重層下請の工事現場でのシニアの過労自殺についての損害賠償請求の提訴
日立製作所が受注した大手薬品会社の工場のプラント建設工事で、配管工事の現場監督として業務を行っていた66才のAさんは、平成29年9月に過労自殺した。
この事件については、私が代理人の1人として、東京の王子労基署長に労災申請し、平成30年6月に労災認定が認められた。
労基署長が認めた、Aさんが平成29年8月下旬に気分障害を発病する前の時間外労働は、
発病前1ヵ月目 138:50
発病前2ヵ月目 100:10
となっている。
自殺直前は連日のように深夜時間帯に及ぶ30日間の連続勤務となっていた。
この長時間労働は、平成29年7月以降4ヵ月の工程を2ヵ月でやるよう指示されたために生じている。
Aさんは、プラント建設工事の二次下請であるS設備から業務委託を受ける個人事業主という形をとることにより、労基法を潜脱する雇用形態の下で勤務していた。しかし、実際はS設備の指示の下、プラント建設工事現場で業務を行っており、偽装委託の請負であった。
工事現場では、実際にはS設備から派遣された労働者として、元請の日立製作所や一次下請の会社の指示の下で長時間労働の業務に従事していたと考えられる。即ち、実際は派遣であるにも拘らず、二次下請のS設備の作業員として従事する形式がとられており、そうであれば偽装派遣との謗りを免れない。
このような勤務形態の結果、Aさんの労働時間を管理・是正する体制が欠落し、Aさんは常軌を逸した長時間労働に従事し、「もう、つかれた」の一言の遺書を残して、平成29年9月5日、単身赴任先のアパートで自殺に至っている。
「一億総活躍社会」のかけ声と労働者不足の下、シニアの労働現場への進出は増加しているが、年令による心身の機能低下は免れない。
弁護団は平成31年1月10日、大阪地裁に元請の日立製作所、一次下請の2社と二次下請のS設備を被告として、5500万円の損害賠償請求の訴えを提訴した。
この訴訟を通じて、二次下請のS設備のみならず、元請、一次下請の責任を明らかにするとともに、建設現場をはじめ、シニアの労働現場のあり方の改善を求めていきたい。
(弁護団は松丸正と大久保貴則)
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