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労災認定

2023年6月28日 (水)

出血性胃かいようによる死亡についての労災認定

電気工事会社を60才で定年退職後、再雇用で勤務していたA氏(62才)が令和3年12月10日、自宅で出血性胃かいようを発症し死亡しました。
発症前には、大きな会館新築の電気工事の現場代理人をしており、施主や元請からの工期や工事仕様の厳しい変更による困難な業務の下、月100時間を大きく超える時間外労働が続いていました。
この件につき、富山労働基準監督署長は、本年5月19日付けで業務上による死亡と判断し、妻が請求していた遺族補償等の支給決定を下しました。当職がその代理人です。

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過労死等防止対策推進法は「過労死等」について、第2条で「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」と定めています。

 

しかし、長時間労働等により過労やストレスが蓄積すると脳心臓疾患や精神障害(自殺を含む)のみならず、この事件のような消化器系疾患や、喘息の重積発作等の呼吸器系疾患等も生じています。
過労・ストレスがたまると胃がキリキリ痛む、そんな経験は誰しもがしているのではないでしょうか。ストレス性疾患と聞いたとき、まず浮かぶのが胃かいよう等の消化器系疾患です。
富山労基署長の業務上の判断は、働いている人の実感としては常識といえるでしょう。

 

ほぼ20年前に、同じく私が担当した貿易会社のバイヤー社員が、海外出張中に十二指腸かいよう穿孔を出張先の香港で発症した事案で、最高裁判決でようやく(発症から15年以上かかりました)業務上と認められています(最高裁平成16年9月7日判決)。
この最高裁判決が下されてから20年後に、この富山労基署長の決定が下されたことは、私個人としても感慨深いものです。

 

「過労死等」のうちに消化器系疾患、また判例が積み重ねられている喘息の重積発作死、更には労働保険審査会で認められた事例のあるてんかんの重積発作死(当職が担当した事案です)等も含めて、国や社内での対策が行われることを期待しています。

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2022年1月 4日 (火)

新認定基準の改正とそれに基づく自庁取消し 居酒屋「庄や」柏西口店の調理担当店員の過労死(救命)

●20年ぶりの認定基準の改正
脳血管疾患あるいは心臓疾患の発症(以下、過労死といいます)の業務上外を判断するにつき、厚生労働省は通達という形で「認定基準」を定めています。平成13年12月12日に、厚生労働省は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号労働基準局長通達)という通達を定めていましたが、20年ぶりに専門検討会報告書の医学的知見等を踏まえて「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日基発0914第1号)を新たに定めました。既に労基署に申請中の事案についてもこの認定基準に基づいて業務上外の判断がされることになります。
●旧認定基準の「過労死ライン」は妥当としています
長期間の過重業務の労災認定にあたって労働時間の評価について、旧認定基準は、
① 発症前1~6か月間平均で月45時間以内の時間外労働は、発症との関連性は弱く、月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる
② 発症前1か月間に100時間又は2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い
としてきました。
②の時間外労働は「過労死ライン」と呼ばれていますが、新たな認定基準においても妥当であるとされています。
●「過労死ライン」に達していなくても、労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮
改正点で最も重要なのは「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるときは、労働時間以外の、
・勤務時間の不規則性
・事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務
・作業環境
等の負荷要因も総合的に考慮して、業務上外の判断を行うとしたことです。
勤務時間の不規則性のうちには不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務が挙げられていますが、旧認定基準では評価されなかった「交替制勤務がスケジュールどおり実施されている場合や、日常的に深夜勤務を行っている場合であっても、負荷要因として検討し、労働時間の状況等を合わせて評価する必要がある」としている点が重要です。
旧認定基準も、労働時間以外の負荷要因について十分検討することとしていました。しかし、業務上外の判断では「過労死ライン」の水準に至っているか否かが重視され、労働時間以外の負荷要因の範囲は限定され、かつ付加的にしか評価されていませんでした。今回の改正は、過重性の評価にあたり労働時間という量的過重性に偏重することなく、従事していた業務の質的過重性を総合評価するようになったことが、被災者・遺族の救済にとって最も重要な点です。
●「過労死ライン」に達しない事案についても判例の多くは他の負荷要因を総合評価してきました
「過労死ライン」に達していないため業務外とされたり、申請をあきらめていた方も少なくないと思います。しかし、改正前でも裁判所の判例には「過労死ライン」に達していなくても、それに近い時間外労働が認められる事件については、他の負荷要因(質的過重性)を総合評価して業務上と判断したものが少なくありませんでした。
今回の認定基準の改正は、昭和62年(発症前1週間の評価)、平成13年(発症前6か月間の評価)の改正同様、行政の認定基準の狭い門戸により業務外とされた遺族・被災者が、これにめげず訴訟で争い業務上と認めさせてきた判例の集積のなかでなされたものです。
●「これに近い時間外労働とは」
では、新認定基準で過労死が業務上と認められる救済の門戸は大きく広がるのでしょうか。そのカギを握るのは過労死ラインには至らないが、「これに近い時間外労働」とは、どの程度の時間であるかの点です。
新認定基準は具体的な時間外労働を数値では示していません。
しかし、厚労省が認定基準と同時に発出した認定基準の「運用上の留意点について」の通達(以下「留意点通達」といいます。)では、「『これに近い時間外労働』については、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることから、労働時間以外の負荷要因の状況によって異なるものであり具体的な時間数について一律に示すことは困難である。」としています。
一方で「留意点通達」は、「報告書においては、①長時間労働と脳・心臓疾患の発症等との間に有意性を認めた疫学調査では、長時間労働を『週55時間以上の労働時間』又は『1日11時間以上の労働時間』として調査・解析しており、これが1か月継続した状態としてはおおむね65時間を超える時間外労働の水準が想定されたこと、②支給決定事例において、労働時間に加えて一定の労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事例についてみると、1か月当たりの時間外労働は、おおむね65時間から70時間以上のものが多かったこと、そして、③このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることが掲記されている。」としています。
この「留意点通達」を踏まえると、1か月当たりおおむね65時間から70時間を想定しているようです。
●旧認定基準で業務外とされた事案についての、新認定基準による自庁取消
私が担当している、大庄が経営する居酒屋である庄や柏西口店の調理担当の店員が脳内出血を発症(救命)した事案の発症前6か月間の時間外労働は、審査官の認定(労基署長の判断より若干上乗せしています)は、
   期 間    時間外労働時間数  平均時間外労働時間数
 発症前1か月目    87:22         ―
   同 2か月目    63:36       75:29
   同 3か月目    68:47       73:15
   同 4か月目    79:33       74:49
   同 5か月目    56:20       71:07
   同 6か月目    57:44       68:53
と、過労死ラインに至りませんでした。そのため行政段階では業務外とされたため、東京地裁で行政訴訟(業務外とした柏労基署長の判断の取消しを求める訴訟)を提訴し、令和3年12月23日に結審予定でした。
しかし柏労基署長は、令和3年12月6日付けで、新認定基準に基づき、業務外として不支給とした処分を自ら取消し(自庁取消)、療養補償給付について支給決定を下しました(休業補償、障害補償についても支給決定が予定されています)。
前記の審査官の認定した時間は過労死ラインの時間外労働に近い労働時間であるとしたうえ、原告(被災者)の店での勤務は、新認定基準が「労働時間以外の負荷要因」として挙げている不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務が認められるとして、その総合考慮により業務上としたものです。
新認定基準に基づき行政段階や行政訴訟で審理中の事案について厚労省は判断の見直し作業を行っているようですが、厚労省に確認したところ、本件は旧認定基準の下で労基署長が業務外と判断し、不支給決定を下した件につき自庁取消をした最初の事案とのことです。
新認定基準により、救済の門戸がどの程度広がるか、労基署の運用については予断が許せませんが、過労死ラインに達していなくとも、他の負荷要因を総合考慮することにより業務上と判断する救済の門戸が広がったことを示す自庁取消と言えます。

パナソニックの和解合意と、労基署の持ち帰り残業時間否定の不当性

1 パナソニック社員の過労自殺

被災者のA氏は、パナソニックの半導体関連事業の社内分社であるインダストリアルソリューションズ社(IS社)の富山工場(砺波市所在)で、2019年4月より製造部係長から異動し技術部課長代理として勤務していた。
製造部から技術部への異動と、課長代理に昇格し、業務内容・業務量が大きく変化するとともに、基幹職の資格を得るための昇格試験のため、部長や工場長の研修指導を受ける負担も加わっていた。
勤務していた富山工場では、原則20時までには退社することが定められていたが、A氏は社内でやり残した業務は持ち出しが許可されていた携帯パソコンを自宅に持ち帰り作業を行っていた。妻は毎日のように、日によっては早朝まで自宅でパソコンに向かって作業をする被災者の心身の健康を気遣いながら見守っていたが、A氏は2019年10月29日、自宅で過労自殺するに至っている。

 

2 砺波労基署は持ち帰り残業を労働時間として評価しなかった

砺波労基署に労災申請したが、社内のサーバーへのログイン・アウト並びにセキュリティシステムで判明する作業内容から、この持ち帰り残業を労働時間と評価して、社内の労働時間も含めて月100時間以上の時間外労働があるとして、業務上との判断が出ると考えていた。
しかし、同労基署は、仕事量・仕事内容の大きな変化等による心理的負荷は強として業務上と判断したものの、持ち帰り残業については労基法上の労働時間に該当しないとして一切認めなかった。
過労死等の労災認定にあたり、判例は労基法上の労働時間に限定することなく広く認めているものが多い。
しかし、厚労省は過労死等の労災認定にあたっての労働時間は労基法上の労働時間と同義であるとしている。

 

3 労基署が労働時間性を否定した理由

砺波労基署はこの厚労省の考え方を更に限定して、「A氏が使用していたパソコンの操作のログからは、社外に居た時間に昇格試験のための資料作成、会議のための資料作成等の作業を行っていたと思われるファイルへのアクセス記録が認められたが、それが客観的に見て、事業場側の都合によりやむを得ず仕事を持ち帰らなければならない状況が認められない限り、事業場に対する賃金の支払い義務、刑事上の罰則適用が生じうる労基法上の労働時間とまでは言い難い。よって、A氏が自宅で行った作業の時間は労働時間に該当しないと思料する。」とした。

 

4 持ち帰り残業の責任を認めさせたパナソニックとの合意成立

A氏の妻は、労災認定されたものの、日々自宅で深夜に至るまで黙々とパソコン作業をしていた夫の労苦をないがしろにするこのような労基署の認定には納得がいかなかった。
パナソニックとの損害賠償にあたっては、持ち帰り残業を含む長時間労働に対する責任なしには訴訟提訴すると心を決めていた。A氏の遺書の最後の「パナソニックは許さない。マスコミに伝えて」の一言が重かった。
交渉のなかで、パナソニックは、持ち帰り残業を含め労働時間の適正な把握を行う等の改善策を遺族に提示し、IS社の社長らが出席した場での謝罪を行った。そのうえで労基署の判断より一歩進め、「被災者の従事する過大な仕事内容・仕事量、並びに持ち帰り残業を含む長時間労働を是正し、心身の健康を損ねることのないよう注意すべき安全配慮義務があるのにこれを懈怠した結果、被災者がうつ病を発病し本件自殺に至ったことを認め」、持ち帰り残業を含めた責任を認め、解決金を支払う合意が2021年12月6日に成立するに至った。
持ち帰りを含め過労死等の労働時間の認定について、テレワークが一般化しているにも拘らず、厚労省の過労死等の労災認定での労働時間の認定は、企業の認識からも逸脱したものとなっていることの是正が求められる。

 

2021年8月25日 (水)

過労死の新たな認定基準の概要

厚生労働省は、過労死の認定基準の改正についてのパブリックコメントを、本年8月19日までを期限に求めていましたが(パブコメの期間は過ぎていますので、新たにコメントを述べることはできません。)、その際、新認定基準(案)の概要について公表しています。(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495210144&Mode=0)

 

今回の改正の最も重要な点である「長期間の過重業務」について、
ア 労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを示す。
イ 労働時間以外の負荷要因として、「休日のない連続勤務」、「勤務間インターバルが短い勤務」及び「身体的負荷を伴う業務」を示し、他の負荷要因も整理する。
としています。

 

専門検討会報告書の検討結果を踏まえて、労働時間は「過労死ライン」に至らなくても、労働時間以外の一定の負荷要因が認められるときは、業務と発症との関連性が強いと評価(=業務上)できるとしています。

 

パブリックコメントも終了しているため、本年9月上旬を目途にして、新認定基準を発出する予定としています。

2021年8月20日 (金)

過労死の認定基準の改正の動向 ―過労死ラインに達していなくても、あきらめずに―

1 改正に向けての専門検討会報告書
脳血管疾患もしくは心臓疾患の発症(以下、過労死といいます)について、厚生労働省および人事院等はそれぞれ通達という形で「認定基準」を定めています。
平成13年12月12日に、厚生労働省は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号労働基準局長通達)という通達を定めていましたが、20年ぶりに専門検討会報告書の医学的知見等を踏まえて、この認定基準は今秋にも改正される予定です。
専門検討会報告書に基づいて、過労死の労災認定の門戸がどのように広がるか考えてみます。

2 過労死ラインの水準に至らなくても、他の負荷要因も総合的に考慮
現行の認定基準は長期間の過重業務について、「発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」として、この時間外労働が認められれば原則として業務上と判断してきました。この時間外労働の基準は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれています。
この「過労死ライン」の基準は、新認定基準においても妥当とされています。
改正点で最も重要なのは「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるときは、労働時間以外の、
・勤務時間の不規則性
・事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務
・作業環境
等の負荷要因も総合的に考慮して、業務上外の判断を行うとしたことです。
改正前の認定基準も、労働時間以外の負荷要因について十分検討することとしていました。しかし、業務上外の判断では「過労死ライン」の水準に至っているか否かが重視され、労働時間以外の負荷要因の範囲は限定され、かつ付加的にしか評価されていませんでした。

3 時間外労働が1か月当たり65時間から70時間以上と他の負荷要因が認められれば「十分留意」
新認定基準では「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるとき」については具体的に定めていません。この点については専門検討会報告書が、「支給決定事例において、労働時間の長さだけでなく一定の拘束時間などの労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事案についてみると、1か月当たりの時間外労働は、1か月当たりおおむね65時間から70時間以上のものが多かったところである。このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分留意すべきである。」(49頁)と述べていることが参考になるでしょう。
労働時間以外の負荷要因についての詳しい検討は、次回のブログで述べてみます。

4 過労死ラインに達していなくともあきらめずに
「過労死ライン」に達していないため業務外とされたり、申請をあきらめている方も少なくないと思います。
新認定基準に基づいて労働時間とともにそれ以外の負荷要因を明らかにして業務上の判断に向けて力を尽くしましょう。
・対象疾病として重篤な心不全が加わりました
新認定基準では、認定基準が対象とする虚血性心疾患等に重篤な心不全が加えられました。不整脈や心筋症の基礎疾病を有していても病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合において、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて重篤な心不全に至った場合も業務上と認定されることになりました。
地公災や人事院の認定基準では、肺塞栓症も過重な業務により生じる対象疾病としていますが、厚労省の新認定基準では、長時間同一姿勢となる機会で多くの症例が報告されているとして、改正前と同様過労死の対象疾病としては認めていません。
長時間同一姿勢を強いられる業務、あるいは業務上の疾病による療養により発症したことが認められれば業務上と認定されるのは当然です。

2021年1月27日 (水)

大学院生の無給医に対する中央労基署長の是正勧告 ―鳥取大学医学部附属病院の無給医の過労運転事故から考える

全国の大学付属病院の大学院生の医師は、一般の勤務医と同様、外来・病棟・手術等の診療行為に従事しているが、それに対する賃金は支払われず、無給医と呼ばれている。
日本医科大学付属病院(東京都文京区所在)の大学院生の医師が、診療業務に従事しているのに賃金が支払われないことについて、中央労基署長に労基法違反として申告した件について、代理人として関与してきた。
令和元年12月に申告がなされて1年余り経過した本年1月20日に、同労基署長から、無給医の労働者性を認めたうえでの、つぎのような内容の是正勧告と指導票による指導が下された。

是正勧告
労基法24条
・大学院生の医師に対して令和元年10月28日から同年11月9日の間の外来診療に対する賃金を支払っていないこと
指導票
・勧告した以外の外来診療についても同様に労基法の時効の2年間に遡って実態調査を行い、その結果確認した労働時間に従って賃金を支払って下さい。
・医師の明確な労働時間管理の確保の観点から令和元年7月1日付け基発0701通達において労働時間該当性が示されているので、これに該当するような研鑽を行うときは労働時間になります。
この通達に基づき大学院生の医師が行っている業務の内容を精査して労働時間に該当する場合は賃金の支払等所要の対応をして下さい。

この是正勧告等が下されたことにつき、申告をした大学院生は、
「診療は労働にあたるという、当たり前の判断がなされてよかったと思います。
大学病院では無給診療は当然という考えが根強くありますが、やり甲斐搾取を前提とした医療など間違っていると思います。教育機関としても社会の規範を遵守し、適切な対応がなされることを願います。」
と、無給医制度の是正に期待しており、その思いは全国の無給医にとって共通であろう。

私はかつて、鳥取大学医学部附属病院の大学院生の医師が、月200時間にも及ぶ時間外勤務の下、前日の朝7時40分から勤務し、夜間も心筋梗塞の患者の緊急手術に徹夜で立会い、そのままアルバイト先の病院に車を運転し向かう途中の国道で、8時55分に過労運転事故で死亡する事件を担当した。
過労運転事故の原因は、鳥取大学医学部附属病院での過重な勤務が原因だとして、鳥取地裁に損害賠償請求を求める裁判だ。
平成21年10月16日に、鳥取地裁はその責任を認める判決を下した。(労働判例997号79頁)
この大学院生の医師も無給医であった。
しかも、大学院生として授業料を払って、「演習」という名目で診療行為に従事していた。
無給であるため、附属病院での無給の長時間勤務に加え、アルバイト先の病院での勤務をいくつもかけもちでしていた。
その過労と直前の24時間以上の断眠の結果の過労運転事故だった。
付属病院では常識だった無給医という、労基法上も社会的にも非常識な制度が、この過労運転事故の原因と言わざるを得ない。
多くの過労死問題に取り組んできたにも拘らず、この事件を担当しながら、無給医問題を意識しなかった。
NHKでこの問題をとりあげたときは、この問題に気づかなかった自分に恥じ入る重いだった。
それが今回の無給医問題に取り組むようになった契機となった。

なお、無給医問題と今回の中央労基署の是正勧告等については、つぎのNHK(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210126/k10012833931000.html)が詳しい。

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2020年10月 8日 (木)

過労死・過労自殺の労働保険審査会で連続して業務上と認められた裁決

過労死等で労基署で業務外とされても、労働局の審査官に審査請求し、更に労働保険審査会に再審査請求をして、再度、再々度の審査を求めることができます。
それでだめでも訴訟で争うことができます。
あきらめないこと、大切な人が仕事で倒れたことの思いを捨てない気持ちを大切にして下さい。

 

過労死・過労自殺について、労働保険審査会でようやく業務上と認められるのは毎年1~2件という狭き門です。
審査会で認められることをあきらめて、業務上と認められることを断念する方も少なくないと思います。
審査会は本来、労基署で業務上と認められなかった事件について、3名の専門的な委員の合議で事件を見直し、再審査による救済を行う、行政から独立した審査機関です。
この数か月の間に、私が担当した過労死と過労自殺の事件で、連続して業務上と判断し、業務外とした労基署長の決定を取り消す裁決を得ることができました。
ラクダが針の穴を通るより難しいと言われている審査会でのこの裁決は、救済機関としての審査会の存在価値を示したものだと思います。
1件は、塾講師が長時間労働、並びに上司から業務上の問題で謝罪文の提出を強要され、その直後に自殺した事件(令和2年7月10日裁決)、
もう1件は、工事現場の工事担当者が長時間労働により過労死した事件(令和2年8月28日裁決)です。
いずれも、労基署長、労働局の審査官では、心理的負荷は「強」でない、発症前2か月ないし6か月間には月当たり80時間の時間外労働はない、として業務外とされた事件です。
あきらめないことの大切さを、代理人の弁護士としても肝に銘じなくてはとの思いを新たにさせてくれた審査会の裁決でした。

 

なお、労働保険審査会の毎年の裁決例で見ることができます。
棄却されている事件が殆どなのでガッカリする思いもあるかも知れませんが、あきらめることなく、是非プロフィールのメールアドレスや携帯電話に連絡して下さい。

2020年5月25日 (月)

新型コロナの労災認定についての厚労省の通達(令和2年4月28日)とその問題点

1 新型コロナの感染経過を明らかにすることの困難さ
新型コロナの感染で健康を損ね、休業や、不幸にも亡くなったとき、それが業務上と認められ労災補償の対象になるかどうかについて考えてみましょう。
業務上と認められるためには、被災者が業務により発症したことの因果関係を明らかにすることが求められます。
しかし、目にみえず、どこにでも存在する可能性のあるコロナウイルスに業務中感染したのか、私生活の中で感染したのかを被災者が明らかにするのは困難であることは言うまでもありません。

 

2 認定を緩和した厚労省の通達
労災認定にあたる厚労省もこの点を考慮したうえ、つぎのような通達で定めた基準で判断するとしています(令和2年4月28日基補発0428第1号)。

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3 通達の内容
(1)医療介護従事者の場合
この基準によれば、医療従事者の場合は業務外で感染したことが明らかでない限り業務上と認められ、既にそのような判断で業務上と認められたケースがあります。
(2)感染リスクの高い業務の従事者の場合
医療従事者以外でも、感染者が確認された職場や、感染リスクの高いスーパーや飲食店、宅配業等、不特定多数の顧客と接触する業務の従事者についても「個々の事案に即して」との条件はありますが、医療従事者と同様に原則として業務上とされることになるでしょう。
(3)他の業務の従事者の場合
これ以外の事務職や工事作業等の業務の従事者についてはどうでしょうか。
被災者が感染したのが業務中や通勤途上(通勤途上でも労災の対象になります)なのか、立証するのは困難です。
厚労省の作成したQ&Aでは、「他の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。」としています。
目にみえず、どこにでも存在するコロナウイルスの感染経過を明らかにすることは困難であるという特殊性を考えると、業務外で感染したことが明らかでない限り、業務上としてその補償の対象と考えるのが相当だと考えます。

 

2020年5月 1日 (金)

新型コロナウイルス感染症についての厚生労働省の通達

1 厚労省のコロナ感染と労災についての通達
コロナ感染と労災について、厚労省は令和2年2月3日付けで、下記のとおり「新型コロナウイルス感染症にかかる労災補償業務の留意点について」との労働基準局補償課長の通達を発している。

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2 海外出張
しかし、海外出張中の感染による発症については、「出張行程全般にあり、業務遂行性がある」ことを考えるなら、コロナウイルスが流行している地域への海外出張中に感染が生じたならば、業務中は当然、私的な飲食中等やホテル内で感染した場合も含めて業務上と認定されるべきだ。
業務中に感染したか、私的行為中に感染したかの立証は不可能に近い。
また、私的行為中であったとしても、感染は、流行している地域への海外出張に内在した危険である。

3 国内での勤務
国内での感染による発症については、医療関係者は勿論、出勤を余儀なくされる、コロナ感染のリスクのあるすべての業種が労災の判断の対象になる。
この通達は業務上との判断をするにあたり、「業務又は通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され」「業務以外の感染源や感染機会が認められない」ことを求めている。
ウイルスに感染した機会や経路を明確に特定することを被災者側に求めることは、不可能を強いることになる。
ウイルスへの感染という、業務や通勤での内在危険は、感染者でも無症状の者が多いなど、目に見えず、被災者自身も認識できない。
前回のブログに述べたように、業務以外の私的行為中に感染したことが明らかにならない限り、業務上と判断するのが相当である。

4 厚労省も労災認定の要件を緩和するとの報道
既に前回ブログで述べたように、新聞報道によれば、厚労省もコロナウイルス感染による業務上外等の判断にあたっては、柔軟に対応するとしている。
この通達にある「業務又は通勤における感染機会や感染経路が明確に特定され」なくとも、個々の事業について業務・通勤状況、感染と発症との医学的相当性、私的感染の可能性等を総合的に考慮して業務上と判断するということであろう。
未だ、労災請求件数は全国的にも少数に留まっているが、コロナ感染の被災者が労災認定されることは、高い感染リスクの下での過酷な勤務に立ち向かっている医療関係者にとっての力添えになろう。

2020年4月24日 (金)

新型コロナ感染の労災認定についての厚労省の方針

新型コロナ感染による健康障害や死亡についての労災適用にとって壁となるのは、職場での同僚らからの感染(業務上災害)、あるいは通勤途上の公共交通機関の利用者からの感染(通勤途上災害)にしても、家庭や私生活ではなく、職場や交通機関で感染したことの立証が問題になる。
新聞報道(4月24日毎日朝刊)によると、コロナ労災についての労災認定にあたっては、職場や公共交通機関での感染ルートを厳格に特定できなくても、柔軟に解釈して労災認定する方針を固めたとしている。
業務や通勤での内在危険であるコロナ感染者の存在は、無症状の者も多く、PCR検査も限定してしか実施されていないため、感染ルートの立証による業務(通勤)起因性の立証は困難を極める。
その立証を緩和し、労災として認定するのは、どこに存在するか、どこで感染したかは目にみえず、医学的にも特定できないコロナ感染のルート特定の困難さを考えると、厚労省の方針は当然と言えよう。
業務やそのための通勤をしていた時期と、感染が推定される時期との間に関連性が認められ、私生活において感染した等、業務や通勤以外により感染した等、業務や通勤以外の確たる他原因によって発症したことが明らかでない限り認定すべきである。
新聞報道では、既に中国人観光客を案内したツアー関係者や、陽性患者を看護していた看護師から労災請求が3件なされているとのことである。
医療関係者らのリスクの下での献身的な勤務に応えるためにも、広い救済が求められる。

 

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