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労災認定

2019年9月26日 (木)

大阪労働局アークの問題点

1 大阪労働局でのアークの設置
 大阪労働局の労災補償課のなかに高度労災補償調査センター(略してアーク)が本年4月から設置されたのを知っていますか。
 大阪府下の各労基署の労災補償課で担当していた、脳・心臓疾患、精神疾患・自殺、石綿の三つの疾患の案件について、アークが担当し、調査する体制になっています。
 これら案件については、労基署で受け付けるものの、業務上外の調査は全てアークが行い、業務上外についての調査を終えると再び労基署に戻し、労基署長の名で支給・不支給決定を下すことになりました。

2 効率的かつ迅速な手続との設置目的
 労基署の労災補償課の人員削減の下で、これら高度な判断が必要な困難案件につき効率的かつ迅速な手続を実現するというのが設置の目的とのこと。確かに労基署のこれら案件を担当する方が、多くの電話や窓口相談等に対応しながら事件処理をするご苦労は理解できます。
 しかし、つぎのような心配もあります。

3 充分な調査に基づく適切な救済が図れるのか
 人員不足の下で効率的・迅速な対応をするためには人員増をするのがまずやるべきこと。人員増なしに効率性・迅速性が求められる体制をつくることは、充分な調査を行ったうえでの適切な業務上外の判断となり得るのか。
 とりわけ、最近の厚労省の脳・心臓、精神・自殺案件における労働時間は、労基法32条の労働時間と同義であるとの審議官通達等の動向からして、労働時間の算定において画一的な処理がされるおそれはないのか、しっかり見守ることが大切だと思います。

4 過労死等事案を通じての職員の労働現場への「魂」と「スキル」が失われないか
 また、労基署の職員全体の労働現場に対する認識という点からしても、過労死・過労自殺等の事案を担当することは、その実態と調査のスキルを学ぶ重要なことです。
 アークの体制となることで、労基署での調査は空洞化してなくなり、アークの担当者のみが専門的にこれら案件を担当することになれば、多くの職員がこれら案件を担当する機会が失われてしまうのではないか。

5 労基署の労災と監督の連携による過労死防止に支障が生じないか
 過労死・過労自殺を防止するには、労災部署で業務上外を判断するなかで明らかになる長時間労働の実態・原因を、監督部署で是正、指導、更に摘発することが大切です。
 労基署による労災認定と監督・指導は、過労死等を防止するための車の両輪とも言えます。

 アークの動向には、私たちはこの3つの視点から注目していきましょう。

2019年9月20日 (金)

ミナミのホストクラブのホストの急性アルコール中毒死についての業務上の判決(大阪地裁令和元年5月29日判決)

1 ミナミのホストの急性アルコール中毒死
 本件の被災者(死亡時21才)は、通信制高校に在籍しながら、平成24年4月頃からミナミのホストクラブ「ブラックパール」においてホストとして勤務していた。被災者は、ネタや面白いことを言って客の気を引くいわゆるお笑い系のホストだった。
 被災者は平成24年8月1日早朝より、クラブで先輩ホストに強要されてテキーラゴールドを飲酒した後、体調に異変を生じ、同日午前8時34分、大阪赤十字病院に救急搬送されたが、急性アルコール中毒により死亡した。
 本件訴訟は、この死亡についての業務上外が争われた事案である。

2 先輩ホストによるテキーラゴールドの飲酒の強要
 被災者は先輩(主任)のホストであるAらと共に女性客の接客をしていたが、Aは、女性客に新たなボトルの注文を呼び込むため、アルコール度の高い新品のテキーラゴールドを持ち出し、Aは被災者に対しコップに注いで何度も一気飲みを強要した。

3 労基署長の業務外の判断
 被災者のアルコール中毒死が業務内在危険の現実化と評価されるか否かが争点であるが、大阪中央労基署長は、ホストの業務は、接客及び接待をすることであり、大量の飲酒をすることではない。そして、①本件クラブにおいては、ホストに対し、酒に酔わないよう厳しく教育指導されていたこと、②被災者をはじめとするホストらが連日のように過度の飲酒を余儀なくされていたといった事実も、本件事故当日に他のホストや顧客が被災者に大量の飲酒を強要した事実もなく、業務による大量飲酒の必要性はなかったこと、③被災者は、本件クラブによる指示に違反し、自己の判断で、生命に危険が及ぶほどの大量の飲酒に及んだ可能性が高いことからすると、被災者が大量に飲酒に及んで急性アルコール中毒を発症したことは、ホストの業務に内在する危険が現実化したものとはいえないとして業務外とした。

4 ホストの業務内在危険として業務上とした判決
 これに対し判決は、飲酒強要の態様がエスカレートし、歯止めがかからない状況になっていたとしても、この点をもって、本件クラブにおける接客業務であることが全く否定されるということにはならないというべきであり、本件事故当日における先輩ホストによる飲酒強要及び被災者の多量の飲酒は、客観的かつ全体的にみて、本件クラブにおけるホストとしての業務に関連ないし付随して生じた事態であったと認めるのが相当である。被災者の死亡の原因となった急性アルコール中毒は、客観的にみて、本件クラブにおけるホストとしての業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したことによるものと評価することができるとして、業務起因性を認めた。

5 ホストの業務の実態を踏まえた判決
 ホスト、ホステス等は勤務のなかで、過度の飲酒を客や先輩・上司から余儀なくされたり強要されることは少なくない。また、それが店の営業成績につながり、店としても業務の一環として容認していると言えよう。この店でも「ホストらが接客業務中に多量の飲酒をするような営業が度々行われ、これが事実上黙認されている実態にあり、本件クラブのホストは、通常の接客業務においても、大量飲酒によって、記憶がなくなる等の状態にしばしば陥っていた」事実が認められている。客と飲酒することが業務に当然随伴するホストクラブ等の業務においては、ホストらが過度の飲酒の結果、急性アルコール中毒に至ったからと言って直ちに業務から逸脱したことにはならず、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務上と判断したこの判決は、飲酒が業務と密接不可分であるこれら業務の実態を踏まえるなら当然の判決と言えよう。
 ホスト、ホステスとして勤務する労働者の業務に関連する飲酒から生じた危害は、自己責任により生じたものではなく、業務上として労災保険による救済の対象となることを考えるにつき参考となる判決である。
 なお、この事件については、このホストクラブを経営する会社の損害賠償責任を認める判決も下されている。(大阪地裁平成31年2月26日判決)

2018年6月27日 (水)

過労死認定についての二重就労者の勤務の不当な厚労省の取扱いの是正を

昼と夜の複数の職場での仕事をかけもちで生活を支えている非正規就業の若者が少なくない。
その若者が、過労死・過労自殺したとき、国(厚生労働省)は労働時間を算定するにあたっては、主たる職場での労働時間のみしか過重性を評価しないとしている。

例えば、脳・心臓疾患を発症前の、
 A職場の労働時間 月200時間
 B職場の労働時間 月100時間
のとき、A・B職場の労働時間を合算すれば月300時間となり、時間外労働は月100時間を超え、過労死と認定されることになる。

しかし、国はA職場の月200時間しか評価しないから、過労死と認められないとしている。
労災保険法は、労基法の災害補償制度を保険化した制度だから、個々の事業主(使用者)毎に過重性を評価するとしているのだ。

また、A職場の労働時間のみで過労死として認定されても、それに対する労災保険の遺族補償年金の額は、A職場での賃金のみで算定される取扱いとなっている。
非正規就業の若者の兼業・副業のみならず、正社員についても兼業・副業を認めようとする動き(参照)があるなか、このような過労死等の労災認定、並びに補償額についての取扱いは直ちに是正されなくてはならない。
私も、勤務医が関連病院で兼業としてアルバイト勤務するなかで過労で倒れた事件を担当している。

実は、平成20年までは、厚労省も複数の事業場で勤務している労働者が過労死したときには、複数事業場の労働時間を通算して業務上外の判断をし、補償額も複数事業場での賃金を合算して算定していたことは、つぎの「事務連絡」からも明らかだ。

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新聞報道(朝日本年6月23日朝刊)によれば、労働政策審議会でこの点についての議論を始めたとのことであるが、早期にかつての取扱いに戻すべきである。

2018年3月16日 (金)

近畿財務局職員の自殺についての公務起因性の検討

近畿財務局の、森友学園の文書改ざんに関与を余儀なくさせられたと考えられる、上席国有財産管理官が自殺したとの報道がされている。
真面目、誠実に国民のために国有財産管理の職務を行う職員であれば、政治のトップ層からの指示の下で、この文書改ざんに関与をさせられていたとしたら、「常識が壊れてしまい」「このままでは一人で責任をとらされる」とも述べていたという自殺に至るまでの、苦悩に満ちたであろう心中を察するに、無念の一言に尽きる。
この問題の政治的な論点は措いて、マスコミの報道に基づいて、この職員の自殺について国家公務員災害補償法で公務上と認められる死であるか考えてみたい。

精神障害・自殺についての業務上(公務上)判断の行政内部の基準となる認定基準は、民間労働者の労災については厚労省、地方公務員については地方公務員災害補償基金、国家公務員については人事院が、それぞれ通達で定めている。
いずれも同じ精神医学的知見に基づき定められており、その表現は異なるものの、内容的には同一性を有する基準だ。

自殺については、業務による強い心理的負荷でうつ病等精神障害を発病した下でなされたときは、正常な認識や行為選択能力が著しく阻害された下でなされた(本人の故意によるものではない)として、業務上となる。
問題は、精神障害を発病するに足りる業務による強い心理的負荷の立証だ。

人事院の認定基準は、

困難な対外折衝等を行った
・その成否が国民生活等に大きな影響を及ぼす対外的な折衝に責任者として対応し精神的緊張を強いられた場合
・立場の異なる関係団体、府省等との間に立って一定の方向性を打ち出すための説得、調整の作業に従事した場合
・大型公共事業プロジェクトの執行に関し、利害の異なる関係者間の調整が難航するなど困難な事態に直面することとなった場合
社会問題化した事案に対応した
・高度な調査技術が必要とされる違法行為の摘発などの業務に従事し、関係者と軋轢を生じる厳しい対応にあった場合」

の出来事を「発症原因とするに足りる強度の精神的又は肉体的負荷がある業務があったと認められる」事由として評価するとしている。
森友学園に係る決裁文書の作成や、虚偽文書の作成に関与を余儀なくされている事実が認められれば、強い心理的負荷があったものとして公務上と当然認められよう。
また、人事院の認定基準は、
特に、発症前6か月間に、1か月間におおむね80時間以上の超過勤務を行っていた実態がある場合には、その実態の具体的把握を含め、発症までの間の勤務に関する負荷の過重性の分析を十分に行うことが必要であるため、調査を慎重に行うこととしている。
前記の業務に加えて「1か月間におおむね80時間以上の超過勤務」(月100時間を超える時間外勤務があったと報道されている)が重複していれば、その総合評価として公務上と認められることはより明白と言えよう。

厚労省の認定基準で検討すると、公務上であることは、より分かりやすい。
業務に関連し、違法行為を強要された出来事があり、その出来事が、
・業務に関連し、重大な違法行為(人の生命に係わる違法行為、発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた
・業務に関連し、反対したにもかかわらず、違法行為を執拗に命じられ、やむなくそれに従った
・業務に関連し、重大な違法行為を命じられ、何度もそれに従った
・業務に関連し、強要された違法行為が発覚し、事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)

のいずれかに該当するときは、心理的負荷は「強」と評価され、業務上と判断される。
この出来事が仮に「中」程度のものとされても(そのように低く評価されることは考え難いが)、月100時間を超える時間外労働が認められれば、前記の出来事とこの長時間労働との総合評価により「強」と評価され、業務上と認められる。

ご遺族が公務上の認定請求手続を行うことは、違法行為の事実と、それを職員に強要した事実を解明することによって、亡くなった職員の名誉、尊厳を守るとともに、ご遺族には手厚い公務災害補償がなされることになる。
更に、真摯に国の財務行政に従事した職員の命を、国が安全配慮義務を怠ったため奪ったことに対する国家賠償責任も当然生じよう。

2017年9月 4日 (月)

過労死事件でのグーグルマップ
タイムライン活用法

過労死・過労自殺事件の多くは、被災者の長時間労働の立証が業務上外のカギを握っている。
厚労省は通達(ガイドライン)で、タイムカード、ICカード等の客観的な出退勤の記録に基づく労働時間の把握を使用者に求めている。しかし、未だに実態と齟齬の著しい自己申告での把握がなされていることは、電通の高橋まつりさんの過労自殺でも明らかだ。
警備記録の解除(出勤)、セット(退勤)の記録、パソコンのログイン・ログアウトや交通ICカード、ETCの記録等によって、そしてこれらの記録のないとき(そのような事案が多い)は、同僚らの供述を聴取して、実態としての労働時間を立証することが、この事件に取り組む弁護士の労力の7~8割を占める。
労働時間の実態を明らかにする手段として、スマホの位置情報をオンにしておけば、グーグルマップのタイムラインの社内や店舗での滞在時間のデータを得ることが出来る。
このデータは、離婚事件の慰謝料請求や未払残業代の請求事件でも使われていると聞いているが、過労死等の事件にとっても、実態としての労働時間を明らかにする資料となる。
被災者がスマホを常時携帯している事案では、グーグルマップのタイムラインの記録があるかどうか確認してはいかがでしょうか。

2017年2月15日 (水)

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント④
―発病後の出来事でも業務上と評価される場合―

前回のブログ(ポイント③)では、認定基準では発病後の出来事は原則として評価の対象外となることについて述べました。
しかし、認定基準は、例外的に、つぎに述べる「特別な出来事」が認められるときは、発病後の出来事であっても、業務上と判断するとしています。

【心理的負荷が極度のもの】
・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした
(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの

【極度の長時間労働】
・発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)

また、裁判例のなかには、「特別な出来事」に限らず、認定基準で心理的負荷が「強」と評価される出来事が、発病後であっても認められるときは、業務上と判断するとしたものもあります。
裁判例では認定基準に基づきながらもより広く過労自殺について業務上と判断しているケースがあります。
発病後の出来事であったとしても、あきらめずに、訴訟まで頑張ることが大切です。

更に、発病しているにも拘らず、使用者が長時間労働等過重な業務に従事させたことについて、使用者の注意義務(安全配慮義務)違反を理由に損害賠償請求する道もあります。

詳しくは、お気軽に電話やメールでご相談ください。

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント③
―発病の時期の重要性―

過労自殺の労災(公災)認定を得るためには、被災者がうつ病等の精神障害を発病していることが要件であり、発病が認められなければ「覚悟の自殺」「故意の自殺」として労災の対象外にされてしまいます。

更に、発病が認められても、発病の時期がいつかという点も重要なポイントです。
認定基準は、いじめ・セクハラ等が継続していた場合等を除いて、原則として発病前6ヵ月間の出来事しか評価の対象としていません。
発病したとされた時期以降に強い心理的負荷を生じる出来事(長時間労働、仕事のミス、上司のいじめetc.)があっても、発病後の出来事として評価の対象外とされてしまいます。

発病の時期は、ICD-10に基づくうつ病等の症状が充足されたときとされていますが、本人が亡くなった後においてその時期を特定するのは困難な作業です。
精神科医の協力でその時期を明らかにしようとしても、その前提となる症状(抑うつ感、易疲労感、興味と喜びの喪失etc.)は家族や職場の同僚らの供述が重要です。
自殺する前の症状を細かく思い出して、強い心理的負荷を生じる職場の出来事の後に発病したことを明らかにすることが大切です。
発病の有無のみならず、時期についても、医学的判断以上に症状の事実認定が先行します。

認定基準も発病の時期の特定が困難であることを認めており、そのような事案については出来事後に発病したものと判断するとしています。
発病の蓋然性が認められる強い心理的負荷の出来事の後に、通常は発病が生じる当然の理を述べた定めと言えます。
しかし、被災者にとって発病時期の特定の立証を軽減させる定めであり、活用できましょう。

過労自殺についての発病の話の大切さについては、今後のブログでも触れていこうと思います。

2016年11月30日 (水)

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント②
―発病の有無の重要性―

厚労省等の行政の認定基準は、
 業務による強い心理的負荷 → うつ病等の精神障害の発病 → 自殺
という考え方に立っています。

業務によって直ちに自殺が生じたのではなく、業務によって精神障害を発病し、発病したことにより正常な認識や行為選択能力が著しく阻害されたことによって自殺に至ったことが求められます。

精神障害の発病が認められなくては、「覚悟の自殺」あるいは「故意による自殺」だから、故意による災害は労災の対象にならないとしているのです。
精神障害を発病した下での自殺は、自分の意思による「故意の自殺」ではなく、正常な認識や行為選択能力が失われた下での自殺として、労災の対象となるのです。

ですから、過労自殺の労災認定に取り組むにあたっては、うつ病等の精神障害を発病したことを明らかにすることが重要な第一歩です。

自殺前に精神科医に受診しているときは容易ですが、過労自殺の殆どの事案は自殺前に精神科医の診察を受けないまま自殺に至っています。
では、受診していない場合はどうやって発病を立証したらいいのでしょうか。厚労省は国際的な診断基準である「ICD-10」に基づいて発病を判断するとしています。
「ICD-10」によれば、うつ病については、
 ・易疲労感
 ・抑うつ症状
 ・興味と喜びの喪失

の3つのうつ病の典型症状(少なくも3つのうち2つ)、並びに睡眠障害、焦燥感等一般症状に基づいて発病を判断するとしています。
ですから、被災者が自殺する前の、職場や自宅での様子の変化をひとつひとつ思い起こしていくことが大切です。

しかし、過労自殺で亡くなる方の多くは、職場でも、更には家庭でも、その症状が気づかれないまま、その苦しさを自己統制して最後まで働き続けるなか自殺に至っています。
また、会社はその責任を回避するため意図的に、職場では何の変化もなく、心身の健康状態の悪化はなかったと労基署に報告することも少なくありません。
自宅での細々とした様子の変化、例えば、帰宅したとき今までの「ただいま」の言葉がなくなり疲れた様子だったこと、いつもしていた犬の散歩、子への声かけがなくなった、楽しみにしていたテレビの番組を観なくなった、寝つかれなくなり早朝覚醒が生じていた、いつも追われるような焦燥感を訴えていた、自分を責めるような言動があったetc.を労基署の調査時に述べることが大切です。

様子の変化を、悲しい気持ちを乗り越えて、家族みんなで思い出して、精神障害を発病していたことに足りる症状があったことを明らかにすること。これが自殺の労災認定に向けての、はじめの第一歩です。

発病を明らかにするとともに、大切なのは発病の時期の問題です。
これについては、つぎのブログで。

2016年11月29日 (火)

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント①
―自殺の業務上認定の3つの要件―

大切な方を職場の長時間・過重な業務や、上司・顧客らのパワハラ等で自殺で失った方が、労災(公災)認定に取り組むにあたってのポイントについて、いくつかのブログに分けて述べてみましょう。

厚労省の認定基準は、自殺の業務上外の判断の要件について、
① 精神障害(うつ病等)を発病していたこと
② 発病が、発病前6ヵ月間の業務による強い心理的負荷により生じたこと
③ 業務以外の心理的負荷や個体側(被災者側)の脆弱性によって生じたものではないこと
としています。

③については、人はそれぞれ業務以外の家庭的、経済的、個人的な悩みを抱えているのはあたりまえです。
また、うつ病にかかりやすい性格や、かつてうつ病にかかった病歴をお持ちだったかも知れません。
大切な人が自殺で亡くなったとき、ついそちらに考えがいってしまうかも知れませんが、②の業務による心理的負荷が強いものであることが認められれば、業務以外の心理的負荷や個体側の脆弱性で発病し自殺に至ったことが明白でない限りは、業務上と判断されます。
私が担当した多くの事案のなかでも、②の業務による心理的負荷が強いことが認められた事案で、③により業務上が否定された事案はありません。
逆に、②の業務による強い心理的負荷がないにも拘らず発病したとされた事案では、発病は業務以外の心理的負荷や、個体側の脆弱性のためとされてしまいます。

ですから、認定の要件のうち大切なのは①、②の点で、これが認められれば③の業務以外の心理的負荷や個体側脆弱性は業務上と判断されることの支障は殆どありません。

自殺前に離婚した、借金に追われていた、あるいは、かつてうつ病の病歴があるからだめでしょうかと相談を受けることがありますが、心配する必要はありません。

①と②を明らかにすることができれば、業務上=仕事で自殺に至ったことを認めてもらうことができます。

つぎのブログでは、①の精神障害を発病したこと、並びに発病の時期の重要性について述べることにします。

2016年10月26日 (水)

拡張型心筋症でも過労死と認定される

心筋症や心筋炎でも、従前症状が安定し、日常業務を支障なく遂行できる状態であれば、過労死の認定基準に基づいて判断されることについては、既に「心筋症・心筋炎と過労死の労災認定」で述べた。

拡張型心筋症の基礎疾病を持った外国人労働者が、発症前1か月に160時間の時間外労働に従事するなか「拡張型心筋症、うっ血性心不全」を発症し、埋込型除細動器を装着するに至った事案で、労働保険審査会は、平成26年12月26日、労基署長の下した業務外との判断に基づく不支給処分を取り消すとの裁決を下している。(安全センター情報2016年11月号58頁)

この裁決は、
「本件の如く労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有するものの、日常業務を支障なく遂行できる状態にあったときに、労働に従事していた際、たまたま症状が発現ないし増悪したとしても、一般には業務起因性はないものと考えられている。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷によりその自然経過を超えて著しく増悪したと医学的に認めうる場合には、業務との間に相当因果関係が認められるものとして、取り扱うこととされているところである。
そこで、以下に請求人の拡張型心筋症がその自然経過を超えて著しく増悪したか否かについて検討する。」

との基準に基づき判断しているが、この基準は認定基準そのものの立場であることは、前記のブログで述べたとおりだ。

そのうえで、被災者の発症前の時間外労働は、発症前1か月では月160時間を超えるなど認定基準を充足しており、
「したがって、請求人には認定基準の要件に該当する業務による明らかな過重負荷があり、それによって、拡張型心筋症が急激に著しく増悪し重篤な不整脈を発症したものと認められることから、拡張型心筋症の病状の増悪による心室頻拍等の発症と業務との間には、相当因果関係があるものと判断する。」
としている。

労基署長、そして審査官の業務外との判断にへこたれることなく、労働保険審査会で業務上の判断を得たこの外国人労働者、並びにその支援者たちの、ネバーギブアップの精神に敬意を表したい。

一方、拡張型心筋症という問題点(しかし、認定基準上は症状が安定している限り業務上と判断する支障にはならない)があるにしても、これだけの長時間労働が明らかであるにも拘らず、これを業務外とした労基署長、審査官(更に言えば、参与は4人とも棄却相当としている)の判断に対しては猛省を求めたい。

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