題になっているが、子供のためと必死になって文字通り昼夜、休日を問わず教育活動に従事していた志ある教師が、適切な勤務時間管理がなされていなかった中で勤務の長時間化を止めることが誰もできず、ついに過労死等に至ってしまう事態は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに、児童生徒や学校にとっても大きな損失である。さらに、不幸にも過労死等が生じてしまった場合に、勤務実態が把握されていなかったことをもって、公務災害の認定に非常に多くの時間がかかり、遺族又は家族を一層苦しめてしまうような事例も報告されている。この点については、第3章で述べる勤務時間管理の徹底や『公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン』(以下『上限ガイドライン』という。)を踏まえた各地方公共団体の規則等に基づく勤務時間管理の徹底、学校や教師の業務の明確化・適正化による勤務の縮減を図り、一刻も早く改善しなければならない。こうした志ある教師の過労死等の事態は決してあってはならないものであり、我々は、学校における働き方改革を実現し、根絶を目指して以下に述べる必要な対策を総合的に実施していく必要がある。」(8頁)
と述べている。
教員の長時間・時間外勤務が日本の高い教育水準を支えてきたとともに、そのなかで教員が過労死等心身の健康を損ねていることを未然に防止することなくしては、高い水準の教育を持続可能なものとして維持することはできないことを明言している。

 

4 公立学校の教師の勤務時間についてのガイドラインと指針
文科省は、前記中央教育審議会の答申にあわせて平成31年1月25日付けで、働き方改革一括法で改正された労基法36条の時間外・休日労働の延長時間の上限の定めに即して「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を定め、この内容は、給特法7条1項に基づく令和2年1月17日付けの「教育職員の健康確保及び福祉措置指針」に引き継がれている。
勤務時間の上限の目安時間として、
「(2)上限の目安時間
① 1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が、45時間を超えないようにすること。
② 1年間の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が、360時間を超えないようにすること。
(3)特例的な扱い
① 上記(2)を原則としつつ、児童生徒等に係る臨時的な特別の事情により勤務せざるを得ない場合についても、1年間の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が、720時間を超えないようにすること。この場合においては、1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が45時間を超える月は、1年間に6月までとすること。
② また、1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が100時間未満であるとともに、連続する複数月(2か月、3か月、4か月、5か月、6か月)のそれぞれの期間について、各月の在校等時間の総時間から条例等で定められた各月の勤務時間の総時間を減じた時間の1か月当たりの平均が、80時間を超えないようにすること。」
としている。
このガイドラインに関し、後記6の②の判決は「本件ガイドラインが発出された趣旨や、その背景にある考え方をみても、本件高校において、勤務時間管理者である校長が、教育職員の業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)の履行の判断に際しては、本件時間外勤務時間をもって業務の量的過重性を評価するのが相当」である(57頁)としている。

 

5 責任の所在とその内容を明らかにすることなしには実効性ある過労死等の防止はできない
前記の「学校における働き方改革」についての中教審答申以降、文部行政による公立学校教員の過労死等についての取り組みは前進してきたものの、未だ不十分なものに留まっている。
先に述べたように、民間労働者等では過労死等防止は労災認定からはじまり、企業賠償責任を認める電通事件最高裁判決等が集積することを経て、過労死等防止対策推進法制定等の、未だ不十分ながらも過労死防止対策が進んできた。これに対し、給特法により時間外勤務は、原則自主的・自発的勤務として「整理」されている公立学校の教員については、過労死等への損害賠償(国家賠償法1条)責任を追及する訴訟が殆ど提訴されず、その責任の所在が法的に明確にされなかったことが、公立学校において過労死等防止対策の前進を停滞させてきた最大の要因と考えている。

 

6 公立学校教員の過労死についての損害賠償訴訟の提訴へ
そのような思いから、私は弁護団とともに、公立学校の教員の過労死等につき損害賠償の訴訟を提訴し、
① 滑川市立中学ソフトテニス部顧問教員の過労死(くも膜下出血)
富山地裁令和5年7月5日判決(確定・判例時報2574号72頁)
② 大阪府立高校ラグビー部顧問教員の適応障害発病
大阪地裁令和4年6月28日判決(確定・労働判例1307号17頁)
③ 東大阪市立中学野球部顧問教員の適応障害発病
大阪地裁令和6年8月9日判決(確定)
の各判決を得ている。
また、現在訴訟係属中の事案として、令和5年8月28日提訴した、福岡市立小学校主幹教諭の急性心臓病死についての損害賠償事件にも取り組んでいる。
志ある「熱血先生」の美談に留まらせることなく、あってはならない過労死等の損害賠償事件を通じて、その責任の所在、内容を法的に明らかにするなかで、学校の過重な長時間勤務を是正することは、教員の心身の健康に留まらず、前記中教審答申が述べるように、日本の高い教育水準を持続可能なものにするためにも不可欠である。

2024年12月19日 (木)

過労死等を生み出す原因は労働時間の適正把握のサボタージュにある

1 自己申告による過少な労働時間の把握
 労働時間が客観的な出退勤の記録で把握されることなく、自己申告により過少に把握され、社内の労働時間についての法令順守が機能しないことこそが、過労死等の原因となる長時間勤務を生み出す最大の要因と考えている。
 私が担当した事件の多くは、下記のとおり、パソコンや警備記録等の客観的な出退勤の記録にもとづく労働時間と、自己申告の労働時間の著しい齟齬のもとで生じている。

 

2 実態としての労働時間と自己申告の乖離の事例
(1)民間労働者の過労死等事案
 ア 大手電気工事会社の現場監督(30才)の過労自殺
  ビル新築工事の空調工事等の現場担当者として従事していた期間中(約1年)月100時間を超える時間外労働が警備記録で明らかとなった。しかし、自己申告は工事予算で割り当てられた時間しか申告されておらず、私はこの事案で労働時間適正把握の重要性を認識させられた。

年月 自己申告 実態(警備記録等)
平成16年4月 24:00 164:59
     5月 24:00 148:47
     6月 28:00 132:19
     7月 28:00 176:21

 イ 鉄道会社の総合職社員(28才)の自殺
  大学院卒の嘱望された社員の自殺で、昼は工事事務所でのポイント切替え等の設計作業、夜は工事現場に出向いての下請の作業指揮の連日の作業のなか常軌を逸した長時間労働に従事していた。
36協定の一般条項の月45時間を意識した自己申告がなされていた。

年月 自己申告 実態(パソコン等)
平成24年3月 72:45 254:49
4月 39:15 148:51
5月 35:30 113:43
6月 44:00 162:17
7月 45:00 141:09
8月 40:15 130:32
9月 35:15 162:16

 ウ 地銀のシステム開発担当行員(40才)の自殺
  銀行の決裁システムの更改の責任者が、遺書で取引先、会社、上司に謝りながら、3人の幼い子を残して本社ビルから投身自殺した。

年月 自己申告 実態(パソコン等)
平成24年7月 34:30 109:48
     8月 38:30 129:45
     9月 60:30 168:16

 エ 大手電気工事会社の現場代理人(62才)の胃かいよう出血死
  定年退職後嘱託で勤務していた高年齢労働者の消化管疾患死

年月 自己申告 実態(パソコン)
令和3年10月 78:30 122:52
    11月 89:30 175:44

(2)公務員の事案
 ア 新入の市職員(22才)の自殺
 ・新入職員として採用され、納税課での滞納整理業務
 ・担当案件が3倍になり、時間外労働が月100時間超となり自殺

年月 自己申告 実態(パソコン入力)
平成23年4月  4:30  37:05
     5月 18:30  57:48
     6月 21:20  68:07
     7月  3:00  65:02
     8月 11:00 121:15

 イ 県職員(35才)の自殺
 ・勤務票に並んで記載された自己申告とIDカードの時間との著しい齟齬
 ・うつ病を発病し言動の変化が生じたことを祖母が人事課に直訴するも対応せず

年月 自己申告 実態(システム)
平成28年1月 27:15  99:59
     2月  0:00 101:45
     3月 46:00 162:31

 ウ 市職員の過労自殺
  事務効率課の市役所職員の長時間勤務による自殺

年月 自己申告 実態(パソコン)
令和元年10月 21:00  91:17
    11月 23:00 137:11
    12月 24:00 196:36

なお、上記の民間並びに公務員の事案はいずれも業務上(公務上)と認められた事案であり、時間数は労基署長等が調査した記録に基づくものであるが、弁護士として業務上認定させるための努力の多くは、出退勤の客観的記録に基づき過少な自己申告の実態を明らかにすることに費やされている。
労働時間の適正把握の懈怠は過労死等の原因であるとともに、過労死等の救済の大きな壁となっている。

2024年12月17日 (火)

過労死等についての安全配慮義務違反の責任の所在の明確化の重要性

過労死運動は、労災認定から賠償責任そして予防と歩みを進めてきた。

しかし公立学校の現場では、公務上認定されても生徒の教育のために尽くした熱血先生の美談として終わり、責任追及にまで至らない事案が多数である。

私は過労死等については責任なくして予防なしと考えている。

2019年1月25日付けの中教審答申は、我が国の学校教育の高い成果が、教師の長時間にわたる献身的な取組みの結果であるなら、持続可能であるとは言えないと述べている。

教育の持続が壊れるか、教員の心身が壊れるかの二律背反近い状況が生じ、教員志望者が減少するなかでも教員増等の抜本的な施策が進行しないのは、訴訟による賠償責任の追及が一部の公務上認定された事案についてしかなされていない点にも大きな要因がある。

公立学校の教員は給特法の対象となるが、それは給与の問題であり、心身の健康という点では民間労働者、一般の地方公務員と何ら異なることはない。

公立学校の教員の過労死等についての損害賠償による法的責任の追及は、過労死等を美談に終わらせることなく、高い教育水準が持続可能な教育現場を確保するため重要である。

非現業公務員(市役所、県庁等の職員)の勤務時間適正把握懈怠の下での過労自殺

私が事件を担当するなかで、労働時間の適正把握につき最も立ち遅れていると考える職種は、非現業の地方公務員(市役所、県庁等勤務の職員)である。出退勤時刻をIDカード等で把握しうるにも拘らず、過少な自己申告により勤務時間を算定するなかで地方公務員の過労自殺が生じている。

地方公務員の時間外労働は労基法33条3項(公務のため臨時の必要があるとき)に基づいてなされており、勤務時間についての規範意識が希薄な現場が少なくない。しかし、非現業の地方公務員の時間外労働の多くは「臨時の必要があるとき」に生じているのではなく、恒常的に生じている。地方公務員法は労基法36条を適用除外しておらず、これら地方公務員についても36協定を締結させ、かつIDカード等出退勤の客観的記録により労働時間を適正に把握するべきものと考える。

地方公務員の過労死等の事件を担当するなかで実感するのは、長時間勤務についての監督機関は人事委員会のある地方公共団体では人事委員会又はその委員となっている。しかし、多くは人事委員会を置かず公平委員会が設置されており、その場合は地方公共団体の長が民間における労基署長の職権を行うとされている(地方公務員法58条5項)。

勤務時間等の服務権限とそれに対する監督権限が市長等の地方公共団体の長が併有しており、長時間勤務に対する不払給与が生じても罰則はない。

このような服務・監督権限を長が併有することに対する法改正なしには、非現業の地方公務員の勤務時間の適正把握は望み難い。

 

2022年12月27日 (火)

過労死(国際版)の発刊

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 過労死弁護団全国連絡会議は、日本の過労死問題について、世界の人々に理解を広げるため、2022年12月に「KAROSHI―How Overwork,Stress and Harassment Destroy People」(旬報社)を発刊しました。
 同時に邦文の「過労死―過重労働・ハラスメントによる人間破壊」も発刊しています。

内容は、
 第1部 過労死と過労自殺の事例
  1  トヨタの事例
   1 はじめに
   2 設計労働者の過労自殺事件
   3 生産ラインの労働者の過労死事件
   4 パワーハラスメントによる自殺事件
  2  遺族は語る
   1 いのちより大切な仕事はない
   2 日本社会に問う-システムエンジニアの息子は
   3 教師の過労死について
   4 大手広告代理店 電通 新入社員 高橋まつり事件

 第2部 過労死と過労自殺の分析
   1 精神医学・公衆衛生学から見た過労死・過労自殺
   2 過労死研究の経過と現代の課題
   3 国際人権の視点から見た過労死と過労自殺の問題
   4 ジェンダーの視点から過労死を考える
   5 過労死110番運動の歩みと過労死防止の課題
となっています。

 私は第2部の5の過労死110番運動の歩みと過労死防止の課題を執筆担当しました。
 過労死問題は全世界的な課題となっており、日本からこの問題を発信するにあたってこの書が大きな役割りを果たすことを期待しています。
 購読希望の方は、このブログのプロフィールにある私のメール・携帯等の連絡先からご一報頂ければ幸いです。

 

 

2022年5月 9日 (月)

「過労死・過労自殺の救済Q&A」の第3版が発刊されました

大阪過労死問題連絡会の弁護士が、過労死・過労自殺の労災認定、企業賠償責任と予防等について書いた「過労死・過労自殺の救済Q&A」の第3版が発刊されました。
令和3年9月の脳・心臓疾患の認定基準の改正等を踏まえて大幅に改訂したものです。
過労死・過労自殺等のご遺族や、当事者の方の救済に大きな力になる本です。
この本の紹介に代えて、私がこの本の最初のページに、編集代表として「第3版の発刊にあたって」を引用します。

 

あなたがこの本を手にされたのは、大切な方を亡くされ、その生前の働き方からして、仕事による過労がその死を招いたに違いないと考え、労災申請をしたい、更には労基署長等行政手続では業務外とされたが納得できず、訴訟で業務上と認めさせたいと考えたからでしょうか。
あるいは、過重な長時間労働をさせた会社の責任を認めさせようと、損害賠償請求の訴訟を提起することを考えたからでしょうか。
大阪過労死問題連絡会は、働き過ぎによる過労死・過労自殺に対して労災認定や企業補償を認めさせ、被災者やその家族を救済するとともに、働き過ぎ社会を考え、過労死をなくしていくことを目的として1981年6月に結成されました。関西地方の弁護士を中心とする、過労死・過労自殺の遺族、医師、研究者、労働組合、労働団体等によるゆるやかなネットワークです。
当連絡会を結成して以来、過労死・過労自殺として業務上認定させたい、企業に責任をとらせたいとの思いを大切にして、多くの事件で被災者・遺族の労災認定や企業賠償責任についての実績を積んできました。
労災認定も企業賠償責任も、被災者・遺族の救済を広げる方向に進んでいます。最高裁判所も、電通過労自殺判決(平成12年3月24日)で「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」と断言しています。
この書は、労災申請をするにあたっての手続や基礎的な知識をわかりやすく解説しています。同時に労災の認定基準の問題点を明らかにし、それを乗り越え認定させるにはどうしたらよいか、さらに会社の責任を追及するには何をなすべきかについて述べています。
また、当連絡会が結成後40年余りの間、当連絡会の弁護士が多くの事件に取り組む中で得た知識とノウハウを集大成したものです。
なお、本書は2011年7月に初版が、2016年6月に第2版が刊行されたものですが、2021年9月に厚生労働省の脳・心臓疾患についての認定基準が、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に判断するなど、被災者・遺族の救済を一歩進める方向で20年ぶりに改正されました。また、2020年5月には精神障害・自殺の認定基準ではパワーハラスメントについて明確化する改正が行われ、2020年9月の労災保険法の施行により副業・兼業している複数事業労働者についての救済と補償が拡大しました。
最新の認定基準や認定例、判決等を踏まえた過労死・過労自殺等の認定や、企業賠償責任の追及のための手引として、あなたが、過労死・過労自殺の手続のなかで壁にぶちあたり、めげそうになったとき、この書が力になり、良い結果に結びつけば望外の幸せです。

 

書店等で入手できないときや、この本の内容についてのご質問等がありましたら、このブログのプロフィールにある私の連絡先までご一報下さい。

2021年2月26日 (金)

近畿財務局職員だった赤木俊夫さんの自殺と、残された「国家公務員倫理カード」

近畿財務局に勤務していた赤木俊夫さんの手帳の平成29年2月26日(日)の欄には、「統括から連絡を受け出勤 本省からの指示」と記載されている。

この日から、俊夫さんの森友問題に関する決裁文書の改ざんについての「抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか」(俊夫さんの手記)との精神的苦悩が始まり、自殺という悲劇に至っている。

今、赤木さんの自殺についての国と佐川元理財局長を被告とする国家賠償請求訴訟の代理人として、生越照幸弁護士とともに関与している。

代理人になる前に俊夫さんの自殺を報道で知ったとき、厚労省の精神障害・自殺の労災認定基準で、心理的負荷が「強」(業務上と認められる)と評価される出来事が頭に浮かんだ。
「業務に関連し、反対したにもかかわらず、違法行為を執拗に命じられ、やむなくそれに従った」
俊夫さんが違法な文書改ざんを命じれられたときの状況は、認定基準が定めるこの出来事そのものだった。

俊夫さんは、平成29年の手帳のホルダーに、何年も手帳に入れたためかすり切れた「国家公務員倫理カード」を大切にはさみこんでいた。

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また、「僕の契約相手は国民です」と生前常々語っていた俊夫さんにとって、決裁文書の改ざんという違法行為に手を染めることの苦悩はいかばかりであったか。
訴訟では、俊夫さんが文書改ざんの証として作成していた「赤木ファイル」についての文書提出命令が争われている。
「赤木ファイル」は、俊夫さんの「抵抗したとはいえ関わった者」としての責任感と良心が集約されているのではないか。
俊夫さんが大切にしていた「国家公務員倫理カード」には、「利害関係者との間では、酒食等のもてなしなど、供応接待を受けること」は禁止されていることが明記されている。

総務省では、この国家公務員倫理規程に幹部ら11名が懲戒や訓告等の処分を受ける事態が生じている。

俊夫さんの自殺についての訴訟は、決裁文書改ざんの事実解明とともに、国家公務員としての国民への責任のあり方を問う訴訟でもある。

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