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2016年10月26日 (水)

拡張型心筋症でも過労死と認定される

心筋症や心筋炎でも、従前症状が安定し、日常業務を支障なく遂行できる状態であれば、過労死の認定基準に基づいて判断されることについては、既に「心筋症・心筋炎と過労死の労災認定」で述べた。

拡張型心筋症の基礎疾病を持った外国人労働者が、発症前1か月に160時間の時間外労働に従事するなか「拡張型心筋症、うっ血性心不全」を発症し、埋込型除細動器を装着するに至った事案で、労働保険審査会は、平成26年12月26日、労基署長の下した業務外との判断に基づく不支給処分を取り消すとの裁決を下している。(安全センター情報2016年11月号58頁)

この裁決は、
「本件の如く労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有するものの、日常業務を支障なく遂行できる状態にあったときに、労働に従事していた際、たまたま症状が発現ないし増悪したとしても、一般には業務起因性はないものと考えられている。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷によりその自然経過を超えて著しく増悪したと医学的に認めうる場合には、業務との間に相当因果関係が認められるものとして、取り扱うこととされているところである。
そこで、以下に請求人の拡張型心筋症がその自然経過を超えて著しく増悪したか否かについて検討する。」

との基準に基づき判断しているが、この基準は認定基準そのものの立場であることは、前記のブログで述べたとおりだ。

そのうえで、被災者の発症前の時間外労働は、発症前1か月では月160時間を超えるなど認定基準を充足しており、
「したがって、請求人には認定基準の要件に該当する業務による明らかな過重負荷があり、それによって、拡張型心筋症が急激に著しく増悪し重篤な不整脈を発症したものと認められることから、拡張型心筋症の病状の増悪による心室頻拍等の発症と業務との間には、相当因果関係があるものと判断する。」
としている。

労基署長、そして審査官の業務外との判断にへこたれることなく、労働保険審査会で業務上の判断を得たこの外国人労働者、並びにその支援者たちの、ネバーギブアップの精神に敬意を表したい。

一方、拡張型心筋症という問題点(しかし、認定基準上は症状が安定している限り業務上と判断する支障にはならない)があるにしても、これだけの長時間労働が明らかであるにも拘らず、これを業務外とした労基署長、審査官(更に言えば、参与は4人とも棄却相当としている)の判断に対しては猛省を求めたい。

2016年10月24日 (月)

現実化してきた、過労死等を助長する副業解禁論

報道によると、
「政府は、会社員が副業・兼業をしやすくするための指針づくりに乗り出す。会社勤めを続けながら、勤め先に縛られない自由な発想で新しい事業を起こしたい人を支援し、経済の活性化につなげるのが狙い。24日に開く『働き方改革実現会議』の会合で、副業・兼業の環境整備を進める方針を打ち出す予定だ。」
として、社員の副業・兼業の解禁に向けてのガイドラインを政府が策定し、企業の「意識改革」を促す動向が伝えられている。(平成28年10月23日朝日)

副業・兼業の解禁は、政府の「働かせ方改革」の一環として打ち出されたものと考えられる。
解禁の目的として、「欧米の企業では、兼業を認められた社員が起こした新規事業が大きく成長するケースが目立つ。失敗しても、兼業なら職を失うこともない。」として、社員の社外チャレンジを図ることが挙げられている。

労働者の副業・兼業は、既に非正規雇用の若者の労働現場を中心に、低賃金の下で広く生じている。
その結果、複数の労働現場をあわせた長時間労働が生じている弊害は、「過労死から考える『副業解禁』論」のブログで述べたとおりだ。

正社員について副業解禁をすることは、正社員についても雇用の安定性を失わせるとともに、「チャレンジワーク」(=副業)による収入や、チャレンジの機会の可能性(それが、どれだけの正社員にとって現実的な意味を持つのか疑問であるが)の代償としての賃下げを招くことは想像するに難くない。

副業解禁論は、非正規雇用の労働者の生活のための兼業による長時間労働を助長・固定化するとともに、正社員には雇用からのスピンアウトのリスクと、複数の会社でのあわせた長時間労働を招くことは必至である。

個別の会社でも労働時間が適正に把握されない下で、過労死・過労自殺が生じている。(ブログ「過労死等の予防は適正な労働時間の把握なくしてはあり得ない」参照)
実態を踏まえるなら、兼業の下で、複数の会社での労働時間が適正に把握され、かつ心身の健康を損ねることのない労働時間管理がなされるとは到底期待しがたい。過労死等を助長する制度である。

副業解禁論の動向は、労働者のみならず、会社にとっても、安定した雇用、そして経営をつき崩すおそれのあるものとして警戒感を持つ必要がある。

過労死等の労災認定に多くの遺族が踏み切れない理由

かつて、脳・心臓疾患の過労死の労災認定は狭き門だった。あるご遺族は「ラクダが針の穴を通る」より難しいのですね、と嘆いていた。

私が過労死の労災認定事件に取り組むようになったのは35年前、当時の厚労省の認定基準は、発症前の「異常な出来事」(災害に匹敵する出来事)がない限り業務上とされず、過労死という言葉はない時代で、認定率は請求件数のうち3~5%という状況だった。

これに対し現在は、過労死も精神障害・自殺も30%を超える認定率となっている。
未だ救済されない事案が余りに多いものの、認定率は、被災者・遺族が訴訟を通して判例を積み重ねるなか、認定基準を改正させることにより、前進してきている。

にも拘らず、前のブログ(過労死・過労自殺の実際の件数を考える)で述べたように、なぜ、多くの被災者・遺族は労災認定をためらっているのだろうか。その原因を考えてみよう。

1つは、過労死した被災者の過重な労働時間や労働内容が、職場のなかではあたりまえの労働時間になっており、会社は勿論、同僚も、更には家族も、過労死・過労自殺との認識に至らないことが挙げられよう。外からみれば非常識な労働時間が、会社では常識の労働時間となっていることだ。

2つは、周囲の人たちが「善意」で労災認定手続を思いとどまらせることである。大切な人を失い、悲嘆のどん底にいる遺族に対し、家族・親戚も含めて、周囲の人たちが、労災認定という困難な手続をとることを「善意」で引き止めることもある。

3つは、労災認定されたときの補償額についての理解がないことである。
「過労死・過労自殺で業務上と認定(労災認定)されたときの補償額は」のブログで述べたように、労災認定されれば、厚生・基礎年金の遺族年金とあわせて労災の遺族補償年金が支給され、その額は、一家の大黒柱が亡くなる前とさして遜色のない額となる。

2016年10月21日 (金)

過労死・過労自殺の実際の件数を考える

平成27年度の脳・心臓疾患の過労死(死亡事案)の労災認定件数は96件、過労自殺(自殺未遂含む)は93件となっている。
しかし、この認定件数は、日本の過労死・過労自殺の実態を反映したものになっていない。

厚労省の平成22年度の人口動態調査によれば、60才未満の就業者の脳・心臓疾患での死亡者数は約9000人、一方、平成25年労働力調査によれば、週間就業時間35時間以上の雇用者のうち、月末1週間の労働時間が60時間を超える者は、男性は15%、女性は5%となっており、男性の雇用者数の方が多いことを考えると10数%となる。
このような統計結果から推測すると、過労死(死亡事案)は1000件を下まわることはあるまい。過労死(死亡事案)の認定件数は前記のとおり、平成27年度では96件であり、推定される過労死の件数の10分の1にも満たない。

また、警察庁による平成27年の自殺者の原因・動機詳細別の調査結果によれば、勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数(死亡)は2159件となっている。これに対し、過労自殺と認定された件数は前記のとおり93件に留まっている。

過労死・過労自殺と労災認定された事案の件数は、実際の推定件数と比較すると氷山の一角に過ぎない。

次のブログでは、なぜ、多くの遺族が、過労死・過労自殺の労災認定に踏み出さず、ましてや企業責任の追及の損害賠償請求に至らないままになっているのかを考えてみよう。

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