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2021年8月25日 (水)

過労死の新たな認定基準の概要

厚生労働省は、過労死の認定基準の改正についてのパブリックコメントを、本年8月19日までを期限に求めていましたが(パブコメの期間は過ぎていますので、新たにコメントを述べることはできません。)、その際、新認定基準(案)の概要について公表しています。(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495210144&Mode=0)

 

今回の改正の最も重要な点である「長期間の過重業務」について、
ア 労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを示す。
イ 労働時間以外の負荷要因として、「休日のない連続勤務」、「勤務間インターバルが短い勤務」及び「身体的負荷を伴う業務」を示し、他の負荷要因も整理する。
としています。

 

専門検討会報告書の検討結果を踏まえて、労働時間は「過労死ライン」に至らなくても、労働時間以外の一定の負荷要因が認められるときは、業務と発症との関連性が強いと評価(=業務上)できるとしています。

 

パブリックコメントも終了しているため、本年9月上旬を目途にして、新認定基準を発出する予定としています。

認定基準改正に向けての専門検討会報告書では

 労働時間以外の負荷要因として、どのような業務を挙げていますか。また、その負荷の評価方法について、どう定めていますか。

1 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的考慮
本年7月7日に発表された「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」では、「過労死ライン」には至らないが、これに近い時間外労働が認められる場合には、特に労働時間以外の他の負荷要因の状況を総合的に十分に考慮して判断するとしています。
そのうえで、労働時間以外の負荷要因としてつぎのような勤務を示したうえで、それぞれの負荷要因の検討の視点について述べています。

2 労働時間以外の負荷要因とは
*勤務時間の不規則性

・拘束勤務の長い勤務
「拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時間数及び回数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること」、「なお、1日の休憩時間がおおむね1時間以内の場合には、労働時間の項目における評価との重複を避けるため、この項目では評価しない」
・休日のない連続勤務
「休日のない(少ない)連続勤務については、連続労働日数、連続労働日と発症との近接性、休日の数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること」、「その際、休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に、休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すものであることを踏まえて適切に評価すること」
・勤務間インターバルが短い勤務
「勤務間インターバルが短い勤務については、その程度(時間数、頻度、連続性等)や業務内容等の観点から検討し、評価すること」
「勤務間インターバルが短い勤務については、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること」
・不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務については、予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度・事前の通知状況、予定された業務スケジュールの変更の予測の度合、交替制勤務における予定された始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のため夜間に十分な睡眠が取れない程度(勤務の時間帯や深夜時間帯の勤務の頻度・連続性)、一勤務の長さ(引き続いて実施される連続勤務の長さ)、一勤務中の休憩の時間数及び回数、休憩や仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容及びその変更の程度等の観点から検討し、評価すること」
改正前の認定基準では「交代制勤務・深夜勤務は、直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではないとされていることから、交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。」としていました。新認定基準では、交替制勤務がスケジュールどおり実施されたり、日常業務が深夜時間帯である場合も含めて、生体リズムやその位相のずれによる負荷要因として認めている点が重要です。
*事業場外における移動を伴う業務
「出張の多い業務については、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、出張が連続する程度、出張期間、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、出張先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張中の業務内容等の観点から検討し、併せて出張による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
ここで、飛行による時差については、時差の程度(特に4時間以上の時差の程度)、時差を伴う移動の頻度、移動の方向等の観点から検討し、評価すること。
また、出張に伴う労働時間の不規則性についても、前項により適切に評価すること」
なお、「出張」に該当しない事業場外における移動を伴う業務も負荷要因としている点が注目されます。
*心理的負荷を伴う業務
「心理的負荷を伴う業務については、別表に掲げられている日常的に心理的負荷を伴う業務又は心理的負荷を伴う具体的出来事等について、負荷の程度を評価する視点により検討し、評価すること」
精神障害の認定基準に準じた業務による心理的負荷の評価表で評価するとしています。
*身体的負荷を伴う業務
「身体的負荷を伴う業務については、業務内容のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業量、作業時間、歩行や立位を伴う状況等のほか、当該業務が日常業務と質的に著しく異なる場合にはその程度(事務職の労働者が激しい肉体労働を行うなど)の観点から検討し、評価すること」
*作業環境
「温度環境については、寒冷・暑熱の程度、防寒・防暑衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖・冷却の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度、水分補給の状況等の観点から検討し、評価すること」
改正前の認定基準は、高温環境は一般的に発症との関連は考え難いとしていましたが、新認定基準は負荷要因として評価するとしています。
「騒音については、おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等の観点から検討し、評価すること」

3 労働時間以外の負荷要因が認められれば、労働時間が「過労死ライン」に達しなくても、十分留意される
前回のブログでも述べたとおり、専門検討会報告書は、1か月当たりおおむね65時間から70時間以上の時間外労働に加えて、「労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分留意すべきである。」(49頁)としています。
この専門検討会報告書の内容に基づいて、厚労省が「過労死ライン」にどの程度達していなくても(65時間から70時間以上というのが一つの目安になるでしょう)、また、他の負荷要因の強さがどの程度のものであれば業務上と判断する認定基準を定め、当事者・遺族の救済を広げるのか注目されます。

2021年8月20日 (金)

過労死の認定基準の改正の動向 ―過労死ラインに達していなくても、あきらめずに―

1 改正に向けての専門検討会報告書
脳血管疾患もしくは心臓疾患の発症(以下、過労死といいます)について、厚生労働省および人事院等はそれぞれ通達という形で「認定基準」を定めています。
平成13年12月12日に、厚生労働省は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号労働基準局長通達)という通達を定めていましたが、20年ぶりに専門検討会報告書の医学的知見等を踏まえて、この認定基準は今秋にも改正される予定です。
専門検討会報告書に基づいて、過労死の労災認定の門戸がどのように広がるか考えてみます。

2 過労死ラインの水準に至らなくても、他の負荷要因も総合的に考慮
現行の認定基準は長期間の過重業務について、「発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い」として、この時間外労働が認められれば原則として業務上と判断してきました。この時間外労働の基準は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれています。
この「過労死ライン」の基準は、新認定基準においても妥当とされています。
改正点で最も重要なのは「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるときは、労働時間以外の、
・勤務時間の不規則性
・事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務
・作業環境
等の負荷要因も総合的に考慮して、業務上外の判断を行うとしたことです。
改正前の認定基準も、労働時間以外の負荷要因について十分検討することとしていました。しかし、業務上外の判断では「過労死ライン」の水準に至っているか否かが重視され、労働時間以外の負荷要因の範囲は限定され、かつ付加的にしか評価されていませんでした。

3 時間外労働が1か月当たり65時間から70時間以上と他の負荷要因が認められれば「十分留意」
新認定基準では「過労死ライン」の水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められるとき」については具体的に定めていません。この点については専門検討会報告書が、「支給決定事例において、労働時間の長さだけでなく一定の拘束時間などの労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事案についてみると、1か月当たりの時間外労働は、1か月当たりおおむね65時間から70時間以上のものが多かったところである。このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分留意すべきである。」(49頁)と述べていることが参考になるでしょう。
労働時間以外の負荷要因についての詳しい検討は、次回のブログで述べてみます。

4 過労死ラインに達していなくともあきらめずに
「過労死ライン」に達していないため業務外とされたり、申請をあきらめている方も少なくないと思います。
新認定基準に基づいて労働時間とともにそれ以外の負荷要因を明らかにして業務上の判断に向けて力を尽くしましょう。
・対象疾病として重篤な心不全が加わりました
新認定基準では、認定基準が対象とする虚血性心疾患等に重篤な心不全が加えられました。不整脈や心筋症の基礎疾病を有していても病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合において、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて重篤な心不全に至った場合も業務上と認定されることになりました。
地公災や人事院の認定基準では、肺塞栓症も過重な業務により生じる対象疾病としていますが、厚労省の新認定基準では、長時間同一姿勢となる機会で多くの症例が報告されているとして、改正前と同様過労死の対象疾病としては認めていません。
長時間同一姿勢を強いられる業務、あるいは業務上の疾病による療養により発症したことが認められれば業務上と認定されるのは当然です。

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