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2021年8月20日 (金)

過労死の認定基準の改正の動向 ―過労死ラインに達していなくても、あきらめずに―

1 改正に向けての専門検討会報告書
脳血管疾患もしくは心臓疾患の発症(以下、過労死といいます)について、厚生労働省および人事院等はそれぞれ通達という形で「認定基準」を定めています。
平成13年12月12日に、厚生労働省は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号労働基準局長通達)という通達を定めていましたが、20年ぶりに専門検討会報告書の医学的知見等を踏まえて、この認定基準は今秋にも改正される予定です。
専門検討会報告書に基づいて、過労死の労災認定の門戸がどのように広がるか考えてみます。

2 過労死ラインの水準に至らなくても、他の負荷要因も総合的に考慮
現行の認定基準は長期間の過重業務について、「発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」として、この時間外労働が認められれば原則として業務上と判断してきました。この時間外労働の基準は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれています。
この「過労死ライン」の基準は、新認定基準においても妥当とされています。
改正点で最も重要なのは「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるときは、労働時間以外の、
・勤務時間の不規則性
・事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務
・作業環境
等の負荷要因も総合的に考慮して、業務上外の判断を行うとしたことです。
改正前の認定基準も、労働時間以外の負荷要因について十分検討することとしていました。しかし、業務上外の判断では「過労死ライン」の水準に至っているか否かが重視され、労働時間以外の負荷要因の範囲は限定され、かつ付加的にしか評価されていませんでした。

3 時間外労働が1か月当たり65時間から70時間以上と他の負荷要因が認められれば「十分留意」
新認定基準では「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるとき」については具体的に定めていません。この点については専門検討会報告書が、「支給決定事例において、労働時間の長さだけでなく一定の拘束時間などの労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事案についてみると、1か月当たりの時間外労働は、1か月当たりおおむね65時間から70時間以上のものが多かったところである。このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分留意すべきである。」(49頁)と述べていることが参考になるでしょう。
労働時間以外の負荷要因についての詳しい検討は、次回のブログで述べてみます。

4 過労死ラインに達していなくともあきらめずに
「過労死ライン」に達していないため業務外とされたり、申請をあきらめている方も少なくないと思います。
新認定基準に基づいて労働時間とともにそれ以外の負荷要因を明らかにして業務上の判断に向けて力を尽くしましょう。
・対象疾病として重篤な心不全が加わりました
新認定基準では、認定基準が対象とする虚血性心疾患等に重篤な心不全が加えられました。不整脈や心筋症の基礎疾病を有していても病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合において、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて重篤な心不全に至った場合も業務上と認定されることになりました。
地公災や人事院の認定基準では、肺塞栓症も過重な業務により生じる対象疾病としていますが、厚労省の新認定基準では、長時間同一姿勢となる機会で多くの症例が報告されているとして、改正前と同様過労死の対象疾病としては認めていません。
長時間同一姿勢を強いられる業務、あるいは業務上の疾病による療養により発症したことが認められれば業務上と認定されるのは当然です。

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