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一般

2019年7月19日 (金)

文科省の無給医の実態調査結果は氷山の一角にしかすぎない

給料なしで、医師が大学病院で、他の勤務医同様の診療行為に従事させられている。
そんな医師の勤務現場の非常識な実態が明らかにされつつある。
文部科学省は本年6月28日「大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査結果」を、NHKによる無給医問題の報道を受けて発表した。

これによれば、
①給与を支給している者(24712名、104大学病院)
 ・リサーチアシスタント、ティーチングアシスタントとしての支給がある者の取扱い
②合理的な理由があるため給与を支給していない者(3594名、66大学病院)
 ・自己研鑚・自己研究の目的で診察従事
 ・大学病院での診療従事分も含めて本務先から給与支給
③合理的な理由があるため給与を支給していなかったが今後支給するとした者(1440名、35大学病院)
④合理的な理由がなく給与を支給していなかったため遡及を含め給与を支給するとした者(751名、27大学病院)
⑤引き続き精査が必要と大学が判断した者(1304名、7大学病院)
となっている。http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/iryou/1418468.htm

 

この調査は、大学が社労士や弁護士等の法律専門家の意見を聴いたうえで、大学が判断した結果に基づいている。
無給医は③④の2191名となっているが、はたしてそうなのだろうか。
私は何人かの大学院生の無給医の方からの相談を受けているが、その話によれば、有給であったとしても、月数万円のリサーチアシスタント、あるいはティーチングアシスタントとしての僅かな「給与」の下に、大学病院での他の勤務医と同様の勤務シフトの下、診察行為に従事している大学院生は多い。
時間給1500円余り、月8時間(月額1万数千円)の「給与」の下、週4日8:30から17:00の勤務に就いている者もいる。
この調査結果では、これらの大学院生らの医師も、大学の判断では①の給与を支給している者に含まれている可能性が高い。
また②の「合理的理由」として「自己研鑚・自己研究の目的」があげられているが、日常の診察行為に組み込まれて勤務している者についても、大学院生としての演習科目としての「自己研鑚・自己研究」であるとして、「合理的理由」があるとされてはいないだろうか。
更に、「合理的理由」のうちには、「大学病院での診療報酬分も含めて本務先から給与支給」という理由もあげられている。大学病院で支払うべき給与も、本務先の病院で支給しているのだとしたら、大学から本務先の病院への給与のつけまわし(本務先の医師配置に強い影響力を有する医局に忖度してそのようなことが行われているのだろうが)であり、労基法の賃金の直接払いの原則に反する。

文科省の無給医の調査結果は、無給医の実態の氷山の一角を明らかにしたものの、その全体を明らかにしたものでなく、氷山の下には多数の無給医の実態が隠されている。

7月13日(土)に東京で、全国医師ユニオン主催の「無給医シンポジウム~実在、無給医!解決の道筋を探す!!~」が行われ、多くの無給医をはじめ医療関係者、弁護士、マスコミが参加し、私がかつて担当した鳥取大学医学部大学院生だった故前田伴幸さんの過労運転事故等について基本報告をしたうえ、月14日に及ぶ当直勤務に就いた無給医の報告や、会場からの、同僚の大学院生の無給医が精神的に病んで倒れたり、無給であることを認める文書を強要されているとの涙の報告もあった。
医師の勤務現場の非常識、いやそれに留まらない労働基準法を無視した、刑事罰の対象となる窮極の賃金不払労働の是正は、労基法違反について司法警察権を有する労基署、そして厚生労働省において、強制権限に基づき直ちに解決されるべき課題だ。

このシンポジウムをうけて、全国医師ユニオン・日本労働弁護団では、つぎのとおり「医師の長時間労働・無給医ホットライン」を実施する。

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2019年5月22日 (水)

『働きすぎの時代』(岩波新書)の中国での翻訳出版

過労死問題の著述と運動に尽力し、昨年8月に亡くなられた森岡孝二関西大学名誉教授の岩波新書『働きすぎの時代』が、中国で翻訳出版(タイトル『過労時代』)されたことを毎日新聞(5月20日朝刊)が報じています。
昨年の過労死防止学会(当時、森岡氏が代表)でも、中国、韓国の過労死関係者が、それぞれの国の働きすぎと過労死の現状を報告しました。
働きすぎ、そして過労死の問題が日本にとどまらず、グローバルな問題となっていることを示す記事として紹介します。

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2019年3月22日 (金)

公立学校教員の長時間勤務による心身の健康に「特区」をつくらないために

大阪府立高校の教員が、長時間勤務により適応障害を発病して休業に至ったことについて、大阪府に対する損害賠償(国家賠償)の訴訟を、本年2月25日に提訴しました。
公立学校の教員が、長時間勤務の下で過労死や過労自殺に至ったり、この件のように精神疾患を発病した件については、地方公務員災害補償基金支部(民間労働者で言えば労働基準監督署)で、公務による長時間勤務に起因したもの(公務上災害)として、公務上認定されている事案が多くあります。
民間では、長時間勤務によるものとして業務上として認定された過労死・過労自殺等については、ほぼ例外なく、遺族や被災者が企業賠償責任を追及し、損害賠償請求を認める判決が多数下されています。
私が過労死事件に40年間取り組んでいて、最も不思議に思っていたのは、公立学校、更には私立学校についても、教員の公務上(業務上)認定は多くされていても、損害賠償請求の提訴が見当たらないことでした。
この事件は、その問題に一石を投じる、小さい事件ながらも、大きい意義のある訴訟と考えています。
なぜ、教員について損害賠償請求がされることがなかったのか、公立学校の教員の教職員給与特例法(給特法)の問題、生徒のためにという教員の善意と生きがいで保たれている教員現場の状況、考えることがたくさんあります。
みなさんのコメントをお待ちしています。
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2018年12月17日 (月)

やりがい「搾取」の過労死・過労自殺(2)

前のブログで、「やりがい搾取」による「やりがい過労死」と書いた大阪の大手コープの過労死事件は、コープが、被災者の遺族に陳謝し、今後、職員の労働時間管理や健康管理に尽力することを約束させ、そのうえで相当額の解決金を支払うことで、訴訟提訴前に和解契約が本年12月10日に成立した。
この事件を担当した弁護士の一人として、「会社への」やりがいから生じる過労死が再発することのないよう、労使が取り組むことを強く求めたい。
ネットで「やりがい」を検索していたら、ウィキペディアで「やりがい搾取」という言葉が、既に、東京大学教授で教育社会学者の本田由紀氏によって名づけられていることを知った。
ウィキペディアによれば、「やりがい搾取とは、経営者が金銭による報酬の代わりに労働者に『やりがい』を強く意識させることにより、その労働力を不当に安く利用する行為をいう。やりがい搾取という造語は、2007年前後から本田が著書などで使い始めたことで広く認知されるようになった。ブラック企業とやりがい搾取は密接な関係にあるとされ、『やりがい』と『報酬』はトレードオフの関係にはならない。」としている。
10年以上も前から「やりがい搾取」に注目した本田教授に敬服する。
ただ、私は「ブラック企業」以上に「優良企業」においてこそ「やりがい搾取」と密接な関係にあると考えているが。
過労死等の事件は、いわゆる「ブラック企業」のみで生じるものではなく、社会的に評価も高い「優良企業」においても同様に生じている。否、社員が仕事を「いきがい」と感じている「優良企業」の方が、過労死等を生み出す長時間勤務が生じやすい、労使こぞっての「企業風土」がはびこりやすい要因を抱えているとさえ言えよう。
その「企業風土」に、しつこいようだが、労働時間の適正把握が懈怠されている状況が介在することにより、過労死等は生まれてくる。
「優良企業」で過労死等が生じると、「何で法令遵守に努めてきた当社で過労死が」と絶句するトップを多く見てきている。
社員がいきがいをもって働いていると自負する会社こそ、「いきがい搾取」の下での「いきがい過労死等」が生じるリスクがないか。「企業風土」「労働時間適正把握」の点検から始めてはどうだろうか。

2018年11月30日 (金)

やりがい「搾取」の過労死・過労自殺(1)

働くことは、その仕事の内容や勤務先への思いのなか、多かれ少なかれ、やりがいがともなうことは言うまでもない。
教師であれば、生徒が生きる力をつけ、学力をあげ、あるいは部活でよい結果を残すことに、大きなやりがいを感じるであろう。
私も、大学を卒業するまで、そんな教師という仕事のやりがいに魅力を感じ、教師を目指したことがあった。
仕事へのやりがいと同様に、あるいは日本の企業社会のなかでは、勤務先のカイシャのためにというやりがいも多くの比重を占めている。

(今、前日の米子の皆生温泉での勤務医の過労死についての講演を終え、伯備線で岡山に向かう途中、中国山地の燃えるような錦秋を楽しむべく一時中断…)

そのやりがいの仕事に対し、労働者の「自主的・自発的な活動」だとして、使用者が労働時間管理を怠り、それに対する正当な対価を支払わなければ、その仕事や「カイシャ」は労働時間泥棒としてブラックな評価がされることになる。
過労死・過労自殺の多くの事件は、労働時間が適正に把握されていない下での使用者の時間泥棒によって生じていることは、何度もこのブログで強調してきたことだ。

教師については、文科省の2017年に公表された調査によっても、月80時間の時間外勤務がされているのに、給特法により僅か月8時間相当の教職調整額が支給されるのみで、時間泥棒が正当化されている。
8時間を超える時間外勤務は、教師がその仕事へのやりがいのために行う自主的・自発的活動とされてしまう。

昨日講演した勤務医についても、「患者の命と健康のためなら」とのやりがいの下で、不払残業があたりまえになり、勤務時間が把握されない下で、多くの過労死・過労自殺が生じている。

私が担当している大阪の大手生活協同組合が経営する店舗の精肉部門の社員も、「一人は万人のために、万人は一人のために」の理念の下、組合員が協同してより良い商品を提供するという生協が好きで勤務していた。
しかし、長時間勤務が続くなか、虚血性心疾患を発症し、平成29年3月5日過労死している。
日々早出・残業が続いていたにも拘らず、ほぼ所定の始・終業時刻に打刻がされていた。
精肉部門の責任者として、そして生協に勤務することにやりがいを感じていた社員として、パート・アルバイトの人件費を削ることができないなか、自分の早出・残業代を削って申告するなか過労死に至っている。
このような働かせ方は「やりがい搾取」からうまれる「やりがい過労死」と言っても過言ではない。
この件については、毎日放送が放映しており(https://www.mbs.jp/voice/special/archive/20181115/)、近日大阪地裁に提訴予定だ。

再び車窓の景色に戻るが、つぎのブログでもこの問題について考えてみる。

2018年6月21日 (木)

部活顧問教師の過労死と給特法①

北陸のある県の市立中学校A先生が、長時間の部活動の下で脳血管疾患を発症し過労死した件が、先日公務上と認定された。
公立中学校の教師が、長時間の部活動を背景に過労死した件について、私が担当した件のみでもつぎの3件があり、A先生で4件に及んでいる。(参照
  認定年月   顧問の部       発症病名      公務上認定
①平成26年11月 バレーボール部顧問 虚血性心疾患(死亡) 大阪府支部長
②平成27年1月 軟式野球部顧問     急性心不全(死亡) 岡山県支部審査会
③平成27年7月 バレーボール部・駅伝部顧問 脳出血(救命)     高知県支部長

民間なら長時間の時間外・休日労働に従事すれば、時間外・休日についての手当が割増分も含めて支給されるのは、労基法上の常識。使用者がこれを支払わなければ労基法違反として6ヵ月以下の懲役、あるいは30万円以下の罰金となる。
では、公立学校では、この労基法の常識が通用するのか。過労死した教師には時間外・休日の割増賃金が支払われていたのか。否である。

公立学校の教職員については、給特法(正式名は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)があり、限定された超勤4項目の勤務(生徒の実習、学校行事、職員会議、非常災害等)以外については、校長ら管理者から時間外・休日勤務は命じることができないこととなっている。
では、教師が時間外・休日にしている教材研究、テスト作成・採点、家庭訪問、そして部活動はどうなるのか。
驚くことなかれ。文科省も、更には裁判例の多くも、教師が自主的・自発的に行っている「勤務」であり、管理者の指揮命令下に行われる「労働」ではない、だから時間外手当等は支払う必要はないとしている。
僅か4%の教職調整手当の上乗せで、教師の勤務の専門性、特殊性(わかりません!)を理由にしてだ。
労基法の常識が、給特法により公立学校の教師については通用しなくなっている。
それが、コストのかからない教師の「不払残業」の下での長時間勤務が生じ、過労死を生んでいる。
この点については、更にこのブログで深めたい。

ところで、私がこのブログで一番述べたかったのは、A先生の公務上認定に尽力された、当時の県教組のB書記長のことだ。
B書記長は、A先生の過労死の公務上認定のために、書記長という重責を担うなか、寝食も忘れんばかりにA先生の勤務実態を明らかにするために取り組んだ。
私は、先の3件の中学校の部活顧問の過労死のみならず、教師の多くの過労死・過労自殺の公務上認定に取り組んできたが、教職員組合のトップたる地位(B書記長は、その後委員長に就任した。)にある人が、その中心となって公務上認定に取り組んだ例は聞いたことがない。多くは遺族の孤立した取り組みだ。
教職員組合のなかでは、書記長がそこまでとの批判めいた意見もあったとは聞く。
この、教師の命と健康ファーストの公務上認定の取組みによって、組合員・非組合員を問わず、教師の教職員組合への信頼が高まったことは言うまでもなかろう。

2018年2月21日 (水)

誰でもできる三六協定の情報公開請求

就業規則と同様、三六協定も事業場に見やすい場所に掲示することが労基法で定められています。
しかし、多くの事業場では三六協定は掲示されることなく、勤務する労働者でさえその内容がわからず、どうしたら三六協定の内容がわかるのかとの相談をよく受けます。
三六協定の開示(一部は黒塗りになりますが)を認める判決があることは先のブログ(過労死と36協定の情報公開)で述べたとおりで、勤務先の労働者のみならず、誰でも以下の方法で開示を求めることができます。
・開示請求先;事業場のある労働局(労基署ではありません。)
・事業場の特定方法;A株式会社B営業所(A株式会社ではなく、本社、支店、営業所を特定する必要があります。)
・期間の特定;平成〇〇年〇月当時有効な協定
開示請求書のフォームはつぎのとおりです。

「kaijiseikyuu.pdf」をダウンロード

三六協定ウォッチングをすることは過労死ラインの三六協定をなくす力になります。
あたなも過労死防止のため、情報公開請求をしてはいかがでしょうか。
過労死ライン超えの三六協定については、労働局が自ら情報公開すべきなのでしょうね。

2018年2月20日 (火)

過労死と36協定の情報公開

「働き方改革」の議論のなかで、過労死ラインを超えた36協定の特別条項の問題が大きな争点となっている。
大阪過労死問題連絡会は、過労死を生み出す要因であるこの問題を明らかにするため、平成16年に36協定の情報公開を求める訴訟を大阪地裁に提訴し、平成17年3月17日に公開を認める判決(労働判例893号47頁)を得て、国側の控訴はなく確定した。
以降、私はこの判決に基づき36協定の情報公開によるウォッチングを続け、過労死ラインを超えた特別条項が、優良企業と称される大企業も含めて、労使合意の下、締結されている事実を「発見」してきた。
10数年前のこの訴訟の意義を見直すことは、「働き方改革」を考えるうえで大切であると考え、当時私がこの訴訟について述べた文章を掲載する。

1 過労死救済から過労死防止へ
大阪過労死問題連絡会は、1981年6月に創立以降、過労死の遺家族の労災認定や企業賠償責任追及の訴訟等を通じてその救済を進めてきた。
しかし、毎年行ってきた過労死110番に寄せられる相談の過半数は、夫や子が長時間労働により心身の健康を損ねることを憂える妻や父母の声であった。
過労死の遺家族の救済にとどまらず、過労死を生み出す職場の労働環境の改善を、遺家族の「ノーモア・カローシ」の声を背景に進めることなくして過労死問題への取組みはない。

2 「ノーモア・カローシ」の2つの課題
「ノーモア・カローシ」の運動を進めるには何を重点にすべきか。過労死事件の温床の1つはサービス残業(賃金不払残業)であり、もう1つは36協定の問題である。
サービス残業は、タダで労働者の労働時間を買うことができるものであることから、長時間労働、過労死の温床を職場に生み出す元凶である。また、サービス残業がはびこる職場では労働時間の把握は行われておらず、過労死の労災認定に取り組む遺家族にとっては、労働時間を立証する大きな壁となっている。サービス残業や労働時間管理がなされていない職場では過労死は(証拠がないため)認められない、こんな不合理は許されない。労基オンブズマンでは「サービス残業110番」を実施し、その相談(労働者である夫や子からの相談でなく、殆んどは家族からのものである)に基づき、労働局への匿名による労基法違反の告発や、サービス残業分の割増賃金(付加金も含めて)の請求をするなどの取組みをしてきた。
サービス残業への取組みと併行して「ノーモア・カローシ」のもう1つの柱の運動として36協定問題への取組みを進めることになった。

3 過労死を生み出す36協定の存在
36協定問題の重要性を認識したのは、ある大手電器メーカーの工場で技術職として勤務していた青年が過労死した事件についての会社とのやりとりのなかからである。
その青年の月当りの時間外労働は月80時間を超えることが資料等により明らかであったが、会社の労務担当者は、「当社には36協定違反の事実はない」と胸を張って36協定を提出した。
その協定には、時間外労働の限度として、一般の業務に従事する者については月当り40時間以内(1年360時間以内)と記載されている。しかし、「新技術・新商品等の研究開発に従事する者の場合、月当り60時間以内」としたうえ、「但し、特別な事情によりこの基準(月60時間)を超えて時間外労働を行わせる場合は年900時間以内とする」と定めていた。
36協定による時間外・休日労働の延長の限度については、平成10年12月28日労働省告示第154号で1ヵ月45時間、1年間360時間等が定められ、これが職場で守られていれば過労死は生じるはずはなかろう。

4 36協定の2つの抜け穴
この36協定の条項には2つの重要な問題がある。1つは新技術・新商品等の研究開発業務に従事する者については、前記の36協定の限度時間についての告示の対象外となり、時間外労働については限度がなく青天井である点である。
もう1つは、「特別な事情により」時間外労働に従事させるときは、この告示の限度時間を超えることを、告示自らがその第3条で認めている点である。いわゆる特別条項の問題である。
この2つの点については後に詳述するが、労基法上は時間外労働の限度を定め、長時間労働を規制するための36協定が、逆に職場のなかでは月80時間の時間外労働という過労死ラインを超える長時間労働を容認するものとなっていたのである。

5 大阪労働局長への情報公開請求
厚生労働省に、労基署長が受理した36協定の特別条項についての調査をしているかと聞いてみたが、そのような調査をしたことはないとのこと。労基オンブズマンとして36協定、とりわけその特別条項を社会的に明らかにすべく03年2月、大阪労働局に対し02年4月1日から4月4日の間に大阪中央労基署長に届出された36協定について情報公開法第3条に基づく情報公開請求を、労基オンブズマンの会員弁護士が個人として行った。
この情報公開請求の目的は、どの事業所(A社B支店等;36協定では「事業の名称」欄に記載される)において、どのような内容の36協定が締結されているかという点にある。「事業の名称」の開示なくしては、過労死ラインを超える36協定特別条項が、どの会社のどの事業所で締結されているかを明らかにできない。

6 情報公開訴訟の提訴
しかし、大阪労働局長は、「事業の名称」等を不開示とする決定を下し、厚生労働大臣に審査請求をしたが、「事業の名称」等については不開示とする裁決が04年3月に下されたため、大阪地方裁判所に不開示処分取消を求める情報公開訴訟を提訴した。
障害者雇用率についても、36協定の情報公開に先立って、大阪の株主オンブズマン等が情報公開請求を大阪労働局長に対して行い、事業所の名称を含めた開示を得ていた(情報公開審査会の答申に基づく厚生労働大臣の裁決により)。
障害者雇用率も36協定の内容も、会社としては社会的に知られたくない情報であろう。しかし、市民による会社の監視という点では、いずれの情報開示も重要性を有する。

7 訴訟での争点
大阪地裁での主な争点は、36協定の「事業の名称」を含めた情報が、
① 人の生命、健康、生活又は財産を保護するために公にすることが必要と認められる情報に該当するか(情報公開法5条1号ただし書ロ)
② 当該法人又は個人の正当な利益を侵害する情報であるか(同法5条2号のイ)
③ 国の機関等が行う事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか(同法5条6号)
の3点であった。原告は、36協定を公開し、それを市民的監視の下におくことは事業者(会社)にとっては知られたくないことであっても、労働者の心身の健康を守るために大切であること、また適正な36協定の締結という行政目的を遂げるためにも、その内容を開示することが重要であることを主張し、神戸大学阿部泰隆教授の意見書を提出した。

8 「事業の名称」の開示を認めた判決
05年(平成17年)3月17日に下された判決(労働判例893号47頁)は、①の点については該当しないとしたものの、②については、「個々の事業者が就業時間等を公にしたくないということはあり得るが、情報公開法5条2号イの利益侵害情報に当たるといえるためには、主観的に他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず、当該情報を開示することにより、当該事業者の公正な競争関係における地位等の利益を害するおそれが客観的に認められることが必要であるところ、本件においては、かかるおそれが存在すると認めるに足りる証拠はない。」として、利益侵害情報に該当しないとした。
また③については、「事業者は、使用する労働者に法定労働時間を超えて勤務させ、又は法定休日に勤務させようとするときは、36協定を行政官庁に届け出なければならないのであり(労基法36条1項)、協定届には本件様式に準じ必要的記載事項を記載しなければ、行政官庁はこれを受理しないのであって、この点につき事業者に選択の余地はない。そして、前記1および2において不開示情報に当たると判断した部分以外の部分について、当該事業者が作為的記載をし、これによって被告の監督事務が妨げられるおそれがあると認めるに足りる証拠はない。そうすると、前記1及び2において不開示情報に当たると判断した部分を除いた本件不開示情報を開示したところで、行政官庁にとって正確な事実の把握が困難となり、又はこれに類するような実質的支障が招来されるおそれがあると認めることはできない。」として、労基署長の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはないとした。
この判決により、「業務の種類」「労働者数」「時間外休日労働をさせる必要のある具体的事由」等の開示は認められなかったものの、どの会社のどの事業所で、時間外・休日労働について、どのような限度基準の36協定が締結されているかが市民的監視の下におかれるようになった。

9 判決に基づく日経500社の36協定の開示
労基オンブズマンは、この判決に基づき、日本を代表する大企業とも言える日経500社の本社における36協定について、全国各地の労働局長宛に情報公開請求を行った。そのうち大阪府下に本社のある会社の情報公開により入手した36協定特別条項で定められた時間外休日労働の限度時間は別表記載のとおりである。
時間外労働のみで過労死ラインの月80時間以上の限度が定められている会社はほぼ半数に及んでいる。
この訴訟を提訴する契機となった「当社には36協定違反の事実はない」と胸を張った労務担当の言葉は、過労死が生じている多くの会社にとって共通のものであることが明らかになった。

10 情報公開に基づく運動について
36協定の情報公開を通じて、いかなる事実を明らかにしていくべきか、つぎの各点が考えられる。
① 過労死ラインを超える36協定特別条項の存在を社会的に明らかにして、そのような36協定を受理させない取組みを労基署、労働局、厚生労働省に対して行うこと
この点に関し厚生労働省は、平成15年10月22日基発1022003号をもって、特別条項の「特別な事情」は臨時的なものに限り、その内容にできる限り詳細に協定を行い届け出ることなど、特別条項の限定的運用を求める通達を出している。目に余る特別条項のある会社を中心に、協定を受理させない具体的取り組みも必要ではないだろうか。特別協定のある事業所では、限度基準告示に基づく一般協定は無視され、過労死ラインを超える特別条項が時間外・休日労働の延長の基準になっている。原則と例外の逆立ち現象から過労死が生まれている。
また、特別条項を適用するには事前に労使当事者の手続を要することを告示は定めているが、この手続がずさんになっており、労働者側のチェックが事実上なされていない事業所が多い。この点の検討も不可欠である。
② 過労死を生じた職場の36協定を開示させ、過労死と36協定との関係を調査すること
36協定の適正な締結のない職場が過労死を生み出すことを明らかにする。過労死問題と36協定が運動としてつながったとき、社会的共感の下、大きな運動につながることが期待される。
③ 36協定の限度時間の告示の対象外となっている業種を撤廃させること
36協定の限度時間の告示に定められた限度時間の定めは、
・工作物の建築等の事業
・自動車の運転の業務
・新技術、新商品等の研究開発の業務
・季節的要因等により業務量の変動の著しい事業
については適用しないことを告示第5条は定めている。
しかし、これら事業または業務では長時間労働が常態化し、過労死が多く生じている。36協定で時間外・休日労働を強く規制すべき事業または業務を、告示の限度時間の対象からはずしているのである。
自動車の運転業務については、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」があるからとのことである。しかし「改善基準」そのものが、例えばトラック運転手については1日16時間、1ヵ月293時間の拘束労働時間を認めるなど、「改善基準」として機能していない。トラック、タクシー、バス運転手の過労死、過労運転による事故は、「改善基準」並びに告示の除外業種になっていることから生じていると言っても過言でない。
「新技術、新商品等の研究開発」について、先に述べた青年が過労死した大手電器メーカーでは、「システム開発業務、ソフトウエア開発業務、生産技術開発業務、施設技術開発業務、宣伝デザイン業務、マーケティング・リサーチ業務等」その業種の範囲は無限定とも言える内容となっている。
労働者の健康や安全を守るため限度時間を厳格に定める必要のある、長時間労働のはびこりやすい事業、業務を意図的に告示から除外しているものであり、この是正は欠かせない。
④ 医師を除外した36協定のチェック
医師の過労死・過労自殺の事件が注目を集めている。医師の殆んどは月80時間を超える、かつ精神的緊張度の高い時間外労働に従事している。
病院の36協定を調べると、医師については限度時間の定めをしていないものが多く見られる。限度基準の告示を遵守して定めをしても、到底その時間外・休日労働の限度内では業務を行うことができないからであろう。
また特別条項を定めても、それは常軌を逸した長時間労働を認めたものになってしまうからである。ある赤十字病院の特別条項は、「労使の協議を経て1ヵ月につき180時間、1年につき1800時間までこれを延長することができる」と定められている。
医師の長時間労働に対しては、患者の命と健康を守る視点からも取組みが必要である。
⑤ 休日労働について
36協定では時間外労働が注目されるが、休日労働についてのチェックも不可欠である。すべての休日に休日労働に従事させることができる旨定めた協定も少なくない(別表参照)。時間外労働の限度と休日労働の限度をセットにして労働時間の延長の問題を考える視点が大切である。
36協定の情報公開訴訟の判決により、どの会社の36協定についても市民的監視が可能となった。36協定の内容の開示に基づき、労働行政に対してはその受理の適正化を求めるとともに、刑事処罰も含めた事業所への監督を求めることが大切である。
⑥ 労働時間の把握なくして労働時間の規制なし
36協定が有効に機能するためには、適正な労働時間の把握が不可欠である。多くの職場、とりわけホワイトカラーの職場では、サービス残業と36協定違反の長時間労働を隠ぺいするため、過少な自由申告による労働時間把握しか行われていない。
また、ホワイトカラーエグゼンプションが職場のなかでは先取りされており、管理監督者でない管理職(判例では部長職でも管理監督者でないとするものもある)に対する労働時間管理は全くなされていない職場も多い。
適正な労働時間管理のない職場では、36協定の限度時間は画餅にすぎない。「労働時間の適正な把握のため使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日、基発第339号)を活用して、タイムカード等による客観的な記録に基づく労働時間把握を併行して求めることも不可欠である。
⑦ 36協定が生み出す過労死への責任追及
会社、事業所に対しては、まず過労死ラインを超えた36協定をやめさせたり(ケースによっては労働組合、労働者代表への申入れも必要であろう)、更には、前記の医師についての36協定のように、過労死ラインを大幅に超える36協定が労使間で締結され、かつ労基署長がこれを受理したような職場で過労死が生じたときは、会社のみならず労働組合や労基署長(国)を被告とする損害賠償請求さえ課題となろう。

2018年1月11日 (木)

過労死110番30周年を迎えて

1988年に過労死110番が始まって今年で30周年になる。
この年の4月に大阪過労死問題連絡会が全国にさきがけて過労死の電話相談を行った。
受付時間の10時から電話は鳴り続いた。
働き盛りの40代、50代の夫の脳・心臓疾患の過労死についての妻からの悲痛な相談だった。
この大きな反響を受けて、全国規模での過労死電話相談を、当時過労死に取り組んでいた弁護士や医師らに呼びかけ、6月に全国で過労死110番が取り組まれた。

私にとって過労死110番は、労働現場の個別・特殊な問題から、一般・普遍な問題として考えさせる大きな転機となった。
過労死110番の30年は、概略的に言えば、はじめの10年は労災認定、次の10年は企業の賠償責任、最近の10年は過労死等の予防と言うことができよう。
過労死・過労自殺の労災認定は、過労死110番の始まる前の認定率3%から、今では30%を超えるに至っている。
企業賠償責任も、最高裁電通過労自殺判決を契機に大きく前進し、3年前の過労死等防止対策推進法の下での、国や企業による防止対策は、その逆流もありながらも一歩ずつ進むことに期待したい。

私が担当する過労死・過労自殺事件の多くは、地方の孤立した遺族・被災者からのものだ。「旅する弁護士」として、全国各地の事件に取り組んでいる。
過労死問題解決への歩みは進みながらも、当然労災認定され、企業責任のある事件であるのに取り組みを躊躇していることが少なくない。
また、家族・知人が、労災認定等の救済の手続が困難、かつ費用と時間がかかると思い込んで、「善意」で手続を引き止める場にも出会うことが少なくない。

過労死110番の30周年を通じて、遺族・被災者の労災認定、企業賠償責任の道は広く拓かれてきた。
救済されるべき遺族・被災者が全て救済されるよう、「働かせ方改革」による労働時間の液状化に抗して、働く者の立場からの「人たるに値する生活を営むための生活を充たす」(労基法1条1項)労働時間の規制による過労死予防を願いながら、過労死110番30周年の新年を迎えている。

2017年12月26日 (火)

副業・兼業による過労死・過労自殺

○「働き方改革」の一環として、政府は「柔軟な働き方に関する検討会」を開催し、そのガイドラインの策定に向けた議論を進めている。

○そのなかで、テレワークなどのほか、副業・兼業を促進する方向でのとりまとめが行われようとしている。検討会では、
「副業・兼業を希望する労働者が年々増加する一方、多くの企業では、副業・兼業を認めていない現状にある。業種や職種によってさまざまな実情があるが、社会の変化に伴い企業と労働者との関係が変化していく中、労働者が主体的に自らの働き方を考え、選択できるよう、副業・兼業を促進することが重要である。また、労働者の活躍をひとつの企業内に限定しない副業・兼業は、企業にとって優秀な人材を活用する手段ともなりうる。」
として、「幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要であ」りとし、行政の対応を求めている。

○労基法は、労働者の人として値する生活を確保するための最低基準であり、そのためには岩盤規制たることが求められるというのが私の持論だ。
36協定、とりわけその特別条項で、労基法の労働時間規制は、労使合意の下でその岩盤は大きく陥没し、液状化している。「柔軟な働き方」も、労基法の最低基準をないがしろにした労働の液状化をもたらすことに警戒しなくてはならない。

○若年を中心とした労働者の少なからずの者は、既に経済的にダブルジョブ・トリプルジョブと、副業・兼業をせざるを得ない状況となっている。その結果、複数事業所での勤務時間を通算すれば、過労死ラインを超える長時間労働に従事し、その結果、過労死・過労自殺が生じている。

○しかし、兼業・副業による長時間労働があっても労災として認定されない。厚労省は、労災保険法の趣旨は、労基法で定められた個々の事業主の業務上災害についての補償責任を保険化したものであり、複数事業主の下での勤務で長時間労働が認められても労災として認定しないとしているからだ。

○また、1つの事業主の下での長時間労働が認められたとしても、労災補償の額は、副業・兼業して得ていた給与の額を合算して算出するのではなく、1つの事業主から得ていた給与の額が基準となる。労災と認定されても、それまで得ていた給与と比べて、著しく低額の補償しかされないことになる。

○副業・兼業による働き方の液状化には反対するが、その議論をするなら、副業・兼業における過労死等の労災認定の考え方、労災補償額の算定方法につき直ちに見直すことが必要だ。

○現行法の下でも、労災保険法の趣旨が、事業主全体による業務に内在する危険から生じた災害についての補償と位置づければ、厚労省が通達を発出することにより見直しは可能だと考える。現にかつては、補償額については合算すべしとした大阪労働局の通達もあった。

○そして何より大切なのは、副業・兼業の下で必ず生じる長時間労働をどう規制するか、労働時間の把握を複数事業主の間において、いかなる方法によって行い、行いうるのかである。

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