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2022年8月22日 (月)

奈良県職員過労自殺の損害賠償事件についての奈良地裁判決

1 過労死等が生じる原因
過労死・過労自殺が生じる原因について、取り組み始めた当初は、門前に「労基法立入禁止」の表札があるが如き「ブラック企業」にあると考えていた。その後、過労死ラインを超える長時間労働を容認する労使合意による36協定(特別条項)が、大企業を含めて多数存在することを知った。労働者の心身の健康を守る岩盤規制のはずの労基法が、労働時間を液状化し長時間労働を容認すると考えた。
しかし、過労死等を生じさせる最大の原因は、労働時間の適正把握の懈怠にあると確信している。

 

2 県の非現業職員についての勤務時間適正把握の著しい懈怠
奈良県職員であった故西田幹さん(昭和57年4月生)も、県が勤務時間の適正把握義務を懈怠した下での長時間勤務によりうつ病を発病し、平成29年5月21日自殺に至った。
判決は、幹さんがうつ病を発病した平成27年4月上旬前の1か月間の時間外勤務は154時間41分としている。平成27年4月の「出勤簿」をみると、自己申告による「時間外勤務」は30時間であり、かつ4月14日以降は全く申告がない。
一方、出勤簿ではIDカードによる出退勤の打刻時刻が自己申告時間と並んで表示されているが、退勤打刻時間は殆どの勤務日で22時すぎとなっている。
不自然かつ過少な自己申告時間と、IDカードによる客観的な出退勤時刻に著しい齟齬が生じているのに、県は自己申告時間により勤務時間を把握してきた。
私が担当した県庁や市庁に勤務する非現業職員の過労死等の事案は、例外なくこのような適正な勤務時間把握の懈怠から生じている。職員組合等の取り組みが立ち遅れている。

 

3 幹さんの自殺
幹さんは平成27年4月上旬にうつ病を発病した後も、翌平成28年4月に砂防・災害対策課に異動した後も、過労死ライン前後の長時間勤務に就くなか、発病後2年あまりを経て自殺に至っている。

 

4 自殺前の産業医の意見
自殺前には、産業医は、平成28年12月13日付けの幹さんの所属長である砂防・災害対策課課長に対する面談指導等の結果報告書において、幹さんについて、疲労蓄積度は非常に高く(4段階中もっとも高い評価)、自覚症状として強い疲労感とめまいがあり、生活区分は「平常勤務(全く正常生活でよいもの)(7段階中もっとも軽い評価)」、医療区分は「要医療(医師による直接の医療を必要とするもの)(4段階中もっとも重い評価)」とし、「事後措置に関する産業医の意見」については「長時間に及び過重労働が継続し、今後も改善の見通しがなく、疲労が蓄積し、現在抑うつ治療中である。これ以上長時間の時間外労働が生じないように職場における対策と配慮が必要である。」としている。また、同じころ、ストレスチェックに基づく産業医面接の結果についても報告されたが、幹さんの心理的な負担の状況は「高ストレス状態」であり、抑うつ状態のため通院中で現病治療継続が相当であり、就業区分は「通常勤務」であるが、就業上の措置は「就業場所の変更が必要」であり、職場環境の改善については「抑うつ通院中であり、職場におけるメンタルヘルスに関する理解を高めることが必要」との意見が示されている。

 

5 奈良地裁における予見可能性の対象
判決は、この産業医の意見を踏まえて「被告において、平成28年12月13日以降、亡幹の心身の健康が危ぶまれる状態にあることを認識し、亡幹の死亡結果についても予見可能であったといえるから、精神疾患の増悪を防止する措置を十分にとらず、同人を自殺に至らせたことについて、国家賠償法1条1項に基づく責任(心身の健康に関する安全配慮義務違反)及び民法415条に基づく責任(安全配慮義務違反)があるというべきである。」として、県の責任を認めている。

 

6 長時間労働による過労自殺の予見可能性の対象
長時間労働が認められる事案についての予見可能性の対象は、2000年の最高裁電通過労自殺判決、並びに同判決についての八木調査官の判例解説、並びにそれを踏まえた下級審の判例集積により、心身の健康を損ねるおそれのある長時間労働等の就労態様の認識(可能性)で足りるとの判断が定着している。
奈良地裁判決は「亡幹の心身の健康が危ぶまれる状態にあることを認識し、亡幹の死亡結果についても予見可能であったといえる」としており、心身の健康悪化、更には自殺についての予見可能性を求める判示となっている。
本件事案では、自殺前においてそのような予見可能性を認められるが、判例の流れを考えると、平成27年4月上旬において月150時間の時間外勤務という長時間勤務の就労態様を認識した時点において自殺の予見可能性を認めてもしかるべき事案であったと考える。

 

7 県の控訴なく確定
県は幹さんの性格等に脆弱性があるとして損害減額の主張をしていたが、判決はこれを認めず、原告である両親に合計約6810万円の賠償を命じた。
県は、遺族に謝罪することなしに控訴を断念している。

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