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2015年5月20日 (水)

てんかん重積死を過労死として認定した労働保険審査会の裁決

私が過労死として労災認定を得たもので、てんかんの重積発作による死亡につき、労働保険審査会が平成21年4月に業務上と判断した事案がある。

事件を担当してのち、てんかんの発作と長時間労働等業務の過重性について、2名のてんかんの専門医の意見を聞きに出向いたものの、いずれもデータがなく困難であると意見書の作成は断られてしまった。ワラをもつかむ思いでたどりついた3人目の医師に、ようやく検討してみましょうとの回答を頂いた。

被災者は50才代の交通誘導の警備員であったが、発症前の勤務状況は、発症直前の2月7日は、午前8時から午後5時までの日勤を終え、自宅で夕食を摂った後、午後8時から翌8日の午前5時までの夜勤を行い、それに引き続いて午前8時からの日勤に従事して午前12時頃発症したものである。それに遡り、同月2日は日勤から夜勤を行っており、夜勤明けの3日も夜勤を行い、これに引き続いて4日に日勤を行い、1月23日には日勤→夜勤、夜勤明けの同月24日は夜勤→日勤(25日)→夜勤→日勤(26日)を行っている。また、同月20日から同月22日にかけて、日勤→夜勤→日勤→夜勤の連続した勤務を行い、同月16日から17日も、日勤→夜勤→日勤の連続した勤務を行っていた。このような勤務により、発症前1か月(2月7日~1月9日)の時間外労働時間は102時間となっていた。
長時間・不規則・夜勤と業務による負荷要因が重なっていた。

審査会の裁決書は、てんかんの重積発作と業務との関係につき、「てんかん発作の誘引因子について、A医師は、睡眠不足、疲労があることは広く知られているとし、B医師も疲労時、睡眠不足時、体調不良時に起こりやすいとしており、C医師も、睡眠不足が考えられるとし、D医師も睡眠不足や過度の疲労等が知られているとしている。」としたうえ、「てんかんは、大脳のあらゆる疾患によって引き起こされているとされており、多くの場合はその誘因が不明確で偶発的に出現するとされている。このため、その出現は内因によるものとして、多くの場合業務との関連が認められることはない。しかし、各医師が指摘するように、睡眠不足が発作を誘発することは、医学的には古くから知られており、異常脳波を賦活する一方法として断眠がある。」としている。

そのうえで、「被災者の発症前2か月間の勤務は、実質的な休日は1日もなく、日勤から夜勤、更には日勤と熟睡の暇のない不規則な連続勤務が続き、加えて100時間を超える時間外労働を行い、一般的労働者にとっても極めて過重な業務であり、被災者は、明らかに業務による極度の睡眠不足からくる断眠に近い状態で疲労の蓄積があったものと認められ、このような睡眠不足・過労の状態が継続した直後に本件疾病を発症したものである。」として、被災者のてんかん重積発作による死亡を業務上と判断した。

労働者の健康障害や死亡と業務の過重性との関係で考え、それを裏づける医学的知見を得て、あきらめることなく取り組んだことによる成果だった。

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2015年5月13日 (水)

喘息死の過労死としての労災認定(2)
―長時間労働等、過重な業務のケース―

厚生労働省は、過重な長時間労働等により発症したり死亡した場合の認定基準としては、脳・心臓疾患と精神障害・自殺について定めています。
また、平成26年に制定された過労死等防止対策推進法も「過労死等」の定義として、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」としています。

しかし、裁判所の判例では過重な長時間労働のなかで生じた喘息死についても業務上としているものが少なくありません。
私が担当した大手パン製造会社の41才の物流係の担当者が、長時間・夜勤交代勤務のなかで、持病である喘息の症状が悪化し喘息死したケースにつき、東京地裁は業務上とし、東京高裁もこれを支持し確定しています。(東京地裁判決は判例タイムズ1358号113頁)
他にも過重な長時間労働のなかでの喘息死を業務上として認めた判決にはつぎのようなものがあります。

1 名古屋東労基署長(住友電設)事件
  1審 名古屋地裁 平成11年9月13日判決 労働判例776号8頁
  2審 名古屋高裁 平成14年3月15日判決 労働判例827号127頁
この事案は、電気設備工事技師として勤務していた当時42才の男性労働者が、自宅において就寝中に重篤な喘息発作を発症し、それによる呼吸不全で死亡したものです。

2 中央労基署長(新太平洋建設)事件
  1審 東京地裁 平成14年12月12日判決 労働判例845号57頁
  2審 東京高裁 平成15年9月30日判決 労働判例857号91頁
この事案は、建設会社で現場監督業務に従事していた当時30才の男性労働者が、通院した病院の受付で喘息発作を発症し、心不全により死亡したものです。

3 小樽労基署長(小樽中央自動車学校)事件
  1審 札幌地裁 平成20年3月21日判決 労働判例968号185頁
  2審 札幌高裁 平成21年1月30日判決 労働判例980号5頁
この事案は、自動車教習所の39才の教官が、過重な長時間労働により症状が増悪し喘息死したものです。

このように、判例は過重な長時間労働と喘息の症状の増悪、それによる喘息死との相当因果関係を認めています。
厚生労働省は、喘息死も「過労死等」のうちに位置づけして、認定基準を定め救済の対象とするべきです。

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