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« 地方公務員災害補償基金についての『季刊教育法』での特集 | トップページ | 何が久人さんを過労死させたのか »

2014年1月 9日 (木)

社長らトップの個人責任と、就活情報からみた大庄日本海庄や過労死事件

1 新卒就職後4ヵ月目の過労死
東証一部上場企業である大庄が経営する日本海庄や石山駅店に、大学を卒業し正社員として平成19年4月1日から勤務していた故吹上元康さん(当時24才)が、入社してわずか4ヵ月にして心機能不全で死亡した。
元康さんの労働時間は、「死亡前の1か月間では、総労働時間約245時間、時間外労働時間数約103時間、2か月目では、総労働時間約284時間、時間外労働時間数約116時間、3か月目では、総労働時間約314時間、時間外労働時間数約141時間、4か月目では、総労働時間約261時間、時間外労働時間数約88時間となっており、恒常的な長時間労働となっていた」(地裁判決の認定)。
弁護団は大津労基署長に対し、業務上の死亡として遺族補償給付等の支給請求を行い、平成20年12月10日付けで業務上として支給決定が下された。

2 京都地裁への大庄、更に取締役に対する損害賠償請求
元康さんの父母は、同年12月22日に大庄のみに対する損害賠償請求を提訴した。
しかし、元康さんの命を奪った責任は、長時間労働を前提とする賃金体系や三六協定をつくりあげたトップにあり、この取締役の責任を抜きにしてこの過労死事件を語ることはできない。翌21年1月8日に会社法429条1項に基づき代表取締役社長並びに当時管理本部長、店舗本部長、第1支社長であった取締役3名の計4名を被告とする訴訟を追加提訴し、大庄を被告とする事件と併合して審理することになった。

3 社長らを被告に加えた理由
会社法429条1項(旧商法266条の3)は、取締役がその業務の執行を行うにつき、悪意又は重大な過失により第三者(労働者も含まれる)に損害を与えたときは、取締役は個人としてもその責任を負うことを定めている。
大庄事件以前にも、過労死の損害賠償請求事件でこの条文に基づき、会社のみでなく社長ら取締役の責任を追及する訴訟は、大阪を中心に少なからず取り組まれ勝訴判決を得てきた。しかし、これらの訴訟で取締役を被告に加えた理由の多くは、会社が小規模なため勝訴した場合においてもその支払い能力がなく、損害が填補されないおそれがあることにあった。
大庄は東証一部上場企業であり、そのおそれはなかったが、社長らを被告にした理由は、過労死を生み出す社内体制を構築したトップの責任を明らかにする、それにより過労死を防止する社内体制を構築させることであった。

4 大庄の賃金・労働時間体制
大庄では新卒一般の初任給は当時月194,500円とされていたが、基本給123,200円、役割給71,300円とされており、役割給は月80時間の時間外労働分の賃金とされていた。
月80時間の時間外労働は過労死ライン(厚労省の過労死の認定基準では発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間に月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるときは原則として業務上と判断される)である。
心身の健康を損ねるおそれのある長時間労働が元康さんら社員の「役割」として賃金体系上位置づけられていた。
三六協定は特別条項で時間外労働を「1ヵ月100時間(回数6回)」を限度として延長することができると定められていた。
このような賃金・労働時間体制の下、社員は元康さんの勤務していた石山駅店のみならず、他の店舗においても過労死ラインを超えて働くことが常態化していることを、裁判で明らかにしていった。

5 京都地裁、大阪高裁の判決
京都地裁判決は平成22年5月25日「恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提とした一見して不合理であることが明らかな労働時間(三六協定)・賃金体系の体制」をとっていたとして、大庄のみならずその社長ら取締役4名の個人責任(会社法429条1項の責任)を認める判決を下した。
これに対し被告らは大阪高裁に控訴し、会社側は三六協定や賃金体系につき、「その体制は経営判断事項であり、労災認定上の基準時間はその一要素にとどまる。」としたうえ、どのような体制をつくるかは、「経営判断事項にあたり、労災認定上の基準時間は経営判断における裁量権限の行使が著しく不合理とは言えないかどうかを判断するにあたって、検討の一要素である社会情勢等の一事情になるにすぎない。」と言い放った。同時に同業他社の三六協定(例えば、ワタミフードサービスの特別条項は月120時間)を提出し、外食産業の三六協定では過労死ラインを超えた時間外労働があたりまえとなっていることを主張した。
大阪高裁は平成23年5月25日に控訴棄却の判決を下した。
高裁判決は「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である。」と判示した。
過労死ラインを超える労働時間、賃金体系をとるか否かは経営判断とする会社側の主張に対し、労働者の生命・健康は至高の法益として、誠実な経営者であれば長時間労働による過重労働を抑制するのが当然の責務としたこの判決は、大庄のみならず過労死ラインを超える三六協定や賃金体系をとっている企業に対する大きな警鐘を打ち鳴らしたものと言えよう。

6 最高裁の上告棄却、上告不受理決定
大庄と社長ら取締役は、最高裁に上告並びに上告受理申立を行った。上告受理申立理由書はつぎの言葉で結ばれている。
「高い志を持った従業員を大切に育てたい、やる気を持ち続けてほしいという思いから、申立人会社では『社員が幸せでなければ会社とは言わない』という大原則に基づき、『親が子どもに与えるような見返りを求めない愛』を従業員らに与え、従業員らが来店したお客様に愛を与えていくという『愛の経営』を目指して実践してきた。そして、志の高い従業員のためのインセンティブとして『大庄8大制度』(ストックオプション制度、従業員持株制度、所得倍増制度、持家(住宅資金融資)制度、独立制度、持店(ダブル・インカム)制度、執行役員制度、Uターン独立制度)を整備・実施し、福利厚生にも力を入れている。
志が高く向上心が強い申立人会社の従業員たちの中には、早く自らの技術を向上させたいがために、日夜研鑽に励む者もいる。しかし、申立人会社では、そういった従業員たちのやる気を尊重しつつも、健康であることや健全な家庭を築くことも申立人会社の従業員として、また将来の起業家として重要であるという考えから、過重労働に陥ることのないよう各店舗の状況に応じて法定時間以上の休憩時間を確保し、従業員らは仮眠を取ることもできていた。勤務のあり方については店長から個別に注意を促したり、細かい心配りをし、適宜休みを取らせるなどの柔軟な対応によって従業員の健康管理にも心を尽くしてきた。
このように、従業員らを何よりも大切にしてきた申立人会社にとって、原審の認定は極めて心外であり、御庁による是正を心から願うものである。」
最高裁は平成25年9月24日付けで、上告棄却・上告不受理決定を下している。
親が子どもに与えるような見返りを求めない「愛の経営」、志の高い従業員のためのインセンティブとしての「大庄8大制度」の「夢の経営」との言葉の下で、恒常的長時間労働が全社的に常態化する社内体制がつくられてきたことを、この事件は明らかにすることができたと言えよう。

7 過労死防止をトップに突きつけた裁判
現在、過労死防止基本法の制定を求める運動の下、同法の制定に向け国会で議連が制定され、法案上程への動きが高まっている。また、若者の労働現場を中心とした「ブラック企業」問題が社会的に注目を浴びている。社長ら取締役にも厳しく、その個人責任を指摘した地裁・高裁判決、並びに上告棄却・上告不受理決定は、過労死ラインを無視した賃金体系や三六協定による労務管理を行っている多くの会社のトップ(取締役)に対し、その個人責任を明確にすることにより、その是正措置をなすべきことを突きつけたものと言えよう。

8 就活情報の問題点
元康さんが就職をした平成19年4月当時の大庄の就活情報によれば、初任給は194,500円と記載されたのみで、そのうちには月80時間分の時間外労働分に相当する役割給71,300円が含まれていることは記載されていなかった。就活情報(日経ナビ)には初任給は「残業代別途支給」として記載されていた。
大庄の就活情報における労働条件についての非開示は現在も継続している。
「就職四季報2014年版」(東洋経済新報社刊)によれば、「3年後離職率」「有休消化年平均」「初任給」「ボーナス」「年令別最高最低賃金」「有休消化」「平均勤続年数」「月平均残業時間と支給額」「離職率と離職者数」は全て「NA」(ノーアンサー)となっており、開示率は最低の星マーク1つとなっている。
正しい就活情報を開示させることは、学生の就活にとって不可欠であるとともに、社員の労働条件の改善にも重要性を有する課題である。厚労省は来年度からハローワークを通じ大学生・院生を採用する企業に、離職率についての公表を任意であるが求めるとしている。就活生が、企業の労働条件につき就活時に質問することは困難であり、かつ労働条件についての情報は就活生にとって重要な事項であることを考えると、離職率のみならず、「就職四季報」に記載される全ての情報につき開示することを義務づけるべきであり、その旨の職業安定法の改正も求められる。

9 社長ら役員らによる会社に対する賠償金の支払い
大庄が平成25年11月28日に関東財務局長に提出した有価証券報告書は、「重要な後発事象」として、
「当社及び当社役員4名は、当社元従業員が平成19年8月に自宅で心臓性突然死したことに関し、遺族より、損害賠償金の支払いを求める訴訟を提起され、平成22年5月に京都地方裁判所より、損害賠償金78百万円及び遅延損害金の支払いを命ずる判決が下されました。また、平成23年5月に大阪高等裁判所より、当社らの控訴を棄却する判決が下され、平成25年9月に最高裁判所において、当社らの上告を棄却する決定がなされました。
この役員個人の責任も認めた最高裁判所の決定を重く受けとめ、当社は損害賠償金及び遅延損害金の合計額102百万円につき、平成25年11月20日の臨時取締役会において当該役員個人が全額負担することを決定し、当該役員もこれを了承しております。
この結果、本件訴訟に対して計上していた訴訟損失引当金78百万円は翌連結会計年度において取り崩すこととし、特別利益に計上する予定であります。」
と記載されている。
損害賠償金の支払いにつき社長ら役員個人に全額負担させたことは、過労死・過労自殺事件についてのトップの責任を明確にさせ、労働条件についての社内のコンプライアンス(法令遵守)を自覚させるという結果をもたらすことに期待したい。

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