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2015年1月15日 (木)

教師の過労死の公務上認定と勤務条件改善

全国で多くの教師の過労死・過労自殺についての公務上認定の取り組みがなされている。
私が代理人となり担当した事案のみでも、
・堺市立小学校教師の過労死(大阪高裁で公務上認定)
・堺市立中学校教師の過労自殺(大阪地裁で公務上認定)
・宮崎県の公立中学校教師の過労死(地公災本部審査会で公務上認定)
・堺市立中学校教師の過労死(地公災大阪府支部で公務上認定)
・岡山県の公立中学校教師の過労死(地公災岡山県支部審査会で公務上認定)

教師の過労死事案では、とりわけ基金支部長への認定請求手続段階での取り組みの充実が大切である。
時間外勤務(発症前1か月には週当たり平均25時間、発症前1か月を超える期間(6か月間)については週当たり平均20時間以上の連続)を立証するには、所属長である校長が、「発症前の被災職員の勤務状況・生活状況調査票」に被災職員の時間外勤務の実態を反映させることが不可欠であることは言うまでもない。
始業時刻前の前残業時間、所定の休憩時間がとれない分(給食時間は給食指導時間であり、勤務時間であるのは当然である)の残業時間、校内での居残りの残業時間については所属長(校長)が基金支部に提出する勤務状況・生活状況調査票に、同僚の先生方と協力して調査したうえ、その勤務時間を漏れなく反映させることが大切である。
また、教師が日常的に余儀なくされている持ち帰り残業時間をどれだけ立証できるかが多くの教師の事案の認定のポイントになる。家族が記憶している自宅での残業時間、その業務内容と成果物(授業準備、テスト作成、採点等)との対応関係について説得力のある時間表等を作成する必要がある。時間表の作成にあたっては、家族の記憶と、持ち帰りしていた業務と、それに要する時間数との対応関係にも留意することが大切である。

文部科学省は平成18年に教師の勤務実態調査をしている。
この実態調査報告書による各期の校内残業時間及び持ち帰り残業時間を見ると次の通りである(但し、夏期休暇にかかる第2期は除外する)。
【勤務日】 校内残業時間  持ち帰り時間   計
 第1期    1:49       0:47     2:36
 第3期    1:37       0:30     2:07
 第4期    1:43       0:34     2:17
 第5期    1:41       0:33     2:14
 第6期    1:36       0:38     2:14
 各期平均  1:41       0:36     2:17

【休 日】 校内残業時間  持ち帰り時間    計
 第1期    0:28       2:18     2:46
 第3期    0:16       1:23     1:39
 第4期    0:22       1:25     1:47
 第5期    0:21       1:20     1:41
 第6期    0:20       1:53     2:13
 各期平均  0:21       1:39     2:01

この調査から明らかなことは、教員は恒常的、継続的に校内残業および持ち帰り残業を行っており、その残業時間の合計時間は各期(夏期休業期という特殊性を有する第2期は除く)の平均で1週間当り、
  2:17×5(日)+2:01×2(日)=15:27
に及んでいることである。
地公災の過労死の認定基準は週当り20時間程度の時間外勤務としているが、その時間に及ばないものの、それに近接した時間外勤務となっている。
そして、この調査においては、8時始業、17時終業として、その時間(すなわち9時間)以外の時間を時間外労働としているが、教師は、正規の勤務時間中に殆ど休憩時間、休息時間を取れていないのであって、このうち8時間を超える1時間については、時間外労働時間に算入されるべき時間である。
したがって、各期の平均を基準にしても、
  15:27+(1時間×5日)=20:27
が時間外労働時間となり、地公災の基準をも超えているのである。
一般の教師の勤務時間そのものが過労死ラインを超えているという実態をベースにした主張も重要である。
なお、地公災は持ち帰りの仕事は任命権者の支配管理下になく自己のペースで行うことができるとして、その過重性を否定しているが、判例は、「自宅における公務の遂行を学校内におけるその遂行と別異に解するべき合理的理由はない」として、教師の過労死を公務上と認めた判決はほぼ例外なく、校内・校外を問わずその勤務の過重性を等しく認めている。
教師の過労死は、過重な業務の実態を事実をもって示している。学校現場の「在職死亡」を業務との関連で調査したうえ「公務上死亡」として位置づける取り組みが、勤務条件の改善とともに重要である。

2015年1月14日 (水)

過労死防止への課題

【労働時間の適正把握なくして過労死防止なし】
昨年過労死等防止対策推進法が過労死・過労自殺の遺族を中心とした運動で制定された。
過労死防止のため最大の課題は何か、過労死事件に多く取り組むなかで得た私の結論は、『労働時間の適正把握なくして過労死防止なし』である。私が最近担当した実例に基づいて考えてみよう。(注;時間はいずれも時間外労働時間)

【九州の地方銀行のシステム開発を担当していた銀行員(40才)の自殺】
3人の幼い子を残して投身自殺している。多くの過労自殺の被災者がそうであるように、うつ病を発病したのち、遺書には過酷な長時間労働に従事させた銀行への怒りはなく、かえって銀行・上司に謝りながら自殺に至っている。発病・自殺前の勤務時間は、
              自己申告      実態(パソコン等)
H24年7月   34:30      109:48
         8月   38:30      129:45
         9月   60:30      168:16
となっている。

【鉄道会社の総合職社員(28才)の自殺】
この事案についても、
               自己申告   実態(パソコン等)
H24年3月   72:45      254:49
         4月   39:15      148:51
         5月   35:30      113:43
         6月   44:00      162:17
         7月   45:00      141:09
         8月   40:15      130:32
         9月   35:15      162:16
となっている。

【ファミレス店長代行(25才)の過労死】
勤務予定である稼働計画は絶対性を有するとの社長の指示の下で、IDカードを稼働計画に従って打刻していた若年の店長代行については、
               稼働計画    実態(警備記録)
H22年10月   41:07      142:12
         11月   60:15      151:49
         12月   52:32      128:26
となっている。

【過労死防止の大切な第1歩)】
過労死・過労自殺の背景には必ずと言ってよいほど、社内で労働時間が適正に把握されず、自己申告と実態としての労働時間に著しい食い違いが生じている。
過労死を担当する弁護士としてはこの「隠れた」労働時間をいかに明らかにするかに力の多くを費やすことになる。また、実務としての長時間労働が把握されていない現場では、長時間労働により労働者の心身の健康を損なわないようにするためのコンプライアンス(法令遵守)が機能しない。
過労死防止の第1歩は労働時間の適正把握から始めなくてはならない。

2015年1月 7日 (水)

何が久人さんを過労死させたのか

ファミリーレストラン「まるまつ」酒田店店長代行をしていた五十嵐久人さん(死亡当時25才)が過労死した事件で、山形地裁鶴岡支部で同店を経営していた「カルラ」(本社宮城県)との間に平成26年12月8日和解が成立しました。会社が労働時間や健康管理に不備があったことを認め謝罪し、原告であるご両親に弔慰金を支払うほぼ完全勝訴の内容の和解です。私の事務所のある大阪から山形県鶴岡市まで度々通った感慨深い事件の1つでした。
ご両親の知人、友人らが「道の会」という裁判支援の会をつくり、過労死防止法制定のための署名や、ご両親の地元の三川町や鶴岡市、酒田市等の町・市議会で制定のための意見書を国会に提出する運動に尽力してきました。
「道の会」を解散するにあたり寄稿した文を紹介します。

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              何が久人さんを過労死させたのか

                               過労死弁護団全国連絡会議代表幹事
                                      弁護士  松  丸     正

1 久人さんの過労死
 株式会社カルラは「和風レストランまるまつ」等の外食店舗を東北・北関東地区において経営する会社です。
 故五十嵐久人さん(死亡時25才)は、大学を卒業したのち平成21年4月にカルラに就職し、同年3月23日より「和風レストランまるまつ酒田店」で店員として勤務を開始しました。平成22年3月1日には入社1年もたたずして店長代行に昇進し、まるまつ酒田店の営業の責任者となっています。
 久人さんは平成23年2月に会社より栃木県内の24時間営業の店舗への転勤を求められましたが、今まで以上に過重な業務となることや、自宅のある山形を離れたくなかったことから、同年3月15日付けで退職することとし、同年2月22日以降は有給休暇を使い就労していませんでした。
 しかし、久人さんは平成23年3月21日午前5時ころ、自宅において心筋梗塞(死亡診断書上の直接死因の病名)を発症し亡くなったのです。

2 久人さんの労働時間
 会社が把握していた久人さんの時間外労働時間は、
  発症前1ヵ月目 0時間
   〃 2ヵ月目 14時間
   〃 3ヵ月目 28時間
   〃 4ヵ月目 52時間
   〃 5ヵ月目 60時間
   〃 6ヵ月目 41時間
でした。
 しかし、裁判のなかで明らかになった警備記録等に基づく実際の時間外労働時間は、
  発症前1ヵ月目 14時間
   〃 2ヵ月目 112時間
   〃 3ヵ月目 142時間
   〃 4ヵ月目 170時間
   〃 5ヵ月目 193時間
   〃 6ヵ月目 180時間
でした。
 厚生労働省が定めた過労死の認定基準は、月80時間の時間外労働を過労死ラインとしていますが、久人さんの発症前の時間外労働はその2倍あるいはそれ以上の常軌を逸した長時間労働でした。

3 社長の「稼働計画は絶対」との命令の下で「偽造」された労働時間
 なぜ、会社が把握した労働時間と実際の労働時間との間に著しい食い違いが生じたのでしょうか。
 この会社の社長は「稼働計画は絶対」との下に、社員に対し「稼働計画」=勤務予定にあわせてタイムカード(IDカード)の打刻をすることを命令し、社内報でもその徹底を指示していました。
 タイムカードは実際の出・退勤にあわせて打刻するのが当然ですが、この会社では稼働計画にあわせて打刻することを社員に強制し、稼働計画に組み込まれた時間外労働時間のみを時間外労働として把握していたのです。稼働計画にあわせたタイムカードの打刻により虚偽の労働時間がつくられていたと言っても過言ではありません。労働時間を適正に把握することにより長時間労働が生じないようにして社員の心身の健康を守ろうとする姿勢は、この会社には認められませんでした。
 久人さんの過労死に限らず、過労死や過労自殺の背後には、このような会社による労働時間の適正把握の懈怠があります。

4 実際の労働時間を明らかにするなかでの和解成立
 裁判のなかでの弁護団の立証は、隠された労働時間を警備記録という嘘のない客観的な記録をもって明らかにすることに注力しました。
 また、発症前1ヵ月間は久人さんは会社を退職することにして仕事をしていなかったので、発症前2ヵ月目以前の長時間労働と発症との相当因果関係を明らかにすることも重要な争点でした。
 久人さんの事件は、2年間の裁判を経て平成26年12月8日裁判上の和解が成立しました。成立にあたり裁判長は、原告であるご両親に対し久人さんが亡くなったことについて哀悼の意を述べるとともに、被告のカルラに対しては社員の労働時間並びに健康管理に尽力するようにとの言葉を添えていたのが印象的でした。

5 若者が夢をおいかけ生き生き暮らせる社会であってほしい
 久人さんは亡くなる1ヵ月程前、あまりに過酷な勤務に耐えかねて母親の照子さんに、「お母さん見ていて分かると思うけど、今の仕事やめるかも」と話し、退職を決めています。
照子さんは新聞の読者のページにこのことを投書しましたが、その投書が掲載された翌日に久人さんは帰らぬ人になっています。その投書は「早くやめた方がいいよともいえず見守る親もつらい。若者が夢をおいかけ生き生き暮らせる社会であってほしい」と結ばれています。
 「道の会」による自治体の意見書提出の運動の力もあって、過労死等防止対策推進法が成立しました。過労死防止元年と言える今、久人さんのような悲しい出来事が起きることがないよう、過労死防止への「道」を広く踏み固めていきましょう。

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