教師の過労死の公務上認定と勤務条件改善
全国で多くの教師の過労死・過労自殺についての公務上認定の取り組みがなされている。
私が代理人となり担当した事案のみでも、
・堺市立小学校教師の過労死(大阪高裁で公務上認定)
・堺市立中学校教師の過労自殺(大阪地裁で公務上認定)
・宮崎県の公立中学校教師の過労死(地公災本部審査会で公務上認定)
・堺市立中学校教師の過労死(地公災大阪府支部で公務上認定)
・岡山県の公立中学校教師の過労死(地公災岡山県支部審査会で公務上認定)
教師の過労死事案では、とりわけ基金支部長への認定請求手続段階での取り組みの充実が大切である。
時間外勤務(発症前1か月には週当たり平均25時間、発症前1か月を超える期間(6か月間)については週当たり平均20時間以上の連続)を立証するには、所属長である校長が、「発症前の被災職員の勤務状況・生活状況調査票」に被災職員の時間外勤務の実態を反映させることが不可欠であることは言うまでもない。
始業時刻前の前残業時間、所定の休憩時間がとれない分(給食時間は給食指導時間であり、勤務時間であるのは当然である)の残業時間、校内での居残りの残業時間については所属長(校長)が基金支部に提出する勤務状況・生活状況調査票に、同僚の先生方と協力して調査したうえ、その勤務時間を漏れなく反映させることが大切である。
また、教師が日常的に余儀なくされている持ち帰り残業時間をどれだけ立証できるかが多くの教師の事案の認定のポイントになる。家族が記憶している自宅での残業時間、その業務内容と成果物(授業準備、テスト作成、採点等)との対応関係について説得力のある時間表等を作成する必要がある。時間表の作成にあたっては、家族の記憶と、持ち帰りしていた業務と、それに要する時間数との対応関係にも留意することが大切である。
文部科学省は平成18年に教師の勤務実態調査をしている。
この実態調査報告書による各期の校内残業時間及び持ち帰り残業時間を見ると次の通りである(但し、夏期休暇にかかる第2期は除外する)。
【勤務日】 校内残業時間 持ち帰り時間 計
第1期 1:49 0:47 2:36
第3期 1:37 0:30 2:07
第4期 1:43 0:34 2:17
第5期 1:41 0:33 2:14
第6期 1:36 0:38 2:14
各期平均 1:41 0:36 2:17
【休 日】 校内残業時間 持ち帰り時間 計
第1期 0:28 2:18 2:46
第3期 0:16 1:23 1:39
第4期 0:22 1:25 1:47
第5期 0:21 1:20 1:41
第6期 0:20 1:53 2:13
各期平均 0:21 1:39 2:01
この調査から明らかなことは、教員は恒常的、継続的に校内残業および持ち帰り残業を行っており、その残業時間の合計時間は各期(夏期休業期という特殊性を有する第2期は除く)の平均で1週間当り、
2:17×5(日)+2:01×2(日)=15:27
に及んでいることである。
地公災の過労死の認定基準は週当り20時間程度の時間外勤務としているが、その時間に及ばないものの、それに近接した時間外勤務となっている。
そして、この調査においては、8時始業、17時終業として、その時間(すなわち9時間)以外の時間を時間外労働としているが、教師は、正規の勤務時間中に殆ど休憩時間、休息時間を取れていないのであって、このうち8時間を超える1時間については、時間外労働時間に算入されるべき時間である。
したがって、各期の平均を基準にしても、
15:27+(1時間×5日)=20:27
が時間外労働時間となり、地公災の基準をも超えているのである。
一般の教師の勤務時間そのものが過労死ラインを超えているという実態をベースにした主張も重要である。
なお、地公災は持ち帰りの仕事は任命権者の支配管理下になく自己のペースで行うことができるとして、その過重性を否定しているが、判例は、「自宅における公務の遂行を学校内におけるその遂行と別異に解するべき合理的理由はない」として、教師の過労死を公務上と認めた判決はほぼ例外なく、校内・校外を問わずその勤務の過重性を等しく認めている。
教師の過労死は、過重な業務の実態を事実をもって示している。学校現場の「在職死亡」を業務との関連で調査したうえ「公務上死亡」として位置づける取り組みが、勤務条件の改善とともに重要である。
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