出血性胃かいようによる死亡についての労災認定
電気工事会社を60才で定年退職後、再雇用で勤務していたA氏(62才)が令和3年12月10日、自宅で出血性胃かいようを発症し死亡しました。
発症前には、大きな会館新築の電気工事の現場代理人をしており、施主や元請からの工期や工事仕様の厳しい変更による困難な業務の下、月100時間を大きく超える時間外労働が続いていました。
この件につき、富山労働基準監督署長は、本年5月19日付けで業務上による死亡と判断し、妻が請求していた遺族補償等の支給決定を下しました。当職がその代理人です。
過労死等防止対策推進法は「過労死等」について、第2条で「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」と定めています。
しかし、長時間労働等により過労やストレスが蓄積すると脳心臓疾患や精神障害(自殺を含む)のみならず、この事件のような消化器系疾患や、喘息の重積発作等の呼吸器系疾患等も生じています。
過労・ストレスがたまると胃がキリキリ痛む、そんな経験は誰しもがしているのではないでしょうか。ストレス性疾患と聞いたとき、まず浮かぶのが胃かいよう等の消化器系疾患です。
富山労基署長の業務上の判断は、働いている人の実感としては常識といえるでしょう。
ほぼ20年前に、同じく私が担当した貿易会社のバイヤー社員が、海外出張中に十二指腸かいよう穿孔を出張先の香港で発症した事案で、最高裁判決でようやく(発症から15年以上かかりました)業務上と認められています(最高裁平成16年9月7日判決)。
この最高裁判決が下されてから20年後に、この富山労基署長の決定が下されたことは、私個人としても感慨深いものです。
「過労死等」のうちに消化器系疾患、また判例が積み重ねられている喘息の重積発作死、更には労働保険審査会で認められた事例のあるてんかんの重積発作死(当職が担当した事案です)等も含めて、国や社内での対策が行われることを期待しています。
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