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2024年12月19日 (木)

過労死等を生み出す原因は労働時間の適正把握のサボタージュにある

1 自己申告による過少な労働時間の把握
 労働時間が客観的な出退勤の記録で把握されることなく、自己申告により過少に把握され、社内の労働時間についての法令順守が機能しないことこそが、過労死等の原因となる長時間勤務を生み出す最大の要因と考えている。
 私が担当した事件の多くは、下記のとおり、パソコンや警備記録等の客観的な出退勤の記録にもとづく労働時間と、自己申告の労働時間の著しい齟齬のもとで生じている。

 

2 実態としての労働時間と自己申告の乖離の事例
(1)民間労働者の過労死等事案
 ア 大手電気工事会社の現場監督(30才)の過労自殺
  ビル新築工事の空調工事等の現場担当者として従事していた期間中(約1年)月100時間を超える時間外労働が警備記録で明らかとなった。しかし、自己申告は工事予算で割り当てられた時間しか申告されておらず、私はこの事案で労働時間適正把握の重要性を認識させられた。

年月 自己申告 実態(警備記録等)
平成16年4月 24:00 164:59
     5月 24:00 148:47
     6月 28:00 132:19
     7月 28:00 176:21

 イ 鉄道会社の総合職社員(28才)の自殺
  大学院卒の嘱望された社員の自殺で、昼は工事事務所でのポイント切替え等の設計作業、夜は工事現場に出向いての下請の作業指揮の連日の作業のなか常軌を逸した長時間労働に従事していた。
36協定の一般条項の月45時間を意識した自己申告がなされていた。

年月 自己申告 実態(パソコン等)
平成24年3月 72:45 254:49
4月 39:15 148:51
5月 35:30 113:43
6月 44:00 162:17
7月 45:00 141:09
8月 40:15 130:32
9月 35:15 162:16

 ウ 地銀のシステム開発担当行員(40才)の自殺
  銀行の決裁システムの更改の責任者が、遺書で取引先、会社、上司に謝りながら、3人の幼い子を残して本社ビルから投身自殺した。

年月 自己申告 実態(パソコン等)
平成24年7月 34:30 109:48
     8月 38:30 129:45
     9月 60:30 168:16

 エ 大手電気工事会社の現場代理人(62才)の胃かいよう出血死
  定年退職後嘱託で勤務していた高年齢労働者の消化管疾患死

年月 自己申告 実態(パソコン)
令和3年10月 78:30 122:52
    11月 89:30 175:44

(2)公務員の事案
 ア 新入の市職員(22才)の自殺
 ・新入職員として採用され、納税課での滞納整理業務
 ・担当案件が3倍になり、時間外労働が月100時間超となり自殺

年月 自己申告 実態(パソコン入力)
平成23年4月  4:30  37:05
     5月 18:30  57:48
     6月 21:20  68:07
     7月  3:00  65:02
     8月 11:00 121:15

 イ 県職員(35才)の自殺
 ・勤務票に並んで記載された自己申告とIDカードの時間との著しい齟齬
 ・うつ病を発病し言動の変化が生じたことを祖母が人事課に直訴するも対応せず

年月 自己申告 実態(システム)
平成28年1月 27:15  99:59
     2月  0:00 101:45
     3月 46:00 162:31

 ウ 市職員の過労自殺
  事務効率課の市役所職員の長時間勤務による自殺

年月 自己申告 実態(パソコン)
令和元年10月 21:00  91:17
    11月 23:00 137:11
    12月 24:00 196:36

なお、上記の民間並びに公務員の事案はいずれも業務上(公務上)と認められた事案であり、時間数は労基署長等が調査した記録に基づくものであるが、弁護士として業務上認定させるための努力の多くは、出退勤の客観的記録に基づき過少な自己申告の実態を明らかにすることに費やされている。
労働時間の適正把握の懈怠は過労死等の原因であるとともに、過労死等の救済の大きな壁となっている。

2024年12月17日 (火)

過労死等についての安全配慮義務違反の責任の所在の明確化の重要性

過労死運動は、労災認定から賠償責任そして予防と歩みを進めてきた。

しかし公立学校の現場では、公務上認定されても生徒の教育のために尽くした熱血先生の美談として終わり、責任追及にまで至らない事案が多数である。

私は過労死等については責任なくして予防なしと考えている。

2019年1月25日付けの中教審答申は、我が国の学校教育の高い成果が、教師の長時間にわたる献身的な取組みの結果であるなら、持続可能であるとは言えないと述べている。

教育の持続が壊れるか、教員の心身が壊れるかの二律背反近い状況が生じ、教員志望者が減少するなかでも教員増等の抜本的な施策が進行しないのは、訴訟による賠償責任の追及が一部の公務上認定された事案についてしかなされていない点にも大きな要因がある。

公立学校の教員は給特法の対象となるが、それは給与の問題であり、心身の健康という点では民間労働者、一般の地方公務員と何ら異なることはない。

公立学校の教員の過労死等についての損害賠償による法的責任の追及は、過労死等を美談に終わらせることなく、高い教育水準が持続可能な教育現場を確保するため重要である。

非現業公務員(市役所、県庁等の職員)の勤務時間適正把握懈怠の下での過労自殺

私が事件を担当するなかで、労働時間の適正把握につき最も立ち遅れていると考える職種は、非現業の地方公務員(市役所、県庁等勤務の職員)である。出退勤時刻をIDカード等で把握しうるにも拘らず、過少な自己申告により勤務時間を算定するなかで地方公務員の過労自殺が生じている。

地方公務員の時間外労働は労基法33条3項(公務のため臨時の必要があるとき)に基づいてなされており、勤務時間についての規範意識が希薄な現場が少なくない。しかし、非現業の地方公務員の時間外労働の多くは「臨時の必要があるとき」に生じているのではなく、恒常的に生じている。地方公務員法は労基法36条を適用除外しておらず、これら地方公務員についても36協定を締結させ、かつIDカード等出退勤の客観的記録により労働時間を適正に把握するべきものと考える。

地方公務員の過労死等の事件を担当するなかで実感するのは、長時間勤務についての監督機関は人事委員会のある地方公共団体では人事委員会又はその委員となっている。しかし、多くは人事委員会を置かず公平委員会が設置されており、その場合は地方公共団体の長が民間における労基署長の職権を行うとされている(地方公務員法58条5項)。

勤務時間等の服務権限とそれに対する監督権限が市長等の地方公共団体の長が併有しており、長時間勤務に対する不払給与が生じても罰則はない。

このような服務・監督権限を長が併有することに対する法改正なしには、非現業の地方公務員の勤務時間の適正把握は望み難い。

 

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