拡張型心筋症でも過労死と認定される
心筋症や心筋炎でも、従前症状が安定し、日常業務を支障なく遂行できる状態であれば、過労死の認定基準に基づいて判断されることについては、既に「心筋症・心筋炎と過労死の労災認定」で述べた。
拡張型心筋症の基礎疾病を持った外国人労働者が、発症前1か月に160時間の時間外労働に従事するなか「拡張型心筋症、うっ血性心不全」を発症し、埋込型除細動器を装着するに至った事案で、労働保険審査会は、平成26年12月26日、労基署長の下した業務外との判断に基づく不支給処分を取り消すとの裁決を下している。(安全センター情報2016年11月号58頁)
この裁決は、
「本件の如く労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有するものの、日常業務を支障なく遂行できる状態にあったときに、労働に従事していた際、たまたま症状が発現ないし増悪したとしても、一般には業務起因性はないものと考えられている。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷によりその自然経過を超えて著しく増悪したと医学的に認めうる場合には、業務との間に相当因果関係が認められるものとして、取り扱うこととされているところである。
そこで、以下に請求人の拡張型心筋症がその自然経過を超えて著しく増悪したか否かについて検討する。」
との基準に基づき判断しているが、この基準は認定基準そのものの立場であることは、前記のブログで述べたとおりだ。
そのうえで、被災者の発症前の時間外労働は、発症前1か月では月160時間を超えるなど認定基準を充足しており、
「したがって、請求人には認定基準の要件に該当する業務による明らかな過重負荷があり、それによって、拡張型心筋症が急激に著しく増悪し重篤な不整脈を発症したものと認められることから、拡張型心筋症の病状の増悪による心室頻拍等の発症と業務との間には、相当因果関係があるものと判断する。」
としている。
労基署長、そして審査官の業務外との判断にへこたれることなく、労働保険審査会で業務上の判断を得たこの外国人労働者、並びにその支援者たちの、ネバーギブアップの精神に敬意を表したい。
一方、拡張型心筋症という問題点(しかし、認定基準上は症状が安定している限り業務上と判断する支障にはならない)があるにしても、これだけの長時間労働が明らかであるにも拘らず、これを業務外とした労基署長、審査官(更に言えば、参与は4人とも棄却相当としている)の判断に対しては猛省を求めたい。
« 現実化してきた、過労死等を助長する副業解禁論 | トップページ | 『過労死・過労自殺の救済Q&A』(第2版)の発刊 »
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