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2017年5月24日 (水)

過労死防止学会の自動車運転労働の分科会に参加して

過労死防止学会第3回大会が、本年5月20日~21日に、東京の専修大学で開催された。
2日目は5つの分科会に分かれて、職種別の過労死の現状と、その防止の方策についての議論が交わされた。

私は、第1分科会に参加し「過労死事案から見た道路貨物運送業の過重労働」と題して報告した。
過労死(救命含む)の認定件数は、道路貨物運送業が突出して多く、毎年、全業種の認定件数の3~4割に達しており、平成27年度では、認定件数251件中82件となっている。
貨物運転者の過労死の認定件数が、全業種のなかで抜きんでて多いのは、言うまでもなく、その長時間労働と夜勤・不規則労働の点にある。
近年、私が担当した事件を別表にしたが、いずれも業務上と認定されている。

Photo_3

貨物運転者の過重な勤務は勿論であるが、運転日報、タコグラフ、点呼簿などの客観的な勤務記録があることが認定につながっている。

厚労省は「自動車運転者の労務改善基準」を定めているが、貨物自動車運転者については、最大月320時間までの拘束労働時間を認める内容となっている。月に休みなく、日々拘束10時間の労働に従事しても、更に加えて20時間の拘束労働時間が許される内容だ。
「改善基準」であるはずが「過労死基準」となっている。

また、国交省は、過労運転等による事故防止の視点から「勤務時間及び乗務時間に係る基準」を定めているが、一の運行の限度時間を144時間としている。
 144時間÷24時間=6日間
の連続した勤務を認めており、その間、運転者はサービスエリア等で運転席後方の仮眠床で休息しながらの勤務を強いられることになる。

私が担当した長距離運転者の過労死事件では、自宅に戻っての休息は勿論、着替えもできないため、妻と連絡してサービスエリアで下着や生活用品を受け渡していたという。

このような貨物自動車運転者の勤務状況は、労働現場の問題であるとともに、それ以上に労働者、そしてその家族の生活時間という点から考えることが必要だ。

労基法は「労働条件は労働者が人たる値する生活を営むための必要を満たすべきものでなくてはならない」と定めている。
貨物自動車運転者の勤務の改善が急務だが「働き方改革実行計画」では、36協定の限度時間についてさえ、5年後の先送りとなっている。

過労死防止対策は、まず、貨物自動車運転者の過重労働の改善から始めなくてはならない。

2017年5月15日 (月)

過労死遺族の救済の道を閉ざす三六協定の「上限規制」
―「働き方改革実行計画」を斬る!その③―

働き方改革実行計画は、一時的に事務量が増加する繁忙期においては、
 ①2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。
 ②単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。
 ③加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。
と、労基法を改正するとしている。

この基準は脳・心臓疾患について厚労省が平成13年に定めた認定基準に基づいている。

私が、過労死問題に取り組み始めた40年近く前には、発症当日あるいは前日の異常な出来事しか業務上と判断されなかった(災害主義基準)。
過労死という言葉はなく、労基署で過労死と主張しても、過労の蓄積で労働者が死ぬはずがないと冷笑される時代だった。

しかし、災害主義基準の下で業務外とされた遺族・被災者が裁判で争うなか、この基準の不合理さを指摘し、業務上と認める判決が重ねられた。
その結果、’87年には、発症前1週間の短期間の業務の過重性を評価する基準(発症前1週間基準)に認定基準は改正された。

しかし、なぜ過労を1週間しか評価しないのか。長期間の過労の蓄積が過労死を生み出すとの思いで、再び1週間基準の下でも業務外とされた遺族らは裁判で争い、勝訴率が50%前後という状況が生まれるなかで、’01年に現行の発症前6ヵ月間の長期間の業務の過重性を評価する基準(発症前6ヵ月基準)に改正されるに至った。

過労死の労災認定による救済は、行政の認定基準の下で業務外とされても、それにめげることなく裁判で争い、認定基準の不当性を判決で明らかにするなかで広げられていった。

しかし、現行の認定基準の下で救済されなかった多くの遺族らは、現在の月80時間を過労死ラインとし、それ以下の時間外労働しか認められないと切り捨てられる、あるいは6ヵ月より前の期間についての過重労働は原則として評価しない認定基準の問題点を裁判で争っている。

現行の過労死の認定基準に基づく働き方が、労基法で36協定の限度時間を定められれば、この認定基準の問題点を裁判で明らかにして、その救済の道を広げようとしている遺族らにとって、労基法は救済への大きな壁として立ちあらわれることになる。
企業に対する損害賠償についても、企業側からは労基法が認める範囲で36協定を定め、それに基づく働き方をさせていたにすぎないとの居直りの主張がされかねない。

「希望とは道のようなものだ。はじめはあるかなきかだが、多くの人が歩むことによって道ができる」という言葉がある。
「災害主義基準」から「1週間基準」、そして「6ヵ月基準」と、多くの遺族がめげることなく道を歩む営みのなかで、過労死救済の道は広く固められてきた。

今回の労基法改正の動きは、過労死防止のみならず、過労死遺族らの救済という視点からも、遺族らの労災認定基準の道を広げ固める長い間の営み、そしてこれからの営みに対し、大きな壁となってしまう。

2017年5月11日 (木)

法定休日の限度なくして、過労死防止なし
―「働き方改革実行計画」を斬る!その②―

働き方改革の実行計画によれば、時間外・休日労働の限度時間につき、
①週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ年360時間とし、違反には次に掲げる特例を除いて罰則を課す。
②特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。
③ この上限については、
 ⅰ 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。
 ⅱ 単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。
 ⅲ 加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。
を定めている。(ブログ参照)

③の繁忙期であれば、過労死ラインギリギリで働かせることができる基準は、過労死防止と、その救済のために取り組んできた弁護士の1人として到底容認できない。

ここでは①②について語り、③については後ほど深めたい。

①②については「時間外労働」を限度としており、週1日の法定休日についてはその限度を定めていない。

①についてみると「時間外労働」は月45時間を限度としているが、「法定休日」についての限度はない。①の基準は厚労省が定めた現行の三六協定の一般条項に定められた限度だ。
「法定休日」の全てに、しかも1日の労働時間の限度なしに働かせることが可能になってしまう。
月に時間外労働が45時間に加えて、法定休日(月4日)に1日8時間働かせたら、月の時間外・休日労働は
  45時間+8時間×4日=77時間
と、ほぼ過労死ラインで働かせることになる。

私は、実際そのような働き方で過労死し、労災認定された事件を担当した。
朝日新聞本年5月5日の朝刊の社会面トップで、NHKも全国放送でこの過労死事件を報道した。
1日8時間前後の勤務だが、法定休日も含め全ての休日に働かせることができる36協定の下、6ヵ月間に僅か4日しか休日がとれずに働いた弁当配送社員Aさんのケースだ。
倒れる前には90日を超える連続勤務が続き、週40時間を基準とする時間外・休日労働は発症前6ヵ月間(それ以前もほぼ同様の勤務だが)に月あたり75時間前後続いていた。

②の「臨時的な特別の事情がある場合」の月平均60時間、年間720時間についても「時間外労働」についての限度であり、法定休日の勤務についての限度がないこと、①と同様だ。
法定休日の勤務は少なくすることを、法的義務でなく、努力義務とする議論もあるようだが、努力義務では、過労死防止にならない。
②の限度基準では、法定休日に1日8時間勤務するとしても、月の時間外・休日労働は、
  60時間+40時間=100時間
まで認められることになる。

①②の限度基準は、法定休日を含めておらず、かつ法定休日については、日数についても、1日の労働時間についても、限度が定められていないことから、過労死を防止する規制になっていない。

人は、休日をとることによって疲労を回復し、明日から働くことの力を得ることができる。
休日なしに働くことは、疲労・ストレスが蓄積する一方で、その回復をすることができない。
法定休日を含めた限度時間の規制が不可欠だ。

では、「法定休日を含んで」とする③の限度基準は過労死防止に足り得るのか。
その評価は次のブログで述べよう。

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2017年5月 2日 (火)

過労死ライン超えの勤務 中学教諭は58%との文科省調査

文科省が行った、昨年10月から11月の連続する7日間の、フルタイムで働く教諭の勤務状況についての調査結果によれば、小学校については34%、中学校については58%が、週60時間を超える勤務をしている実態が明らかになったと報道されている。(朝日新聞4月29日(土)朝刊)

私が最近担当した、公務上と認められた部活顧問の中学校教諭の3件の過労死(救命を含む)については、以前ブログで述べたとおりだ。

私は「過労死は職場の『炭坑のカナリア』」と考えているが、今回の調査結果は、教師の労働現場が更に、「長時間労働等により疲労・ストレスが過度に蓄積すると心身の健康を損ねることは周知の事実」(平成12年3月24日最高裁電通過労自殺判決・「過労自殺損害賠償請求訴訟の原点」参照)であることを文科省自らが認めた調査結果だ。

過労死等防止対策推進法や、それに基づく大綱は、学校教育を通じて、過労死防止に関する国民の関心と理解を深め、啓発を行うことを定めている。
しかし、それを教えるべき教師自身が、過労死ラインをこえて勤務していては、それを教えることができるのだろうか。

教師の長時間勤務の要因としては、部活・授業増・生徒への教育以外の事務の増大等が挙げられている。

しかし、私は、最大の要因は給特法で4%の教職調整額の支給によって、原則として時間外手当が支給されず、その結果、教育委員会、校長、更には教師自身にとっても勤務時間意識が失われている点にあると思う。

更に深めて考えてみたい。

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