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2016年11月30日 (水)

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント②
―発病の有無の重要性―

厚労省等の行政の認定基準は、
 業務による強い心理的負荷 → うつ病等の精神障害の発病 → 自殺
という考え方に立っています。

業務によって直ちに自殺が生じたのではなく、業務によって精神障害を発病し、発病したことにより正常な認識や行為選択能力が著しく阻害されたことによって自殺に至ったことが求められます。

精神障害の発病が認められなくては、「覚悟の自殺」あるいは「故意による自殺」だから、故意による災害は労災の対象にならないとしているのです。
精神障害を発病した下での自殺は、自分の意思による「故意の自殺」ではなく、正常な認識や行為選択能力が失われた下での自殺として、労災の対象となるのです。

ですから、過労自殺の労災認定に取り組むにあたっては、うつ病等の精神障害を発病したことを明らかにすることが重要な第一歩です。

自殺前に精神科医に受診しているときは容易ですが、過労自殺の殆どの事案は自殺前に精神科医の診察を受けないまま自殺に至っています。
では、受診していない場合はどうやって発病を立証したらいいのでしょうか。厚労省は国際的な診断基準である「ICD-10」に基づいて発病を判断するとしています。
「ICD-10」によれば、うつ病については、
 ・易疲労感
 ・抑うつ症状
 ・興味と喜びの喪失

の3つのうつ病の典型症状(少なくも3つのうち2つ)、並びに睡眠障害、焦燥感等一般症状に基づいて発病を判断するとしています。
ですから、被災者が自殺する前の、職場や自宅での様子の変化をひとつひとつ思い起こしていくことが大切です。

しかし、過労自殺で亡くなる方の多くは、職場でも、更には家庭でも、その症状が気づかれないまま、その苦しさを自己統制して最後まで働き続けるなか自殺に至っています。
また、会社はその責任を回避するため意図的に、職場では何の変化もなく、心身の健康状態の悪化はなかったと労基署に報告することも少なくありません。
自宅での細々とした様子の変化、例えば、帰宅したとき今までの「ただいま」の言葉がなくなり疲れた様子だったこと、いつもしていた犬の散歩、子への声かけがなくなった、楽しみにしていたテレビの番組を観なくなった、寝つかれなくなり早朝覚醒が生じていた、いつも追われるような焦燥感を訴えていた、自分を責めるような言動があったetc.を労基署の調査時に述べることが大切です。

様子の変化を、悲しい気持ちを乗り越えて、家族みんなで思い出して、精神障害を発病していたことに足りる症状があったことを明らかにすること。これが自殺の労災認定に向けての、はじめの第一歩です。

発病を明らかにするとともに、大切なのは発病の時期の問題です。
これについては、つぎのブログで。

2016年11月29日 (火)

過労自殺の労災認定に取り組むにあたってのポイント①
―自殺の業務上認定の3つの要件―

大切な方を職場の長時間・過重な業務や、上司・顧客らのパワハラ等で自殺で失った方が、労災(公災)認定に取り組むにあたってのポイントについて、いくつかのブログに分けて述べてみましょう。

厚労省の認定基準は、自殺の業務上外の判断の要件について、
① 精神障害(うつ病等)を発病していたこと
② 発病が、発病前6ヵ月間の業務による強い心理的負荷により生じたこと
③ 業務以外の心理的負荷や個体側(被災者側)の脆弱性によって生じたものではないこと
としています。

③については、人はそれぞれ業務以外の家庭的、経済的、個人的な悩みを抱えているのはあたりまえです。
また、うつ病にかかりやすい性格や、かつてうつ病にかかった病歴をお持ちだったかも知れません。
大切な人が自殺で亡くなったとき、ついそちらに考えがいってしまうかも知れませんが、②の業務による心理的負荷が強いものであることが認められれば、業務以外の心理的負荷や個体側の脆弱性で発病し自殺に至ったことが明白でない限りは、業務上と判断されます。
私が担当した多くの事案のなかでも、②の業務による心理的負荷が強いことが認められた事案で、③により業務上が否定された事案はありません。
逆に、②の業務による強い心理的負荷がないにも拘らず発病したとされた事案では、発病は業務以外の心理的負荷や、個体側の脆弱性のためとされてしまいます。

ですから、認定の要件のうち大切なのは①、②の点で、これが認められれば③の業務以外の心理的負荷や個体側脆弱性は業務上と判断されることの支障は殆どありません。

自殺前に離婚した、借金に追われていた、あるいは、かつてうつ病の病歴があるからだめでしょうかと相談を受けることがありますが、心配する必要はありません。

①と②を明らかにすることができれば、業務上=仕事で自殺に至ったことを認めてもらうことができます。

つぎのブログでは、①の精神障害を発病したこと、並びに発病の時期の重要性について述べることにします。

2016年11月25日 (金)

村上春樹の長編小説の書き方に教えられたこと

11月18日(金)は静岡へ、19日(土)は広島へ、20日(日)は島根の浜田へ、21日(月)は東京から新潟の長岡へ、そして22日の今、早朝東京を新幹線で発って岡山に向かっている。どこを列車等で走っても紅葉の盛り、山燃える季節です。
変なルートの旅行とお思いでしょうが、旅行でなく、過労死や過労自殺の裁判や、ご遺族との打合せのための出張なんです。
過労死のご遺族が話を聞きたがっているとの連絡があると、すぐに全国どこでも飛んでいってしまう、それが私の「悪いくせ」なのです。

車中で裁判のための書面(準備書面といいます)を書こうと思ったのですが、村上春樹の『職業としての小説家』(新潮文庫)の「時間を味方につける―長編小説を書くこと」を読んでいます。
長編小説を書くには「仕込みの時間」をかけて「じっくり養生する」こと、その時間が家庭のお風呂と違う温泉のように「いや、じんわりくるんだよ、これが。うまくいえないけどさ」の差を生み出す。
第一稿を書き終えた後も、休みの時間をとることで「養生しながら」何度も書き直し、第三者(彼の場合は奥さんとのこと)の意見を聞き、「けちをつけられた部分があれば何はともあれ書き直そうぜ」、こんな「トンカチ仕事」を「ゲラ」が出来た後も繰り返し、「力の及ぶ限りにおいて最良のもの」を書くべく努力する。
「もう少し時間があればもっとうまく書けたんだけどね」「締切りに追われないと小説なんて書けないよ」、そんな時間に追われたせわしない書き方でなく、自分の意志で時間をコントロールできるようにならなくてはならない。そのためには日々規則性をもって原稿を書き、そのためにはフィジカルにも鍛えておかなくてはならない。(彼はフルマラソンやトライアスロンもする。)
長編小説家としての彼の持論を述べています。(是非本文を読んで下さい。)

村上春樹の長編小説を書くにあたってのこの持論は、弁護士である私が、長編の最終準備書面を書くにあたっても多くのことを教えているように思いました。
もっとも弁護士の場合は、準備書面は長編であることより、論点に集中、凝縮したものが求められるのですが。
コンマの1つにもこだわる時間をかけた「トンカチ仕事」によって、裁判官を温泉の如く「ジワ~」と説得できる準備書面が完成できるのでしょう。

こんな駄文を書いていたおかげで晴天の富士山を見すごしてしまいました。

2016年11月21日 (月)

ブラック企業と隠れブラック企業

過労死問題について語られるとき「ブラック企業」という言葉が使われることが多い。
「ブラック企業」とは何か。色々言われているが、私は過労死との関係で考えるとき、「労働者の心身の健康を損ねるおそれのある社内体制のある企業」と考えている。

私が担当した大手居酒屋チェーンの石山駅店に大卒で入社した吹上元康さんが、24才の若さで(電通過労自殺事件の2人も24才)心疾患で死亡した事件がその典型と言えよう。
この企業は、初任給を約19万円(残業代別途支給)と就活情報に表示していた。
入社時の研修で、19万円のうち12万円が基本給、7万円は時間外勤務月80時間分の「役割給」との説明がされ、実際4月に就職後、月100時間近い勤務に就くなか9月に過労死している。
時間外労働の限度時間を定めた三六協定も、特別条項で月100時間と定めている。
厚労省の過労死の認定基準は、発症前1ヵ月間におおむね100時間、あるいは2ヵ月間ないし6ヵ月間に月あたりおおむね80時間の時間外労働が認められるときは過労死として認定することを定めている。(過労死ライン)
この企業においては、賃金体系(役割給)も三六協定(特別条項)も、過労死ラインを超える社内体制を有しており、その結果、前途ある若き青年の命が奪われている。
この過労死の損害賠償事件で大阪高裁は、「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明」として、企業の、更には社長、専務の個人責任も認めている。(大庄・大阪高裁判決「労働者の生命・健康は至高の法益」参照

また、ある建設会社の40代の営業マンが過労死した事件では、彼が営業時常に携帯していた営業日誌には、「毎日10時まで働くくせをつけよ。早く帰ったり遅く帰ったりは家族も困る」と記載されている。

タイムカードがあってもブラック企業である実例を挙げよう。
あるファミリーレストランチェーン店の企業では「稼働計画」(勤務シフト)は絶対であるとの社長通達により、この勤務シフトに基づき出・退勤並びに休憩時間の打刻を社員に強制しており、そのなか25才の店長は心疾患により過労死している。

企業自ら過労死が生じる社内体制を構築している企業は「ブラック企業」との誹りを免れない。

しかし、過労死等はブラック企業のみならず、社会的にも就活においても、大手企業と目されている企業にも生じている。

過労死問題を考えるとき、ブラック企業に注目してしまうと、この問題を矮小化してしまうことになる。
優良企業と目されている大手企業における過労死は、今回の電通事件で社会的な注目を浴びたが、私が担当している事件をみても、多くの大企業において過労死は生じている。
そのキーワードは、「労働時間の適正把握の懈怠」である。社内的に労働者の心身の健康を損ねることのない法令遵守体制がいかに詳細に定められていても、労働時間の適正把握体制が構築されていなければ、過労死等を防止することはできないことは、このブログで何度も強調してきたことだ。

過労死防止は、まず労働時間適正把握体制のチェックから、それなしには優良企業といえども明日は隠れブラック企業との社会的非難、著しい企業価値の失墜を招くことになる。

2016年11月16日 (水)

電通過労自殺事件を考える③

電通では 電通過労自殺事件を考える① のブログで書いたように、平成3年の故大嶋さんの事件では、監理員巡回記録や退館記録、今回の故高橋さんの事件ではIDカードによる入・退館記録があるにも拘らず、自己申告により労働時間を把握していた結果、心身の健康を損ねる長時間労働に対するチェック機能が働かなかったことが、事件が生じた重要な要因となっている。

労働時間の把握につき厚労省の通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」は、原則として使用者の現認あるいはタイムカード、ICカード等の出退勤の客観的な記録に基づき行うことを求めている。

使用者の現認は、小規模な会社で社長が他の社員より先がけて出勤し、全員が退勤したのち社長も退勤するような会社ならともかく、現実的な方法でない。
タイムカード、ICカード、あるいは正確性に欠けるがパソコンのログイン・アウトの記録(ログイン前やログアウト後に業務がなされることもある)等の客観的な出退勤の記録によって把握するのが、厚労省の通達をまつことなく、原則的かつ適正に把握できる方法であることは明白である。

仮に出勤後、退勤までの間に、昼の休憩時間以外に業務から解放された私的な時間があるなら、その時間を自己申告させる、即ち労働時間を自己申告させるのではなく、業務から解放された時間、即ち出勤から退勤までの間に取得した休憩時間を申告させる、電通のように自己申告を原則とするのではなく、出退勤の客観的記録(今回の故高橋さんの事件では入・退館記録)を原則として把握すべきなのだ。
IDカードによる入・退館記録の電磁データがあれば、社員の労働時間を日々把握することは容易であり、時間外労働が36協定の限度時間を超えたらパソコンの画面に黄色の表示、月80時間を超えたら赤い表示がされるようなシステムも容易に作成できよう。
その表示に従って、社員の労働時間の是正と産業医面接等、心身の健康上の措置を行うべきである。

自己申告と客観的な出退勤記録との齟齬は、過労死・過労自殺の温床を生んでいる。

厚労省の前記通達は、例外的に自己申告を認めているが、多くの会社では自己申告を原則としている。また、前記通達は齟齬が生じないための要件を定めているが、その要件を充足した自己申告制度を有している会社は、「優良」会社においても数少ない。
客観的な出退勤の記録に基づく労働時間を原則とすること、電通のような事件が繰り返されないためにも、また不払残業が生じないためにも、使用者には自社の労働時間の把握システムを再検討されることを求めたい。

また、厚労省に対しても、前記通達どおり、適正な労働時間の把握を客観的な出退勤の記録でなすことの厳しい指導を強化することを求めたい。

電通において、再び繰り返された事件を反省してまずなすべきは、自己申告でなく、出・退勤システムに基づく労働時間による把握を直ちに実施することである。

2016年11月15日 (火)

電通過労自殺事件を考える②
最高裁調査官の、自己申告が過少になされることについての分析

故大嶋一郎さんの過労自殺につき、平成12年3月24日に下された、最高裁電通過労自殺損害賠償請求事件判決は、「企業賠償責任元年」を切り拓いたと言っても過言でない重要な判決だった。
この判決を下されるにあたって事件の検討をした八木一洋調査官(裁判官である)の判例解説〔最高裁判例解説民事篇平成12年度(上)〕は、被災者救済の点において、判決そのものにも劣らない、その後の過労死・過労自殺の判決をリードする重要な論文である。

電通等、自己申告による労働時間管理を採用している「優良企業」において、自己申告が過少になされることについて、前記判例解説の注50において、つぎのように述べている。長文になるが引用しよう。

「今後の議論の材料として供する趣旨で、簡単なモデルを提示する。設例の職場では、中間管理職が、その管掌する部署に属する従業員につき人事考課を行うものとされており、中間管理職自身も、部下である従業員の業績等につき上司による人事考課を受けるものとする。中間管理職自身に対するものも含め、人事考課上の指標としては、業務の成果物の量と労働生産性が重視されているが、従業員の労働時間の合計については上限が課されており、中間管理職がその管理に当たるとされているものとする。そして、中間管理職も、従業員も、人事考課の結果に基づく将来の昇進のいかんにより、収入は大きく左右されるものとする。
 一般に、従業員の業務の負担が過重となる原因としては、① 当該業務につき配置人員が過少である、② 上司(設例では中間管理職)の業務遂行に関する指示が不適切である、③ 従業員の業務遂行の方法等が不適切であるといった事由が考えられるが、右のような前提の下に中間管理職が労務管理に当たる場合には、③の点に焦点が当てられやすくなるものと思われる(殊に、①の点は、中間管理職及び従業員のいずれにおいても、自己の能力に関する評価にかかわるため、論点として挙げにくい。)。ところで、③の点は、従業員に対する人事考課上の指標とされるその労働生産性の問題と、表と裏の関係にあるものである。労務管理に当たる中間管理職自身も部下の従業員の業績により人事考課を受ける場合には、従業員の業務の負担の調整と、人事考課上の指標としての従業員の業績の向上との間に、相反する傾向が生ずる可能性が高く、当該中間管理職の関心の在り方いかんによって、いずれが重視されるかが大きく左右されるものと思われる。
 既に労働時間の上限に近い状態で業務が遂行されている状況において、中間管理職が更に業務の成果物の量の増大を目指し、一方、業務の性質からしてその効率性(実質労働生産性)を向上させることが困難な場合には、実際には右上限を超える労働時間につきその名目量の調整をもって対処するほかはない。これは、名目労働生産性を実際よりも高いものであるかのように示すことと同義である。当該職場において労働時間の自己申告制が採用されているならば、従業員にその労働時間を過少に申告させることによって、右に述べたところに沿う結果を得ることができる。これに対し、従業員としても、前記のような状況下において、中間管理職の関心が名目労働生産性の点にあり、それが自己の能力の評価、ひいては昇進に影響すると認識している場合には、労働時間を過少に申告することによって現在失われる利益よりも、自己に対する評価が高まり昇進することによって得られるであろう将来の利益の方が大きいと判断して、労働時間を過少に申告する行動を選択することがあり得よう。発端となる事情のいかんはひとまずおいて、当該職場において右のような行動を執る従業員がある程度の数に達すると、労働時間を過少に申告することが、従業員間の人事考課上の競争における事実上の前提条件と化する可能性がある。こうした状態が生ずると、遅れて当該職場に加わった者(新入社員等)について、業務遂行に不慣れなことに起因する当面の労働生産性の低さを補う事情もあり、既に競争の前提条件となっている労働時間の過少申告行動を採用しようとする傾向が高まることが考えられる。」

この論文を読むまでは、正直に言って、私は裁判官は世間を知らないとの気持ちを持っていた。しかし、会社や労働者を含めた世間を冷静に、かつ的確に見通したこの論文を読んでから、そのような考えを、裁判官一般に持っていたことを反省している。

皆さまは、この論文をどのように受けとめられましたか。

2016年11月14日 (月)

電通過労自殺事件を考える①
再び繰り返された電通事件―2つの過労自殺事件の共通性

平成27年12月25日、故高橋まつりさんがクリスマスの日の朝に、母に「大好きで大切なお母さん さようなら ありがとう 人生も仕事もすべてつらいです 自分を責めないでね 最高のお母さんだから」とのメールを残して自ら命を絶った。

そのふた昔前の平成3年8月27日には、故大嶋一郎さんが同様に自殺している。この件についての損害賠償請求事件は最高裁まで争われている。

2つの自殺事件は、
・ともに被災者は24才であり、入社2年目の新入社員であったこと
・故高橋さんは、うつ病発病前の時間外労働は月100時間を超えており(故高橋さんの代理人の主張によれば130:56、労基署の認定によれば約105:00)、
故大嶋さんの発病前には勤務日の3日に1回は翌朝6:30に至る徹夜勤務であったことなど常軌を逸した長時間労働であったこと
・故高橋さんのツイッターによれば、部長から「君の残業時間の20時間は会社にとってムダ」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するなよ。」と言われ、
故大嶋さんは、酒を飲めないにも拘らず、班のリーダーから靴の中にビールを注がれて飲むことを強要されたり、靴の踵でたたかれれるパワハラがなされている
ことなどの共通性を有している。

更に共通性として最も重要なのは、過少な自己申告がなされ、適正な労働時間の把握がなされていなかったことにある。

故高橋さんの件では、36協定の月70時間の限度時間を超えないようにするため、平成27年10月は69.9時間、同年11月は69.5時間の申告しかなされていない。代理人や労基署の労働時間の認定は入・退館記録に基づいている。
故大嶋さんの件についても、36協定の月60時間~80時間の限度内で、勤務状況報告による自己申告がなされており、監理員巡回記録や退館記録によって裁判所の判断はなされている。

電通自殺事件については、第4代社長の遺訓である、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」等による企業風土があることが指摘されている。
私は企業風土のせいとする考え方はこの問題を矮小化させることになると考える。

労働時間が適正に把握されることなく、過少申告がなされていたこと、それはどの「優良企業」の過労死・過労自殺にも共通することは、このブログの 過労死防止への課題 で述べたとおりだ。

故大嶋さんの事件から24年を経ても、電通においては、出・退勤の客観的な記録ではなく、自己申告による労働時間管理を継続していたことに、過労自殺が繰り返されたことの本質があると私は考えている。

ではなぜ、社員とりわけ新入社員では過少な申告がされるのか。つぎのブログでは、大嶋さんの事件での最高裁の調査官である裁判官の判例解説に基づき考えてみよう。

2016年11月 2日 (水)

『過労死・過労自殺の救済Q&A』(第2版)の発刊

00000000089721_5大阪過労死問題連絡会の弁護士が著作した『過労死・過労自殺の救済Q&A』(第2版)が本年10月に出版されました。

平成23年7月に出版された同書に、その後の精神障害・自殺の認定基準や、行政不服審査手続の改正や、新たな判例に基づき改訂を加えています。

過労死・過労自殺の労災認定、あるいは企業賠償責任の追及を考えている被災者・ご遺族の力になればと、同連絡会の総力をあげて書き上げた書です。

編集代表として、私が同書の「はしがき」にも書きましたが、あなたが、過労死・過労自殺の手続の中で壁にぶちあたり、めげそうになったとき、この書が力になり、良い結果に結びつけば望外の幸せです。

この書をお手にとられるとともに(私のプロフィール、電話やFAX,メールでも申込み下さい。送料は当方負担でお届けします。)、読まれてもご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡下さい。

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