2025年2月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28  
無料ブログはココログ

« 2017年2月 | トップページ | 2017年4月 »

2017年3月31日 (金)

労使合意(36協定)から立法(労基法)による
過労死ラインの働き方容認へ
―「働き方改革実行計画」を斬る!その①―

働き方改革実現会議(議長安倍首相)は、本年3月28日「働き方改革実行計画」を定め、そのなかで「法改正による時間外労働の上限規制の導入」として、

<原則>
Ⅰ 週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ年360時間とし、違反には次に掲げる特例を除いて罰則を課す。
<特例>
Ⅱ 特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。
Ⅲ 年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける。
Ⅳ この上限については、
 ①2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。
 ②単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。
 ③加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。

と定めている。(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳは私が記入)
については「休日労働を含んで」単月100時間未満、2か月ないし6か月の平均で80時間以内としている。

過労死の認定基準が、週40時間を超える休日労働を含む時間外労働が発症前1か月間におおむね100時間、あるいは2か月間ないし6か月間において月当たりおおむね80時間認められるときは業務上と判断する、との厚労省の認定基準に基づいたものとなっている。

認定基準は、他の業務負荷の要因(例えば、不規則夜勤交代制、出張の多い業務、作業環境等)も付加的に考慮して、時間外労働の基準に該当しない場合において業務上と判断するケースも少なくない。
判例では、認定基準に拘束されることなく、時間外労働が認定基準に達していなくとも、また6か月間という評価期間を超えた長期間についての業務負荷を検討したうえ、業務上と判断した事案も多い。

に基づいて労基法を改正することは、立法によって国が過労死ラインで働くことを容認することになる。

これまでは、労基法36条の労使協定によって定められていた労働時間の上限(経団連会長・副会長出身会社の平成28年3月現在の36協定は、なんと17社中15社が特別条項で月80時間の時間外労働を認めるものとなっている)を立法で認めることは、企業の側に、労基法に従った、国が認めた働き方をさせていただけであり、安全配慮義務違反はない、という主張の根拠を与えることになりかねない。
責任を追及された企業は、当社での働き方が過労死を招いたと言うなら、そのような働き方を認めた立法をした国の問題として、責任回避の主張をすることも考えられよう。

過労死ラインでの働き方を「働き方改革」の名の下に容認することは、過労死遺族は勿論、多くの過労死・過労自殺事件を担当している弁護士である私としても許すことはできない。

既にブログ(過労死問題を「大河内理論」から考える)で述べたが、かつて故大河内一男教授が述べた、「社会政策とは一定の量と質を有する労働力を確保するための総資本による政策である」との言説が頭をよぎる。
総労働の立場から、政労使の合意をもう一度見直すことなくしては、従前の労使合意により過労死ラインの36協定から、総資本、総労働、そして国に基づく立法による過労死ラインの労基法により、過労死のおそれのある働き方が生じてしまう。
しかも、しつこいと言われようとも、労働時間の適正把握がなされていない多くの企業の現状を踏まえれば、なお更のことである。

Ⅰ,Ⅱ,Ⅲについては「休日労働」(正しくは「法定休日」)は別枠となっている点が最大の問題である。
この点は、つぎのブログで。

経営者は労働時間の適正な把握を
―読売新聞での私の紹介記事―

本年2月1日(水)の読売新聞夕刊で、私の過労死問題についての活動と持論について取り上げてくれました。

2_9

私の過労死問題についての思いと、過労死をなくすための持論である労働時間の適正把握について書かれています。
自己紹介がわりに。

1_4

 

2017年3月24日 (金)

最高裁の遺族補償年金の男女差別を容認する判決

本年3月21日午後3時、堺市内の中学校の教師であった妻が過労自殺した件につき、訴訟で公務上を認められたが、55才未満の夫であるということで遺族補償年金は支給されず、遺族補償一時金しか支給されなかった件についての最高裁判決が下った。

当事者のTさん、そして代理人の私と成見弁護士、そして20名近くの支援の傍聴者の前で、最高裁第三小法廷は、5人の裁判官の全員一致で上告棄却の判決を下した。

地公災基金も労災保険も、遺族補償年金は遺族が妻のときは年齢制限がないが、夫のときは55才以上でないと支給されず、遺族厚生・基礎年金についても同様の定めがある。
日本の年金制度は、妻・夫という性別によって年金の受給権者を区別している。

1審の大阪地裁判決は、この制度が定められた(地公災については昭和42年)当時の専業主婦世帯を前提とした制度であり、共稼ぎ世帯が一般化した現在においては、立法の基礎となった社会的・経済的事実(立法事実)は変化しており、憲法14条の平等原則に反するとして違憲判決を下した。

これに対し大阪高裁は、妻は「一般に独力で生計を維持することは困難」であることを強調し、合憲とする逆転判決を下した。

最高裁は、
「地方公務員災害補償法の定める遺族補償年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障の性格を有する制度というべきところ、その受給の要件を定める地方公務員災害補償法32条1項ただし書の規定は、妻以外の遺族について一定の年齢に達していることを受給の要件としているが、男女間における生産年齢人口に占める労働力人口の割合の違い、平均的な賃金額の格差及び一般的な雇用形態の違い等からうかがえる妻の置かれている社会的状況に鑑み、妻について一定の年齢に達していることを受給の要件としないことは、上告人に対する不支給処分が行われた当時においても合理的な理由を欠くものということはできない。したがって、地方公務員災害補償法32条1項ただし書及び附則7条の2第2項のうち、死亡した職員の夫について、当該職員の死亡の当時一定の年齢に達していることを受給の要件としている部分が憲法14条1項に違反するということはできない。」
として、高裁判決同様、合憲であるとして上告を棄却した。

Tさんとその支援者(多くは過労死・過労自殺のご遺族)は、判決後集いを持って、この判決への感想を語りあった。
男女共同参画社会を国として目指すなかで、年金制度は「夫は外で、妻は家庭」との過去の残滓の考えを払拭できない。

この最高裁の判断は、年金の受給権者である夫に対する差別以上に、「一般に独力で生計を維持することが困難」である存在とされている妻に対する差別である。

せめて少数意見との思いもあったが、全員一致の判決とは・・・。
しかし、中島みゆきの歌にあるように「そんな時代もあーったねと♪」と振り返られる日が近いことを望むとともに、立法府、そして「一億総活躍社会」を標榜する行政府としても、この制度の改正に努めてもらいたいものだ。

                           <朝日新聞2017.3.22>

Photo

2017年3月14日 (火)

法定休日の限度時間を含んだ
上限規制なくして過労死の防止なし

36協定の特別条項の上限規制をめぐって、時間外労働の限度を100時間とするか、100時間未満とするかが国会で争点になっている。
厚労省の認定基準は、発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間のいずれかの期間で、時間外がおおむね80時間を超えたときも過労死として認定するとしている。
過労死ラインは、月100時間でなく、月80時間として、上限規制の議論を深めるべきだ。

36協定では、時間外労働と法定休日労働の限度を定めている。
問題なのは、休日労働についての上限規制が全く議論されていないことだ。
時間外労働のうちには週1日の法定休日は含まれていない。多くの会社(事業場)の36協定では、全ての法定休日の労働を認める内容になっている。

仮に、時間外労働が告示で定められた一般条項の限度である月45時間となっていても、法定休日に月4日、1日10時間勤務すれば月80時間の過労死ラインを超えることになる。

時間外労働と法定休日労働をあわせた限度時間規制をしないと、過労死・過労自殺は防止できない。

それを被災者、遺族の立場でその救済に取り組む弁護士として痛感する。

« 2017年2月 | トップページ | 2017年4月 »