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2015年3月27日 (金)

過労死事件での弁護士としての調査活動のある事例

会社が労働時間を適正に把握していれば、過労死した被災者の長時間労働は、タイムカードやIDカードの記録から明らかになり、過労死ラインを超えた長時間労働の立証に困難がともなうことはなかろう。弁護士として取り組む過労死事件の殆どは、会社が適正な労働時間の把握を怠っている事件だ。
労働時間について資料を一切残していない会社も少なくないし、自己申告制を採用している会社では過少な自己申告しかなされていない。
実際の労働時間をどのような資料で立証していくか。
事務系の仕事であればパソコンのシステムログ(起動・終了の記録)、ファイルのプロパティ(作成・更新・アクセス日時)など、被災者が使用していたパソコンの分析が大切だ。セコム等の警備記録、更には社内の監視カメラの映像もある。
タクシー・トラックの運転手であれば運転日報・タコグラフ(最近の電子タコグラフは詳細な運行情報が得られる)、営業マンであれば営業日報、営業車の使用記録、会社や顧客との携帯電話の通話、メール記録など。通勤に使っていた交通カードやETCの記録も参考になる。
これら客観的な資料とともに、可能ならば上司・同僚らからの被災者の勤務時間、勤務状況を聴取することは不可欠だ。被災者が亡くなって間もない時期なら、心ある上司・同僚らは事実を話してくれるだろう。
これら資料は全て会社という高い壁の向こうにあり、遺族が知り、入手できる資料は、会社の協力なくしては困難であろう。
その立証の高い壁を超える方法として、裁判所による証拠保全という方法がある。裁判所が会社に出向き、これら資料の提示を求める手続きだ。会社が隠したり、データが失われる前に早急に行うことが大切であり、早く弁護士に相談しよう。
私が過労死の証拠集めで最も印象に残っているのは、自動車メーカーの技術者が東南アジアに出張し技術開発をしていたときの労働時間についての資料だ。その国に出向くのは大変だし、出向いても言葉の違う関係者から話を聞くこともできない。
頭を抱えていたところに、打合せ時に遺族の奥さんが持参した文書から、一片の現地語で書かれた書類を見つけた。あれこれ考えると現地のレンタカーの記録。運転手付のレンタカーで、出張のため宿泊していたホテルに出迎えに行き、仕事を終えホテルに戻るまでの時間と、その時間に対応したレンタカー料金が記載されている。この記録があれば、現地でのホテルから出勤し、仕事を終えホテルに戻った時刻がわかり、それによって労働時間が推認できる。
この記録をどう入手するか、それが問題だ。
海外出張時の費用精算の書類は本社にあり、そのうちには海外出張時のレンタカー記録もあるはずと考えた。本社に海外出張時のレンタカー記録等の提示を求める証拠保全申立てをして、入手することができた。
この資料などに基づき被災者の過労死の労災認定を得ることができた。
現地の言葉もできないのにその国を訪ねても入手できなかったであろう貴重な資料を、日本の本社で証拠保全という方法を用いて容易に入手できたのだ。

2015年3月25日 (水)

過労死等の予防は適正な労働時間の把握なくしてはあり得ない―弁護士として過労死等の事件に取り組むなかでの所感②

労基法の遵守も、三六協定による時間外労働の限度時間の定めも、職場で労働時間が適正に把握されてこそ意味をもつ。労働時間が適正に把握されなければ労基法も三六協定も機能せず、過労死等防止の機能を果たさない。
私が担当したいくつかの事件について、被災者が自己申告した時間と、パソコン・警備記録等による実態としての時間を比較するとつぎのようになる。
(1)地銀のシステム開発担当行員(40才)の自殺(平成26年10月17日熊本地裁判決)
           自己申告    実態(パソコン等)
 H24年7月  34:30         109:48
       8月  38:30         129:45
       9月  60:30         168:16
(2)鉄道会社の総合職社員(28才)の自殺(平成27年3月20日大阪地裁判決)
           自己申告    実態(パソコン等)
 H24年3月  72:45         254:49
       4月  39:15         148:51
       5月  35:30         113:43
       6月  44:00         162:17
       7月  45:00         141:09
       8月  40:15         130:32
       9月  35:15         162:16
(3)ファミレス店長(25才)の過労死(平成26年12月8日山形地裁鶴岡支部和解)
             稼働計画    実態(警備記録)
 H22年10月  41:07         142:12
       11月  60:15         151:49
       12月  52:32         128:26
(4)新入の松山市職員の自殺(平成26年3月19日地方公務員災害補償基金愛媛県支部公務上認定)
             自己申告    実態(パソコン入力)
 H23年4月     4:30         37:05
       5月    18:30        57:48
       6月    21:20        68:07
       7月     3:00        65:02
       8月    11:00       121:15
いずれの事件も、会社は被災者の常軌を逸した長時間労働を認識、あるいは容易に認識しうるにも拘らず、何らの是正措置もとらないまま被災者は過労死等に至っている。
職場の労働時間把握体制の見直しと、その是正の検討が過労死等防止の基本だ。

2015年3月24日 (火)

JR西日本社員の過労自殺につき損害賠償責任を認める判決について―平成27年3月20日大阪地裁判決

28才の社員が常軌を逸した長時間労働に従事するなか自殺に至った事件につき、大阪地裁は、JR西日本に全面的な責任を認める判決を下した。原告の代理人としてこの事件に関与した者としての意見を述べよう。

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自殺に至る前の社員の自己申告による労働時間と、パソコン等客観的な資料等に基づき訴訟において会社も認めた労働時間は、つぎのように大きく食い違っていた。
            業務計画表   勤務実態調査
  平成24年9月    35:15      162:16
         8月    40:15      130:32
         7月    45:00      141:09
         6月    44:00      162:17
         5月    35:30      113:43
         4月    39:15      148:51
         3月    72:45      254:49
         2月    59:30      140:38
         1月    52:15      114:31
社員の労働時間を適正に把握する体制を構築したうえで、社員の健康を損ねることのないよう労働時間管理をすることは、使用者としての当然の責務だ。
判決は、JR西日本においては「労働時間把握体制の徹底を怠り、そのためA(被災者)の労働時間が正確に把握されず、その結果、Aの時間外労働が適正な範囲を大きく超えていたにもかかわらず、何らの措置も講じられなかったと認められる」として、その責任を認めている。
過労死・過労自殺の背景には、必ずと言って良いほど労働時間の適正な把握がなされていない実態があり、それが社員の労働時間管理という社内の最も重要なコンプライアンス(法令遵守)を機能しないものにしている。
仮に、社内でいかに労基法の遵守や、三六協定に従った時間外労働を徹底しようとも、労働時間の適正な把握なしには、労基法も三六協定も画餅にすぎない。
JR西日本のこの事件は、社内体制としての労働時間把握体制の欠如が、過労死や過労自殺を生じさせる重要な原因であり、その是正が過労死等の防止のための基本条件であることを示している。

 

2015年3月19日 (木)

労働時間の適正な把握なしには過労死・過労自殺は予防できない―弁護士として過労死・過労自殺事件に取り組むなかでの所感①

過労死等防止対策推進法が、平成26年6月に全会派の満場一致で成立し、同年11月に施行された。
弁護士として過労死・過労自殺事件に取り組むなか、過労死等を生じる職場の要因は労基法違反、即ち会社の門前には「労基法立ち入るべからず」の立札が立てられているような職場の状況にあると考えていた。
しかし、過労死を生み出す長時間労働を防止できない大きな問題が労基法にはあることがわかった。
労使合意により時間外労働・休日労働の限度時間を定める労基法36条が、かえって長時間労働を容認するものとなっていることだ。特別条項を定めれば、過労死ラインである時間外労働が月80時間や月100時間、それを上まわる時間外労働が認められるということだ。労使合意で心身の健康を損ねることのないような適正な労働時間にとどめようとの労基法36条の定めが、かえって過労死ラインを超える長時間労働を生じさせている。しかも労使合意の下にだ。
私が情報公開請求で最近の大阪府下の主要な会社の本社における三六協定を調査したところ、過半数の会社において、過労死ラインである月80時間までの時間外労働を認める特別条項を定めている。平成20年度にも私は同様の三六協定の情報公開請求をしたが、概ね同様の結果であり改善は立ち遅れている。
過労死・過労自殺を予防するためには、
・労基法の遵守
・過労死ラインを超える労使による三六協定の見直し
が大切だ。
しかし、それ以上に大切な問題がある。それについては後日所感②において述べてみたい。

2015年3月 9日 (月)

堺市立中学の「熱血先生」の過労死の公務災害認定

私が代理人として担当した、平成23年6月虚血性心疾患で亡くなった故前田大仁先生の過労死につき、地方公務員災害補償基金大阪府支部長は平成26年11月付けで公務上と認定した。この件については、朝日新聞が平成27年3月3日の社会面トップで報道している。                                                   

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赴任2年目の26才の青年教師として、クラス担任、理科の教科担当、多くの校務分掌に加え、女子バレーボール部の顧問として、休日もバレーボール部の部練や試合で休む間もなく勤務を続けてきた。自宅に戻っても、バレーボール部のクラブノートへの赤ペンでの部員への励ましや、ていねいな指導、毎週のように発行する学級通信、プリント授業のプリント作成に追われていた。
地公災支部長は、校内での勤務時間は過労死認定のラインとされている月80時間を下まわる月60時間としたものの、自宅での持ち帰りの業務の時間を付加要因として総合的に評価すれば公務上と判断できるとした。
地公災は従前教師の自宅での持ち帰り残業については、上司の不在の下で任意の時間で任意の方法によりなされるものだとして、その過重性を否定することが多かった。しかし、故前田先生の残したクラブノートや学級通信、授業用プリント等から自宅での作業の過重性を認め正当な判断に至っている。
教師の在職死亡や、長期のメンタル休業の背後にある教師の業務の多忙化を是正し、教師が生徒と向かいあえる充分な時間を確保することは、教師の勤務条件の改善、そして何よりも生徒たちの心身の能力を発達させる良き教育を進めるために不可欠と言えよう。

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