過労死事件での弁護士としての調査活動のある事例
会社が労働時間を適正に把握していれば、過労死した被災者の長時間労働は、タイムカードやIDカードの記録から明らかになり、過労死ラインを超えた長時間労働の立証に困難がともなうことはなかろう。弁護士として取り組む過労死事件の殆どは、会社が適正な労働時間の把握を怠っている事件だ。
労働時間について資料を一切残していない会社も少なくないし、自己申告制を採用している会社では過少な自己申告しかなされていない。
実際の労働時間をどのような資料で立証していくか。
事務系の仕事であればパソコンのシステムログ(起動・終了の記録)、ファイルのプロパティ(作成・更新・アクセス日時)など、被災者が使用していたパソコンの分析が大切だ。セコム等の警備記録、更には社内の監視カメラの映像もある。
タクシー・トラックの運転手であれば運転日報・タコグラフ(最近の電子タコグラフは詳細な運行情報が得られる)、営業マンであれば営業日報、営業車の使用記録、会社や顧客との携帯電話の通話、メール記録など。通勤に使っていた交通カードやETCの記録も参考になる。
これら客観的な資料とともに、可能ならば上司・同僚らからの被災者の勤務時間、勤務状況を聴取することは不可欠だ。被災者が亡くなって間もない時期なら、心ある上司・同僚らは事実を話してくれるだろう。
これら資料は全て会社という高い壁の向こうにあり、遺族が知り、入手できる資料は、会社の協力なくしては困難であろう。
その立証の高い壁を超える方法として、裁判所による証拠保全という方法がある。裁判所が会社に出向き、これら資料の提示を求める手続きだ。会社が隠したり、データが失われる前に早急に行うことが大切であり、早く弁護士に相談しよう。
私が過労死の証拠集めで最も印象に残っているのは、自動車メーカーの技術者が東南アジアに出張し技術開発をしていたときの労働時間についての資料だ。その国に出向くのは大変だし、出向いても言葉の違う関係者から話を聞くこともできない。
頭を抱えていたところに、打合せ時に遺族の奥さんが持参した文書から、一片の現地語で書かれた書類を見つけた。あれこれ考えると現地のレンタカーの記録。運転手付のレンタカーで、出張のため宿泊していたホテルに出迎えに行き、仕事を終えホテルに戻るまでの時間と、その時間に対応したレンタカー料金が記載されている。この記録があれば、現地でのホテルから出勤し、仕事を終えホテルに戻った時刻がわかり、それによって労働時間が推認できる。
この記録をどう入手するか、それが問題だ。
海外出張時の費用精算の書類は本社にあり、そのうちには海外出張時のレンタカー記録もあるはずと考えた。本社に海外出張時のレンタカー記録等の提示を求める証拠保全申立てをして、入手することができた。
この資料などに基づき被災者の過労死の労災認定を得ることができた。
現地の言葉もできないのにその国を訪ねても入手できなかったであろう貴重な資料を、日本の本社で証拠保全という方法を用いて容易に入手できたのだ。
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